嫉妬
ティエラが珍しく、というか、初めて用事があるからと出かけていったその日。
私は迷いなくティエラの後をついていった。
一人の仲間として、周りから非常に騙されてやすいティエラのことを心配して、その後を追うのはごく自然なことで、何もおかしなことはない。
「……何、それ」
そんなことを思って、私の目には映っていたのはティエラがあの、レトンと楽し気に笑いながら街を歩いているような様子だった。
「あぁぁぁぁぁっ!」
そして、そればかりか、ティエラがレトンにアクセサリーまで渡していた。
「……っ」
何で?何で?何で?
なんでなんでなんでなんでなんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
なんで?
「……」
体が震える。
何故かはわからないけど、手先の感覚がなくなり、心臓が掴まれたかのような感覚を覚える。
「……ぁ」
別に私はティエラと付き合っているわけではない。
婚約関係になっているわけでもない。
私がティエラの女関係に何かを言う、権利など……ない。
「……イや」
なのに、。
私の体が、脳が、魂が、目の前の光景を否定する。
「……帰らなきゃ」
待っていないと。
私とティエラの場所に。
ティエラとの場所に。
ティエラとの場所に。
ティエラとの場所に。
「……」
それから、何をしたのかは覚えていない。
いつの間にかティエラはあの女の匂いをその身にこびりつけさせて、帰ってきていて、そのまま私と一緒に夕食を食べて……本当に、いつも通りの生活を送った。
そして、時が過ぎて夜になり、誰もが寝るような時間になっていた。
「……」
ティエラが眠っているベッドの隣に立つ私の前で、彼はすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
私の手はごく自然と、ティエラの方に伸びていった。
■■■■■
備えあれば憂いなし。
私がたまたま安売りされているところを見つけて購入した大きな地下空間つきの小さな小屋。
あんな私であったとしても、慕ってくれていたジェロシーア家に仕えている騎士たちなどが自分へと資金的に援助をしてくれたおかげで買えた物件だ。
彼らのお金のおかげで私はティエラに借りていたお金も返せた。
「ティエラぁ」
何でこんなことしているのか、自分でもわからない。
ティエラはただの仲間で、婚約者じゃない。彼がレトンと仲良くしていようが私には関係ない。
ただ、ただ、ただ。
許せない。
レトンと婚約者であったインターリが仲良くしていた時、以上に自分の心が沸き立っていた。
「……少しだけ、少しだけだから」
レトンたちもそこまで長い間、この街にいるわけじゃない。
それまで、それまで、私と一緒に……私といた方が。
……。
…………。
「……」
私は内側で荒ぶる様々な感情を押しとどめるようにしながら、料理を作っていく。
ティエラに朝ごはんを作らないと。
「……よし」
私はティエラの為に作っているおかゆの入っている鍋を焦げないようにかき混ぜていく。
「あっ……」
その途中で、何時の間に手を切っていたのか。
ザックリと切れていた手の指から私の血が滴り落ちていく。
「まずっ」
おかゆの中に入ってしまった自分の血を取り除こうと私は慌てておたまで取ろうとする。
だが、すぐに私の血はおかゆの中に広がって掬えなくなってしまった。
「ど、どうしよう……」
このままだったら、ティエラが私の血の入ったおかゆを食べてしまうことに……私の、血を。
……。
…………ティエラが、私のことを。
「……」
私の視界に一つの包丁が入ってくる。
それへと。
「……ふふふ、私と一緒」
私は手を伸ばして自分の手首を斬り裂き───笑った。
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