動き出したもの
恐ろしいことに気づいたしまった僕がハッとした表情で緑色の液体の方に視線を送った瞬間。
タイミング良く、ゴポゴポという凄まじい音を立てながら水柱が波打ち始める。
そして、そんな水柱から幾千本もの触手が現れて自分たちの方へと凄まじい勢いで迫ってくる。
「……ッ!」
それを見ると同時に僕はほぼ反射的に魔法を発動。
水柱のことを封じ込めようとする。
だが、その振るわれた触手によって僕の結界は容易に破壊されてしまう。
「ヤバすぎっ!?」
ズズっと動いている水柱を前にする僕は表情を強張らせながらうめき声を上げる。
水柱が持つ毒素は今もなお、健在である。
動くだけで森を殺す水柱の体より伸びる触手の脅威度は信じられないくらいに高かった。
「光あれっ!」
そんな水柱を前にして僕が驚きの声をあげていた中、自分の隣に立つレトンが不浄なものを祓う浄化の魔法を発動させる。
「ちっ……」
だが、その浄化の魔法は何の効力も発揮されなかった。
ただ水柱の体がほんのりと光るだけだった。
「ご、ごめんなさいっ!」
そんな光景を見て、レトンは謝罪の言葉を口にする。
「大丈夫っ!僕に任せて」
僕はそんなレトンの言葉に返答しながら、魔法を発動。
大量の魔法を水柱の方に飛ばしていく。
僕が魔法で狙うのは自分の方に迫ってくる触手……ではなく、本体の方だ。
「はぁぁぁぁぁっ!」
自分の方に迫ってくる触手の方は自分の魔剣グリムで何とかしていく。
「……よしっ」
僕の魔法を受ける水柱はその体を吹き飛ばし、そのまま体積を減らす。
それに、自分の魔剣グリムで斬り落とされている触手の方は再生もされないようだった。
これはこのまま魔法と剣で削っていけば……っ!
「……いや、大きすぎるっ!?」
待って?こいつ、でっかくねぇ?
東京スカイツリー以上にデカそうな水柱を前にして、冷静に、削り切れるわけはなくね?と僕は体を震わす。
「せめてっ!」
そんな中で、自分の後ろにいるレトンが支援魔法をかけてくる。
それのおかげで僕の体が急に軽くなり、自分の中から何か湧きたつような力を感じるようになる。
「おぉ……すげぇ」
自分で使う支援魔法とは明らかに精度の違うレトンのそれに驚きながら、僕は剣を力強く握って触手を斬り落とし続ける。
明らかに僕の動きはレトンの魔法を受けて良くなった。
ただ、それでも圧倒的に水柱の触手の量がバグっていた。
「……くっ」
不味い不味いっ!?明らかに量が多すぎるっ!
僕一人で捌けるような量じゃない……っ!
自分の元に集まってくる大量の触手を前にして、僕は歯噛みする。
どれだけ魔剣グリムを振るっても、振るっても、触手が自分の前に現れてくる。
自分とレトンを360度囲まれるのだけは避けないといけないのだが……っ!
「ティエラ様っ……」
「クソっ」
魔法で本体を狙うのではなく、自分に殺到してくる触手を狙ってでも全然足りない。
僕はレトンと共に逃げ惑いながら剣を振るい、魔法を放ち、それでもなお、追い詰められていく。
飛行魔法で進んでいる前に、巨大な触手が何本もあるのだ。
そんな状況を前に僕が歯噛みし、どうするかを悩んでいた中で。
「炎の龍よ、すべてを飲み込まなさい」
「雷霆よっ!敵を打てっ!」
そんな自分を救うかのように、強大な魔法が飛んできて一気に自分の周りにあった触手も、水柱の体も吹き飛んでいく。
「シオンっ!!!」
「はいっ!」
それを受け、僕は歓喜の声を上げるのだった。
「……一応、私もいるんだけど」
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