恋愛

 ティエラとレトンの二人が夕食として作った晩飯のハンバーグを食べた後。


「それじゃあ、シオンはいつものようにお使いお願いね。それで、レトンは教会の方から聖水を。後、インターリとジャーダはご飯を食べたお代として力仕事を。つまりは、薪割りを庭の方でしてきて」


「わかりましたわ。いつものように買い物へといってきますわ!」


「了解しました」


「「おうっ!」」

 

 ティエラはそれぞれにやってきてほしいことを指示していた。

 この家の家主はティエラであり、諸々の管理は彼の管轄。その彼からお使いを頼まれて、断れる者なんていない。

 ティエラからの指示を受け、四人は大人しくその指示に従っていく。


「リトスは今日のところはいいかな。昨日は魔石とかの予備を買いに行ってもらったし」


「えぇ、わかったわ」


 ティエラのお使いで結構ガッツリと家から人がいなくなり、この家にいるのが彼とリトスの二人だけとなった中で。


「(……あの子は二人のことをどう思っているのかしら?)」


 リトスが頭に思い浮かべるのはシオンとレトンの二人に関することである。

 既にシオンがティエラのことが異性として好きなのは知っている。

 そして、レトンも信仰心が混ざっているけど、ティエラのことが好きだろう。少なくとも、ティエラから告白されて断ることはないだろうと見ていた。

 そんな中で、シオンは何故かティエラに対して一歩引き始め、レトンは彼を神として見ていることから常に半歩くらいは引いている。

 そんな状況ゆえの奇妙な小康状態になっていた。

 それを傍で見ているリトスとしては、どうしてもティエラ当人が何を思っているかが気になっていた。


「(さて……と)」


 とはいえ、聞き方は重要である。

 ティエラが何を思っているのかあまりわかっていない中で、リトスはどう切り出すかを悩み始める。


「ねぇねぇ、貴方、好きな人はいるかしら?」


 悩んだ末、普通の恋バナのような雰囲気で切り出していった。


「えっ!?好きな人!?いや、いないかな」


 そんなリトスの言葉にティエラはいつものようにほんわかとした雰囲気のまま、困ったように笑う。


「そうなの?でもさ、ティエラのことを好いていそうな人はいっぱいいそうじゃん?」

 

 リトスから見たティエラは底の見えない存在だ。

 一見すると警戒心が低く、周りに流されやすいただのお人好し。

 だが、その反面に魔王との戦いの一連を見れば、ティエラの持つその卓越した状況判断力と冷静さは確実に英雄のそれ。

 そのどちらもティエラなのだろう。いざという時に、心の中でしっかりと確固たる意思が出来た時のみに輝く、そんなタイプであるとリトスは見ていた。

 それでも、リトスは間違いなくどれだけほんわかしていようとも、結構わかりやすいシオンとレトンの好意。ついでに言うと彼と関わりのある異性全員がぼんやりと抱いている好意に気づいていないわけがないと考えていた。


「そんなことないよぉ、別に僕のことを好きな人なんていないでしょ」


 だが、返ってきた答えは想定外のものだった。


「別に僕は特別かっこいいわけでもないし、もっとイケメンだったらモテたのかもしれないけど」


「……?」


 ティエラの言葉を聞くリトスは本気で困惑の表情を浮かべる。

 その理由は単純明快。

 ティエラはどこをどう見てもイケメンだからである。カッコいい系ではないのは確かだが、人目を引くオッドアイに、レトンではないが、神様が作ったのかと思うほどに整った黄金比の相貌。

 別にショタ系の子が好きではない異性どころか、同性さえもその性癖を捻じ曲げてしまいそうなほどの魅力をティエラは纏っている。

 正直にいって、リトスも別に好きではないのにちょっとティエラの甘ったるい匂いとかを嗅ぐと、本能的にちょっぴり興奮してしまうくらいには魅力的で破滅的。傾国と呼びに相応しい子である。

 そんな子が自分はモテない?見た目だけで言えば世界で一番モテそうな子が?何の冗談?今以上にカッコよくて、本当に神様でも一目惚れさせるつもりなの?

 リトスはただただ困惑の表情を浮かべる。


「……?」


「(でも、この顔で嘘、ついているなんてことあるの……?)」


 だけど、見ればわかる。

 ティエラはガチだと。自分の言葉の何処がおかしいのか、そんな表情を浮かべているどころか、己の答えを聞いて不思議そうな表情を浮かべているリトスを見て困惑していると。

 これで演技だったらリトスは寝込む。


「あなたは……」


「まだ何か聞きたいことある?まぁ……最初の疑問さえも、まともに答えられていないけどぉ」


「……いや、何でもないわ」


「あっ、そう?」



「(誰からも、愛されたことのない子だったのかしら)」


 リトスはそう結論づけた。

 

「(それなら、全てが納得がいく……)」


 自己評価が低いのも、怪我を負うことも厭わないのも。

 幼少期に虐げられていたせいで自分を大事にできなくなるとともに、愛を知らないがゆえに他人の愛にも気づけないのだとリトスは考えた。


「(どうか、この子が愛を知れますように)」

 

 そして、リトスは祈る。

 ティエラを思って……。


 ……。


 …………。


 ティエラはまるで気がつかない。


「明日の朝ごはんは何にしようかなぁ?」


 自分が童貞なせいでリトスからとんでもない勘違いをされていることに……ある意味、童貞がゆえに恋愛を知らないと言う意味ではあっているが。

 なんて事はない。ただのフツメンとして生きてきた前世の記憶のせいで、ティエラは今の己のイケメンぶりをあまり自覚していなかった。いまだにモテななかった過去の自分の感覚を引きずっているのだ。

 そして。

 誰も想像できまい。

 ティエラがイケメンゆえに生まれた時からチヤホヤされ、常に好感度がマックスだったせいでこの世界の女の子は全員優しくて距離感も近いんだな、なんて呑気なことを思っているなんて。


「うーん、やっぱりパン……サンドイッチがいいかなぁ?」


 とりあえず、このアンポンタンは朝ごはんを考えている場合ではなかった。

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