圧倒

 これで良いのだろうか?

 えっ?いや、マジで?

 シオンから軟禁状態にされてもう早いことで三日目。

 前世からずっと友達とかに、ぽわぽわしている危なっかしい上、何かあってもほとんど気にすることがないマイペースっ子で心配と言われていた僕でもさすがにげんなりし始めていた。

 毎日、食事は流石に嫌だと言っているシオンの血液とかが入ったご飯を無理やり口移しで食べさせられるし、枷をつけられての生活も続いている。

 後、なんか、シオンの目がちょっとヤバくなっている気がして怖い。


「……うーん」


 いくら、シオンからこれは必要なことなんですわっ!と力説されても、こんな生活が続くと滅入ってしまう。


「よし、外れた」


 というわけで、僕はシオンが買い物へと出ている間に自分へとつけられている枷を勝手に外していた。

 

「あー、自由になった」


 実は、枷自体を外せるようにはだいぶ前からなっていた。

 外していなかったのはシオンに言われたからであるが、そろそろ限界。

 僕は枷を外して、自由に動けるようになった自分の体を前にして、そして、万全になって自分の魔力を感じて満足げに頷く。


「体もなまっている」


 三日も動いていなかったのだ。

 毎日やっている筋トレに素振り等が出来なかったせいで、自分の体がなまっていることを意識的にも理解することが出来ていた。


「いっち、に、さん、しー」


 そんな体を僕は順調に伸ばしていく。


「何を……っ!?」


 僕がストレッチをして己の自由を満喫していた中、買い物から帰ってきたシオンが驚愕の表情を浮かべ、信じられないものを見るような視線を自分の方に向けてくる。


「何で勝手に枷を外しているのっ!?」


 そして、そのままシオンはいつもの『ですわ』という口調も忘れ、迫真の様子で僕の方へと迫ってくる。


「その枷は、ティエラの身を守るためのもので……っ!」


「それはもう大丈夫だからっ!」


 大慌てしているシオンに対して、僕は堂々と胸を張って答える。


「何が───」


「魔力隠ぺいに関する僕の技術が上がったんだよねっ!ふふっ、いやぁー、頑張ったよ。自分の魔力のすべてを制御下に置くの。それでも、僕は何とか完了させたよっ!枷のおかげで制御も楽だったよっ!あれのおかげで今の僕の魔力制御があるねっ!」


 枷で魔力を吸われている間にも僕は自分の魔力制御の質を高め、決して周りに自分の魔力が漏れないようにした。

 これで周りから自分の存在を捉えられる心配はないだろう。

 今までの僕は自身の魔力を完全に制御下と置き、外へと漏れないようにしていたシオンとは違い、制御の甘いところがあった。

 でも、これでシオンと条件はイーブンだ。


「……い、いやっ!?でもっ!」


「それに、やっぱり手足を常に拘束されているのは嫌だしね。体もなまる。ねぇ、素振りようの木刀ないかな?やっぱり剣は毎日振っておきたいんだよね」


 僕は才能に恵まれた方だと思うが、それでも、格別、と言えるほどのものでもない。

 努力を止めてしまうのは僕にとって致命的だ。


「違うのっ!ティ───」


「えっ?何が違うの?僕ってばおかしなこと言った?冒険者としては大事なことじゃない?僕の木刀は?もしかして、壊れちゃった?」


「うっ……」


「それなら悲しいなぁ……あれは昔から使ってきた思い出の品で、旅へと出る前に両親から買ってもらった大切なものなんだよね……」


「い、いや……まだ宿屋の方にあるけどぉ」


「あるのっ!?それなら、良かったっ!いやぁー、なくなっていたらどうしようかとっ!」


 色々あるみたいだし、壊れているかも、とはちょっとだけ思っていたからあるようで良かった!マジで!

 

「なら、シオンにはその木刀を取りに行ってほしいな?その間にご飯を作っておくよ」


「い、いやっ!ご飯は私が作るから!私に作ったものを食べて欲しいのっ!」


「というか、毎回指を怪我しているの心配なんだよね。普通に料理には慣れていないよね?僕が作るよ。ここのキッチンって何処にあるの?」


「違う!私が作るのに意味があるのっ!大切な人に私の作ったものを───」


「それは僕も同じだよ?」


「えっ……?」


「やっぱりシオンは初めて僕に出来た大切な仲間だからね。僕もシオンに自分の作る料理を食べて欲しいって思っているよ。ちゃんと栄養素とか考えて作りたいし」

 

 この世界ってばまだ栄養素とか、食の健康に関する意識が浸透していないからね。

 僕はしっかりとそこらへんに気を付けて、冒険者としての活動にも耐えられる丈夫な体を作れるようにしないとねっ!


「というか、最近のシオンは思い詰めすぎだよ?あまり、寝られていなくない……?目のクマもすごいし、ちょっと精神的にも不安定になっちゃているよ。今も何時もの口調がなくなって珍しく声を荒げちゃうくらいには」


「いや……っ!」


「今までは僕の為にありがとね。でも、そんなに思いつめなくとも僕も力になれるから大丈夫だよ?僕よりもシオンの方がゆっくりとするべきだよ。僕の主夫力は高いから任せて?ゆったりとした生活を送らせてあげるよ。マッサージとかだって出来るよ?しようか?」


「いや、その……」


 ここ最近、生家の関係で神経質になってしまっているせいか、目元のクマが酷くして精神的にもかなり不安定になっているように見えるシオンを心配して、これからは僕が色々なことをするよ!っと買って出ていく。


「……んぁ?」


 そんな中で、僕は何かを感じ取って素早く地上の方へと視線を送るのだった。

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