撤退
自分の前で震えている水柱。
そして、その体が徐々に移り変わっていく。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお』
ボコボコォっ、という凄まじい音を立てながら水柱を覆うようにして下から肉が噴き出してくる。
毒素の入った水柱はそんな肉に吸収されるような形で消えていく。
「せいっ!」
明らかにその体を変身させている状況であろう水柱。
それを前にして、僕は容赦なく魔法を叩きつけていく。変身中は攻撃しないという暗黙の了解をこの現実の世界でも守る気などサラサラなかった。
「おおぅっ!」
そんな僕に続く形でインターリも変わりつつある水柱へと攻撃を仕掛ける。
更にシオンとリトスも続く。
「……ヤバ」
だが、そんな僕たちの攻撃などまるで効いている様子はなく、すぐにその肉の体は抉れた分も平然と再生してその体の変身を続けていく。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお』
そして、そんな時間が続くこと少しばかり。
とうとう、水柱だったものの変身が終わる。
「ガァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア」
先ほどまでとは目に見えて更に減った体積。
それでもなお、圧倒的な質量を持っているそいつの見た目はキメラのようだった。
ライオンの頭、蛇の頭となった尻尾、背中から生える翼。
そんな怪物が僕たちの前に現れていた。
「クソっ!?ヤバすぎだろっ!」
そんなキメラを前にして、インターリは迷いなくエクスカリバーを放つ。
「ガァァァァッ!」
「嘘だろっ……!?」
だが、そのエクスカリバーは軽い身のこなしで宙を舞ったキメラから楽に避けられてしまう。
「数打てば当たるわよっ!」
そんな中で、リトスは大きな声を上げながら、キメラへと魔法を向ける。
そして、その言葉に従ってインターリやシオンも攻撃の態勢に入って、キメラのことを狙い始める。
「みんなっ!撤退っ!!!」
だが、そんなみんなとは違って、僕はある一点に注目していた。
「こいつの体が毒性じゃなくなったっ!」
僕が注目していた箇所。
それはキメラの足元、先ほどまでの水柱とは違って周りの森林を溶かしていない彼の姿だった。
「このまま街の方にまで撤退っ!街にいる冒険者のみんなでフルボッコにするよっ!」
毒素で構成されているような化け物を街にまで誘導するのはあまりにも有害で、出来ることではないが、ただの巨大な怪物へとその体を変えた今ならば、何とかなる。
この森林を最悪なレベルで汚染し、ここに魔物たちが住めなくなるような事態にまでは発展しないだろう。
「行くよっ!」
「お、おうっ!」
数打てば当たる。
数打つのに一番手っ取り早いのがそもそもの数を集めてしまうこと。
僕は一切の迷いなく、シオンたちと共に一目散に逃げていくのだった。
「ガァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア」
こちらのことをしっかりとキメラが追いかけているかどうかを確認しながら。
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