いざ
シオンの魔法の杖のメンテナスが終わった次の日。
「行こうか」
「はいですの」
僕たちは完全武装の状態で迷宮の入り口の前へと立っていた。
これから、自分たちが目指すのは25階層の攻略である。
現在、攻略されている最も深い階層が最近更新されて29階層。これから30階層を目指して頑張ろうという時であり、25階層はその前哨基地とされている地だ。
5の倍数の階層はボス部屋が広いため、前哨基地に最適。一回倒したボスを倒した部屋に誰かしらずっと一人は居続けることによって更新を防ぐことで安全地帯とする……そんな前線基地に行くのが今回の僕たちの目標である。
自分も、シオンも成長期。
迷宮都市アネッロに来てからも地道に成長を続け、強くなっているが、今はまだ最下層にまで行ける実力ではない。
かつての場では僕が途中から単独で魔王と戦い、その力を見せたが、あの場には前哨基地を利用しているようなレベルの人間はいなかった。
僕たちはまだまだであり、一旦、25階層に来ればそこから下へと行くのは難しいだろう。
「目標は25階層の前哨基地っ!前々から言っていた通りだね」
「わかっていますの。ずっと言ってましたから。それで?最初の目標である25階層に行ったらどうするんですの?」
「どうしようかねぇ……また、別のところに行くのもありだし、50階層まで粘ってみるのもありかなぁ、とは思っている」
「粘れますの?というか、行けますの?」
「ん?行けると思うよぉ?でも、まだ無理。数年後かなぁ」
「そうですの……とりあえず、私はただティエラについていきますわ」
「そう?ありがとう。でも、シオンも希望があればどんどん言ってね?」
「はいですの」
「まぁ、とりあえず中に入ろうか」
迷宮に入る前から雑談に花を咲かせていた僕たちはようやく中へと入っていく。
「ふぅー」
地上と比べて、一気に空気が重くなった迷宮第24階層。
「最近出来るようになった魔法も試してみたいんだよねっ」
そんなところに足を踏み入れる中、僕は一切迷うことなく、早速魔法を発動させる。
自分が発動させた魔法、それはマイナー中のマイナー魔法。
召喚魔法である。
前世のゲームとかでは割とあるあるの魔法な気がするが、この世界ではマイナーな魔法である。
「おー、出来ましたの」
マイナーな理由は純粋にその発動難易度が高いからだろう。
僕が召喚魔法を成功させたのを見て、シオンが純粋に驚いているところかもさもありなん。
「ふふんっ、とはいえ、呼んでいるのはそこまで強くない子だけど」
そして、それによって得られる効果もしょっぱいのが理由だろう。
基本的に召喚魔法では自分より強いものを召喚することは出来ない。
召喚魔法の原理としては、力で、強引に他を押さえつけて自分の元に呼び出すという無茶苦茶なものなのだ。召喚された方は召喚主への従属権を持たれているからね。
己よりも格上を呼び出せるなんて、召喚主によほどの魅力がない限り不可能である。
自分よりも格下を呼び出せるという魔法を誰が使うのか?誰も使わない。
というわけで、召喚魔法はずっとマイナー魔法なのである。
「それでも、ちゃんと使い道は考えてあるんでしょう?」
自分の周りにふよふよと浮いている拳くらいの大きさを持った火の玉、人魂を興味深そうに眺めながら、シオンは疑問の声をあげる。
「まぁねー、僕の良さってやっぱり何でも出来る万能性だと思うから。ここまで来たら本当にすべてを極めちゃおうと思って。やっぱり僕が死ぬほど器用なのか、召喚魔法の方も一週間くらいで基礎的なものは出来るようになったし、このまま器用貧乏極めようかとね」
「ティエラまで来たら、もう器用富豪とも呼べるレベルですわ」
「そう?」
異世界のレオナルドダヴィンチでも目指そうかな?
……普通におこがましいな、うん。
「それで、この召喚した子の使い道だけど……宿れ」
僕が召喚した子。
それはこの世界に存在している魔物の一体であり、他人ヘと取り憑くことが出来る。
基本的には取り憑いて悪さをするのがこの魔物であるが、その性質を応用すると、取り憑いた相手を強化することも可能だ。
そんな魔物を宿らせた僕はシオンの前でくるりと一回転。
「僕は召喚魔法を己のバフの一つに使うつもりなのさ。どこまで行っても、自分の単体性能を上げるのが一番だと思ったからね」
「なるほどですの」
「それで?見た目は何か変わっている?」
人魂に憑いてもらったわけだが、僕の見た目は何か変わっているのだろうか?
「……目が」
「目?」
「そうですの……ちょっと、片目が赤く輝いていますわ」
「おぉ、何それ。カッコ良さそうな見た目になっているじゃん」
「か、かっこいい……ですのよ?」
「おぉー、いいじゃんいいじゃん」
中二病的な変化はドンとこいである。
それに、自分の体が強化されているような感覚もしっかりとある。
割といい感じかな?
「よし、それじゃあ……そろそろ行こうか、僕の準備も終わったことだし」
「そうですわね。今日一日で終わらせますわ」
「そうだねっ……それじゃあ、いざっ!」
完全に戦闘態勢へと入った僕たちは慎重に、警戒心を持ってダンジョンの中を進んでいくのだった。
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