地上
シオンを拘束して地下へと置き去りにして、地上へと出てきた僕を待っていた地上の光景。
「……っ」
それは思わず表情をしかめてしまうような光景だった。
街へと襲撃を仕掛けてきた者たちの攻撃によって倒壊した家屋。
ぼうぼうと燃え盛る火の手が上がっている街。
聞こえてくるのは多くの人たちの悲鳴だった。
「ふぅー」
そんな中で、僕は一度、深く息を吐く……さぁ、一人でも多くの人を救っていくぞ。
「そこだな」
自分の周りにも瓦礫へと埋もれて助けを求めるような声を上げる人がいる中で、それでもより多くを救うのは元凶を叩くことだと判断し、街に襲撃を仕掛けている集団の中で、最も強い力を放っている者のところに向かっていく。
「インターリ……ッ!」
街を駆け抜けていった先。
そこで待っていたのはゲームの主人公であるインターリと一人の見知らぬ男だった。
「……ッ!?ティエラじゃないかっ!」
「久しぶりっ!」
インターリの隣に降り立った僕は驚きの声を上げている彼に挨拶の言葉を告げる。
「あぁ、久しぶりだなっ……っ!」
「それで?今の状況は?」
「見ての通りだっ!」
見ての通り。
今、自分の前にいるインターリの体は既にボロボロ。
その体には多くの傷がつけられ、致命傷はなさそうだが、それでも体の至るところから出血している……そんな状況。
そして、そんなインターリの前にいる男。
「……魔族?」
それは頭より角を伸ばし、背中に小さな翼をもっている瞳孔が縦に長い爬虫類のような目をした男だった。
その身体特徴……これらを見るに、この男は魔族だろう。
「ほう?お前のような平民と思われる男が我らを知っているか……」
「伝説上で聞きかじっているだけさ」
魔族。
それは現在において、伝説上の存在として語り継がれるだけの者たちだ。
魔物の特徴を持った人類。それが魔族だ。
あくまで伝説上の存在……ただ、その魔族たちがこの世界に実際に存在していることを僕はゲームの知識より知っていた。
「……どうして」
だが、僕のゲーム知識では魔族はこんな早くに出てこない。
まだゲームのストーリー進行具合としては四章でしょ?魔族の初出とか八章じゃん、なんでこんなところでもう魔族を見ることになっているのさっ。
「……魔王復活の目途でも立ったか?」
理解出来ない。
ただ、そんな中で僕は彼らにとって核心となるであろう言葉を聞きに行く。
「……ッ、お前、何者だ?」
その発言を受け、如実に目の前にいる魔族の表情と雰囲気が変わる。
なるほど、魔族の目的はゲームの時ままか。
ゲーム上におけるラスボス。それが魔王である。
本作のストーリー後半は魔族による魔王復活の為の暗躍に対処していく形となり、最後は復活を阻止できなかった魔王と事を構える形になる。
……もう、魔族たちは魔王を復活させられるだけの算段が付いているというの?
「ただの平民だよ」
僕は内心の思考回路を隠しながら、魔族と言葉を交わしていく。
「何で、お前がそんなに大事なそうなことを知っているんだ?王子である僕もそこまで詳しくは知らないぞ」
そんな中で、僕の隣にいたインターリが結構、素の声色で疑問の声を上げてくる。
……いや、もうこれ以上聞き出すこともないか。
「いや、別に僕だってそんな知らないよ。ぶっちゃけ、魔王に関しても前見た本にそんな存在をほのめかす記述があったから適当に言っていたみただけだもん。本当に魔王がいるとか予想外だよ」
僕はこれ幸いとインターリの言葉に乗っかって自分は何も知らなかったことにする。
「そうなん?」
「……ほう?」
「まぁ、最低限の情報は引き出したでしょ。どうやら、魔王は本当にいて、向こうさんの目的は魔王の復活らしい。魔族関連の伝承には事実が多く含まれている可能性が出てきたよ」
「そういうことになるなぁ……お前、えっ?いきなり来て、そんな風に大胆にブラフも用いて情報収取したん?本当に平民?動きの狡猾さ、王子たる僕を超えてきているだろ」
「はっはっは!」
僕の言葉にインターリの方が引いたような声を上げている中で、魔族の方が先に豪快な笑い声をあげ始める。
「なるほど、俺はどうやら君の手の上に踊らされていたようだ。名は?」
「ティエラ。ただのティエラだよ」
「僕の方はインターリだよ、一回も聞かれなかったけどねっ!一応、僕の方は王族だよ」
おー、まさか、僕がゲームの主人公と並んで自己紹介をする時が来るとは……。
「当然。インターリの方とて、その実力を認めているとも、それで、ティエラにインターリよ」
一度、高笑いを浮かべた魔族の男はその手にずっと握られていた大剣をもちあげて、こちらの方へと突きつけられる。
「ここで汝ら二人を殺してしまえば、俺の失態もなくなろう」
「「……っ」」
圧倒的な殺意を醸し始めた魔族の男を前に僕とインターリは警戒心を全力で高める。
「俺の名は項羽っ!魔武廟十臣が一人っ!さぁ、死合うかっ!」
そんな中で、魔族は己の名を堂々たる態度で宣言するのだった。
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