ゲームの主人公
勝手にもうこの場はほぼほぼ終わりで、すぐにシオンの元へと戻れる。
そんなことを考えていた僕はインターリの言葉に身構える。
何か、嫌な予感がしていた。
「レトンが魔族の一人に攫われた」
「えっ……?」
そして、その予感は当たっていた。
「聖女の身柄が必要だとか何だかで、攫われてしまったんだ……助けに行こうとしたのだが、その後すぐに項羽が来てだな……っ!すまない、助けられなかった」
あまりの事態に呆然としてしまっていた僕の前で、インターリは項垂れながら声を漏らす。
「……不味くない?」
聖女誘拐。
そこまで、そこまで話が進んでいるのっ!?
魔族たちの目的。
それはかつて、勇者と呼ばれた者の手によって殺されてしまっていた魔王の復活である。
魔王の復活に際して、その最後に必要なのは聖女の血だ。
こんな序盤で魔王が復活するとか冗談じゃないっ!即刻ゲームオーバーだっ!ゲームの方じゃ、聖女の血を魔王復活の礎に出来るよう調整するためには一日必要になっていたからまだ間に合うとは思いたいけど……。
「何かの計画に使うらしい……ただ、今すぐに殺されるような雰囲気ではなかった」
「……そうかもね」
そうでなきゃゲームオーバーなわけだが。
僕は頭を抱えながら、魔族側がどういう風に動いているのかを想像、もとい考察していく。
「まぁ……だから、今すぐに助けへと行く必要はないと思うが。それに、亡くなったとしてもまだ一人の命だ。全然それなら、まぁ」
「えっ……?」
だが、その途中で。
僕はインターリの口から出てきた言葉に思考を止めて、彼の方に視線を向ける。
「どうかしたか?」
「……いや」
聞き間違い、か?
いや、そんなことはないだろう。
「僕たちは一人の人間として、出来るだけ多くの人を救わなきゃなっ!どっちを選べばいいだろうか?」
インターリ。
彼はゲームにおいて、その性格は基本的に主人公らしく、情熱的でポジティブ……だが、たまに運営がおちゃらけで入れてきたであろうとんでもない発言の選択肢が出てくることもある。
その選択肢の中には、サイコパスのような言葉もあった。
「……」
僕は目の前に立っているインターリが、何か、何処か根本的なものがズレてしまっているような人間であるかのように幻視して、口を閉ざす。
「そろそろ、ダンジョンの方からも急報を聞いた冒険者たちが戻ってくる頃合いだ。深層に潜っているような方々には物理的に報告が不可能なのでどうしようもないが、それでも大半の戦力は戻ってきてくれる。この街の方は、僕たちがいなくとも何とかなると思う」
だが、すぐに僕はそんなことを忘れて再度、口を開く。
「なるほど、お前はレトンを助けに行った方がいいと?」
「うん、僕はそう思うかな」
既にダンジョンの方から冒険者が戻ってきている気配はチラホラと感じることが出来ている。
優先するべきはレトンの方だと思う。
魔王が復活するかもしれない可能性がある以上、ここを後回しにすることは出来ない。
「当たり前のことを話しあっているんじゃないわよっ!仲間を助けに行くのは当然じゃないっ!」
そんな僕とインターリの会話へとリトスが割り込んで入ってくる。
「私たちで助けに行くわよ!人助けであっちこっちを回っているジャーダのことは放っておいて!」
「待って」
そんなリトスの言葉を僕は止める。
「何よ?」
「レトンの助けにはまず、僕とインターリで行くよ」
「はぁ?何でよ。私も行くわよ?」
「……ごめん、こっちに来て」
「何……?」
僕の言葉に対して、不満げな様子を見せたリトスを引っ張って少し、インターリの方から離れる。
「リトスには、お願いしたいことがあるんだ」
「何かしら?こんなときに優先してやるべきことなの?」
「うん、今だから、かな」
「何?」
「……シオンのことなんだけど」
リトスはゲームでも、悪役令嬢として追放されるシオンの処遇に対して、やりすぎなんじゃないかとは言っていた。
そんなリトスなら、比較的に今のシオンとも友好的にやってくれる、はず。
「シオンの?」
「そう」
シオンの力。
それは、何かあった時、必ず必要になってくるはずだ。
地下であのままにしておくわけにはいかない。
「僕が、離れるのは、戦力的に無理だと思う」
本当は、僕が行くべきだ。
でも、状況的には、僕の考えはそれを許さない。
「僕の万能性は敵拠点への侵入のうちに有利だし、敵陣を斬り裂いていくにはやっぱり魔法よりも剣。身体能力と対応力が優先されて、魔法使いは二の次」
「まぁ、そうね」
「だから、シオンのことはリトスに頼みたいんだ。今の彼女を何とかしてきてほしいの」
「良いわよ。それで?あの子に何があったの?」
「それは───」
僕の言葉に頷いてくれたリトス。
そんな彼女に対して、僕は簡単に、簡潔に事情を説明していくのだった。
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