第四章 モブとヤンデレ

異変

 突然来訪した魔族並びに魔王との戦いを終え、迷宮都市アネッロが普段通りの生活を取り戻していた中で。


『私の生家のことはもう大丈夫ですわ。話がつきましたの。ですから、地下室の方ではホテルの方に帰りますわ』


 僕の方もシオンと共にいつもの生活を取り戻していた。

 

『よし!それじゃあ、せっかくだし、家を買おう!お金も結構溜まっているし、何よりも今回の騒動の感謝金としてガッツリ街の方からお金を貰えたし。キメラから剝ぎ取れた素材で稼げたお金の一部をくれる他の冒険者もいてくれたおかげでもう小金持ちよ』


 いや、取り戻した生活は前のもの以上だった。

 これまでずっとホテル暮らしだった僕とシオンは今回の一件で得たお金と信頼を元手にし、フェルス王国の南東にある街、ミルへンでもっていたような一軒家を購入して、そこで暮らしていたのだ。

 とはいえ、そこまで何か生活が劇的に代わるわけではない。

 

 ……その、はずだった。


「最近、レトンってばうちに来すぎじゃない?」


 僕は自分たちの家に、当然のような顔をしているレトンに疑問の声を投げかける。

 自分とシオンが二人で暮らすように、と考えていた僕の家にほぼほぼ毎日のようにレトンが押しかけていた。


「お邪魔するぜ」


「邪魔してすまんなっ!」


「私たちのことは気にしないでっ!」


 そして、ついでとばかりに週四でやってくるインターリ、ジャーダ、リトスの主人公パーティーも勢ぞろいだ。


「何か、問題ありますか?」


「うぅん……狭いんだけど」


 二人で暮らすように買った家はちょっと六人が滞在するには狭かった。


「まぁ、良いですわ。賑やかなのも悪くないですわ」


「シオンが良いというのならいいけどぉ……」


「ティエラが良いなら、私はそれに従うだけですの」


 この現状で一番心配なのはシオンだったのだが、何故か知らんけど、彼女は菩薩のような表情ですべてを受け入れている。

 インターリとの因縁はもうなくなったのだろうか?

 

「ふふ、私の神様の為に頑張りますっ!」


「……後、その神様って呼び方も辞めて欲しいんだけど」


 なんてことを思っている僕はシオンのことに次いで、気になっているレトンの呼び方についても言及する。

 前からレトンは僕のことを曇りなき眼で神様って呼び出すのだ。ちょっと普通に怖い。

 聖女からの神様呼びはちょっとだけ身構えちゃうよね。


「神様は神様ですよ?」


「もにゅ」


 そう、なのか?

 いや、そうじゃなくない?僕は別に神様でも、なんでもないよ?ただのモブなのだが。


「そんなことよりも、玉ねぎ取りますか?」


「あぁ、うん……お願い」


 僕はレトンの言葉に頷く。

 

「はい、どうぞです」


「ありがとう」


 レトンが取ってくれた玉ねぎを手に持つ僕はそれを手際よくみじん切りにしていく。

 どれだけ、僕が現状に首をかしげてようとも、時は流れて、お腹は空く。

 六人もいる中で、その全員分の料理を作るのは中々に大変な作業となってしまう。


「それじゃあ、私はひき肉の方をこねておきますね」


「うん、ありがとう」


 というわけで、僕一人で夕食を作るのではなく、同じく料理の出来るレトンと一緒に作っていた。

 六人もいると家が狭いなぁー、っと思ったり、何で聖女から僕は神様と呼ばれているんだろう……っと思ったりすることはあるが、それでも家事を手伝ってくれるレトンの存在は大きかった。


「玉ねぎ切れたよ。そっちのお肉に入れちゃっていい?」


「はい、大丈夫ですよ」


「ほいほーい。それじゃあ、僕の方はフライパンに火をつけてくるね」


「はい。お願いします」


 魔王との激闘の後に戻ってきた日常の形。

 それは細やかな疑問がつき纏うようなものではあるものの、それでも基本的には平和で穏やかな生活を送れていた。

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