事後処理

 魔王との戦いの後。

 僕が悠長に休んでいるような暇はまるでなかった。


「レトンっ!重症患者からお願いっ!僕じゃここら辺のは治せないっ!」


「はいっ!」


 自分が血の結界で守り切れなかった人たち。

 この場に出来てしまった多数の重症患者を助けるために僕がレトンと共に奔走することになったからだ。

 基本的に回復魔法を得意とするヒーラーは前線に出ず、怪我をするという経験は少ない。

 ゆえに、一度大怪我を負ってしまうとその痛みで気絶してしまうことがよく合って、むしろ、それが普通なのだ。

 大怪我した後に平然と自分自身へと回復魔法をかけられる僕とレトンの方が異常なのだ。


「今、治すからジッとしててね」


「わ、わりぃな……戦闘の方もおんぶにだっこで、回復までしてもらっちゃって」


「気にしてなくていいよ、冒険者は助けあいだからね」


 というわけで、まともに他者へと回復魔法をかけられるのが僕とレトンだけなので、てんやわんやな状態になってしまっているのだ。


「ごめんっ!この、人!もう、死にそうなのっ!?何とかならないっ!?お願いっ!!!私の……大事な親友なのっ!」


「はいはぁーい、今行きますよ……って、あぁ、これ無理だァっ!?」


 声をかけられて向かった先にいた重症患者。

 その人は既に心臓が止まり、体の機能が徐々に停止しつつあるような人だった。


「そんなっ!?」


「レトンっ!この人、僕じゃ無理だからそこの人が終わったらこの人治してあげてっ!応急処置はこっちでしておくから、焦られなくていいよ!」

 

 そんな人を相手に、僕は応急処置で延命治療を施し、レトンがこっちに来られるまでの時間を稼ぐ。


「わかりましたっ!」


 別のところで、奇跡のような魔法でもって今まさに亡くなりかけていた人を治療しているレトンはそんな僕の言葉へと力強く頷く。


「治るのっ!?」


「レトンの回復魔法は世界最高クラスなので、何の問題もないですよー、安心して、待っていてください」


「……っ!ありがとうっ!」


「お礼なら、レトンに」


 僕も回復魔法が得意であるという自負はあるが、それでも聖女であるレトンにはまるで敵わない。

 自分自身を治す魔法に特化させているところもあるしね。


「それで、次に治さなきゃいけない人は……っ!」


 僕は辺りを見渡しながら、早急に治療が必要な人……既に、心肺が停止してしまっている人を探して治療にあたっていく。

 トリアージも一つの選択肢だと思うが、この世界には魔法がある。

 奇跡を起こせる魔法、そして、それを極めたレトンがいる中で、諦めたくはない。

 僕は全員を救うつもりで回復魔法をかけて回り、自分じゃ治せない人はレトンに任せるための応急処置でお茶を濁す。


「レトンっ!魔法がキツくなったら休んでいいからね?」


「いえっ、さっきまで戦っていたティエラ様が頑張っているのに私だけが休んでいるわけには行きませんっ!」


「僕は色々と特殊だから、そんな自分と比べて無理はしないようにっ!それでレトンが倒れたら元も子もないからっ」


「……はいっ、ありがとうございますっ」


 僕はレトンと共に、自分が結界で守り切れなかった人たちを治療してまわり、死者ゼロ人を目指していくのだった。

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