格上との戦い
項羽。
そう名乗った後、その魔族は迷いなく僕たちの方へと突っ込んでくる。
「風よ、ふけっ!」
項羽の足が地面から離れたその瞬間に僕は風の魔法を叩きつけて、彼の動きを僅かに鈍らせる。
「らっしゃっ!」
そして、その次に自分の隣にいたインターリが項羽との距離を一気に詰めていき。
「ぬぅんっ!」
僅かに体を風で後退させられていた項羽と組みあう。
そんな中で、僕は回復魔法を発動させてインターリの体に刻まれていた小さな傷をすべて回復させる。
「おぉ!ありがとよっ!」
「……どこまで効くか」
インターリを回復させた後の僕はそのまま流れるようにして、今度は魔法の対象を項羽へと変える。
それで発動させるのは各種デバフ魔法だ。
毒、麻痺、眠り粉、呪い、攻撃ダウン、防御ダウン……思いつく限りありとあらゆるデバフの魔法をかけていく。
やけっぱちとして腹痛の魔法までかけてやる。
「……ぬぅ」
これらのうち、どれかが効いてくれるといいのだが……ほんのわずかに項羽が眉をひそめて動きを鈍らせるだけで終わった。
「やっぱ無理か」
魔族の上位格。
ゲームでも終盤の頃に登場する魔武廟十臣という魔族の中でも最高の幹部。
そんな奴を相手に僕のデバフ魔法はさほど効果を与えられない。
流石は魔族の最高幹部だ。
「スイッチっ!」
そして、そんな奴が相手ではまだ序盤のインターリで相手するのはキツイ。
僕は剣を交えれば交えるほど態勢を崩されて不利になり、とうとう大剣の一振りで大きく態勢を崩されてしまったインターリと変わって代わりに項羽の剣を受ける。
「ふっ」
自分へと振り下ろされた大剣を自分の手にある魔剣グリムで迎え撃つ僕はうまく体を使うことで衝撃をうまく殺して地面へと流してやる。
「ほう?体の使い方がうまいな。良く」
「僕は根張り勝つのが好きなんだよ」
魔剣グリムは項羽が相手でもしっかりと機能した……っ!問題なく項羽から魔力を奪えている。
僕は常時回復魔法。傷だけではなく、筋肉疲労であったり、失った体力だったりを戻してくれるよう魔法を展開していく。
僕の格上との戦い方。
それは相手から奪った魔力で自分の体を癒し続け、出来るだけ戦闘を引き延ばし、その中で何とか勝ち筋を探るのが僕のやり方だ。
「……なるほどな」
僕は自分へと振るわれる大剣の雨。
軽々と大剣を振るい続ける項羽の攻撃をすべて受け流しながら僕は耐え忍び続ける。
「僕のことも忘れないでほしいね……っ!」
そんな中で、インターリが項羽の背後から斬りかかっていく。
「当然、忘れていないともっ!」
そんな一撃を項羽は大剣の柄でガード。
それは僕の剣による一振りを大剣の刃で防ぎながらのことであった。
「血を流したのは些か久しぶりだぞっ!」
「勝手に流しただけだけどねっ!」
大剣の柄でガードした関係上、その持ち手を大剣の刃に変えていた項羽の手のひらからは血が溢れている。
「その判断に追い込んだのはお前らよっ!」
今の構図としては一対二。
互いに傷はなし。未だ、戦局は絶望的でなかった。
「僕が合わせるっ!」
「おうっ!任せたっ!」
戦列に復帰したインターリの動きに僕は合わせる。
一歩だけ後ろに後退して、インターリが自由に動けるようにしながら僕は主に項羽の攻撃を受けて、それを流す役に徹していく。
インターリの方が僕よりも剣による一振りの力強さ、威力は高い。
「厭らしぃの!そんな可愛い顔をしてっ!」
だが、そんな傍らでもチャンスがあると思えば踏み込んで絶妙に項羽が意識していなさそうなタイミングで斬りかかっていく。
そんな太刀筋、剣の間試合を続けた果てで。
「ぬぅっ!?」
項羽の体に、足首へと完全に意識外からであった僕の剣が届き、彼の足が一瞬だけ止まる。
「合わせろぉっ!」
チャンス、そう思ったのは僕だけではなく、インターリも同じだった。
「言われなくとも……ッ」
インターリが項羽の首に向かって剣を振るい、その間に僕は足元を。
項羽が圧倒的な力強さでもってインターリの剣を大剣でガードし、僕の一振りを片足で思いっきり踏みつけとすることで強引に止めてくる。
「ここ……ッ!」
だが、その態勢は確かに崩れている。
僕は迷うことなく剣から手を離し、かかとに仕込んでいる短刀でもって項羽の首を狙う。
「甘いっ!」
それを項羽は首を逸らすことで回避する。
「来いっ」
そんな中で、僕は魔剣グリムを手元に再召喚。
「そげなこともっ!?」
項羽の首に向かって剣を振るう。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああっ!」
そんな僕に合わせて、一度は剣をはじき返されながらも態勢を立て直しているインターリが再度、項羽の首に向かって剣を振るう。
このタイミング。項羽の態勢は既に崩れている。
回避は不可能。
「ぬぉっ!」
だが。
「……っ!?」
「……ちぃ」
突如として僕とインターリは項羽の体より湧き上がった衝撃波によって吹き飛ばされる。
「これを使わされたのは久しぶり……武士の恥よっ!まさか、あれより賜った魔道具をここで使うことになるとはな」
何が起こったのか。
ただ、ひとまず僕とインターリが作りだした絶好のチャンスは潰された。
「ふっ……」
そんな中で、僕は口元で笑みを作った。
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