脱出

 地上の方へと視線を送る僕。

 そんな自分が感じられたもの。


「……何で?」


 それはこの街へと近づいてきている何者かの気配───いや、何者か『たち』の気配だった。


「……ッ!?」


 そして、僕が感じた者たちはそのまま街への攻撃を始めていく。


「まずっ!?」


 地下にいながらも感じられる。

 街へと襲撃に仕掛けてきた者たちが今、街で大暴れをしていると。


「シオンっ!」


「駄目だよっ!?」


 素早く助けに行こうとシオンの方に声をかける僕であるが、それを彼女は否定する。


「地上では何が待っているか……っ!私たちのことを狙っている人たちがいるんだよっ!そんな中で、地上に出るなんて危険だからっ!」


「でも、それはかもしれないかという話だ。今、地上の方では差し迫った脅威が近づいている。それに対応しないなんて、一人の冒険者としてありえないよ」


「でもっ!そう、地上の方には多くの冒険者たちがいるのよ!だから、私たちがいなくとも問題ないわ」


「いや、でも、今は日中だ。ダンジョンに潜っているような冒険者の方が多い。数はいくらいても困るようなものじゃない」


「駄目よ……私たちがいったら、更に状況を悪化させてしまうよっ。多くの戦力が入り乱れる状態にっ」


 ……どっちを優先するか。

 いや、迷うことでもないか。


「そう、だね。そうかもしれない」


 僕はシオンの言葉へと頷く。


「そ、そう……わかってくれたのな───ッ!?」


 そして、その次の瞬間。

 僕の言葉を聞いてほっと一息ついたシオンへと拘束の魔法をかけ、彼女の体から自由を奪ってベッドへと転がす。


「な、何をっ!?」


「やっぱり、今のシオンは休憩するべきだよ……普段なら、僕の魔法にかかることはないでしょ?明らかに、精神的に錯乱状態になっている……ごめんね?ここまで放置していて」


 こうして、話してみて、ようやく気付けた。

 今のシオンはおかしいと。僕が枷を外すまでは口調も、雰囲気も変わっていなかったから気づけなかったけど……。

 というか、よくよく考えてみれば、やっぱり血とかが入ったおかゆを口移しで食べさせてくるのは頭おかしいや。冷静にね?つか、この軟禁状態もダメでしょ、普通に監禁じゃない?これ。僕、監禁されているわっ!

 じゃあ、あの段階でもう……あれか、やっぱりレトンと出かけたのは不味かったのかな?

 もうシオンのレトンに婚約者を取られる未遂事件は彼女が元気になっていたから消化出来ていると勝手に思っていたけど……ダメだったのかな。まだ。

 軽はずみな行動だったかな……。

 うーん、僕ってやっぱりだめだめだなぁ……前世でノンデリだから気をつけた方が良いよ?と言われた忠告をまるで行かせていない。


「シオンは、休んでて。僕は、地上の方にヘルプ行ってくるから」


「ま、待って……いかないでっ!」


「ごめん……」


 このままのシオンを放置していくことが悪いことはわかっている。

 でも……ッ!地上で災禍が起こっている状況で、それを放置することは出来ない。


「シオン」


 僕はベッドで転がしているシオンのことを抱きしめる。


「必ず、帰ってくるから……待ってて」


「……ぁあ」


「僕はシオンの前から勝手にいなくなったりしないから……僕とシオンはずっと仲間だよ。だから、大丈夫」


 僕はシオンのことを抱きしめ、その耳元で最低限の言葉を懸けた後、ゆっくりと離れる。


「ごめんね……でも、いってきます」


 そして、そのまま僕は地上の方に向かって歩を進める。

 既にこの場所の構造は魔法で調べてある。地上にまで行くのは簡単だった。

 わかっている、今のシオンを放置していくことが不味いこと……でも、どうしても。

 僕は、どうしても、自分の力で助けられる人の命を見捨てられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る