キス

 おかゆと言って自分の前に差し出された物体。

 そこに浮かぶのは髪や爪やらで、見た目は禍々しい。

 髪と爪だけでも相当だというのに、そのおかゆを更に酷い状況にしているのが真っ赤な液体である。

 お米であると思われるものが沈められている液体は真っ赤。


「……鉄」


 そして、その液体から香ってくるのは鉄の匂いだ。

 間違いなく、血が混ぜられている。それも、かなりの量の。


「うまくできましたわ!」


 ドン引きしている僕の前でシオンは自信満々の表情を見せていた。


「……料理、って知っている?」

 

 これのどこを見たら成功扱いになるのだろうか……?えっ?僕って、そんないつもゲテモノを作っている?

 僕の料理を見て、学んで、これが出力されたのだとしたら、僕は本気でへこむけど。

 

「知っていますわ。ですが」


「……ですが?」


「ティエラは知らないかもしれないですけど、貴族の血というのは特殊なのです。長年にわたって濃度を高めてきた貴族の血、それと体毛などの身体要素はもはや特殊な素材なのです。それを口に含むだけで、身体の免疫力向上などに寄与してくれる優れものなのですわ」


「えぇ……っ!?そんなのがあるの?」

 

 そんなのゲームにもなかったけど……えっ!?そんなのがあるのっ!?

 血がどうとか、優生思想とか古いよ?とも思うけど、この魔力がある世界だったらあってもおかしくない。

 一族単位で宿る固有の魔法なんかもあるし。


「マジでっ!?」


「マジですわっ!」


「へぇー」

 

 この世界のわけわかんないことが増えたな。

 ちょくちょくあるんだよね、ゲームでも語られていなかった謎設定。

 この世界、何故かゼロ歳児って病気に罹らないんだよね。めっちゃいいことだけど、冷静に考えてみると凄すぎて意味が分からないし、ゲームでも語られていないようなものだった。

 それと、同じ、なのかな?


「これをティエラに食べてほしいのは、私が今、こうしてティエラと監禁していることにも関係しているのですが……実はちょっと私が生家の方に狙われているらしいのですわ」


「えっ?」


「やっぱり、私が生き残っていたというのは私の生家にとって不都合だったようですの。ですから、私をどうこうしてしまおうとする動きがあるらしいですわ」


「……結構深刻じゃん」


「そうですの。今から逃げるのも遅いですわ。ですので、時間を少し置くのが良いですわ。特に王族であるインターリが街に居て、その護衛として多くの人間が潜りこんでいる今は特に危険ですの。ですから、彼らが去るまではここにいるべきですわ。ここは相手からの感知を封じるような特殊な加工がされているんですわ。ここなら安全ですの」


「何でそんなところをシオンが?」


「コネですわ。貴族自体の私も敵しかいなかったじゃないですわ」


「あぁ……そうなんだ」


 良かった、シオンにも味方がいたんだね。


「……ん?だとしても、僕に枷までつける必要はなくない?ちょっとひんやりとしていて嫌なんだけど」


「……ティエラが私に無断で勝手な行動をするからですわ。あのレトンと二人で出かけたり」


「いや、そんな事情があったのなら事前に言うけど……」


「……それに、ティエラは偽装魔法を得意としていないですわ。その状態でここから出るのは危険ですの。私も、ティエラも。ですから、ここだけに居て欲しいんですの」


「うん、それは分かったよ?だから、別に枷なんかなくてもここから出ていったりはしないけど……」


「それに、その枷は魔力を吸うんですの。それをつけていたら気づかれにくくなるんですの。ですから、そうしているのが一番ですの」


「……そういうこと、なら?」

 

 ここまで説明されたら、なるほど、と頷かずにはいられない。


「僕の為にありがとうね」


 この呪物にしか見えないおかゆも、自分を拘束している現状も、僕を守るためだったのね。

 それなら、安心できるかも。


「じゃあ、それを食べて欲しいのですの。味の保証はしてありますわ。それで、ここでの生活に対する免疫力をつけるんですよ」


「わかった。じゃあ、ありがと。いただきます」


 味の保証はされている。

 それを聞いて、ある程度安心した僕はその見た目には目を瞑ってゆっくりとシオンの作ったおかゆを口に含む。


「おぇぇぇぇぇぇぇ」


 そして、それを口含んだ瞬間に僕の口の中に広がっていた鉄の苦みと、何かはわからない独特の匂い、口内に流れる毛やら爪やらの不快感にすぐさま吐き出してしまう。

 味の保証はっ!?


「もー、吐き出しちゃだめですの?」


 泣きそうになりながら吐き出した僕の耳に、ギシギシというベッドの軋む音が聞こえてくる。


「しょうがないですの」


 そして、その次の瞬間には、優しい手つきで僕の両頬がシオンに捕まれ、そのままゆっくりと俯かせていた顔を持ち上げられる。

 そんな僕の視線に入ってくるのは、中におかゆを詰め込んだ、その小さなシオンの口だった。


「私が食べさせてあげますの」


 その口が僕の方へとゆっくりと近づいてきて───。


「んんっ!?」


 僕のファーストキスの味は最低だった。



 ■■■■■



 お知らせです!


 本日は8月16日、お盆明けの日ですね。

 自分のことを前から熱心に追ってくれている人であれば知っているかもしれませんが、自分は何かしらのイベントに合わせてサポーター様限定に特別ショートストーリーを上げております。

 本日中に僕はお盆明けの特別ショートストーリー『菊の花』を上げる予定です。

 本ストーリーはシオン視点で、お盆とも少し絡めた本編とは関係ないハートフル(当社比)ストーリーとなっております。

 興味がある方はぜひ。

 閲覧方法は自分のサポートになってくれることです。

 方法がわからない方は、下記のURLより、カクヨム運営のお知らせに飛んでご覧に頂けると幸いです。


https://kakuyomu.jp/help/archive/category/%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%91%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88


 簡潔に言うとスパチャです。自分に150円のスパチャをくれた方限定のストーリーを自分の近況ノートからご覧いただけます。興味がありましたら是非。


 また、本作は皆さまのおかげで現在、総合週間ランキング27位と、30位以内に入れております。

 改めて感謝申し上げます。ですが、自分としてはもっと上、総合週間ランキング一位を目指しています!

 良ければ、最新話をスクロールして下にある星の評価をしていただけるとありがたいです!

 また、それと共にレビューもしていただけると作者が飛び跳ねます。初レビューお待ちしておりますっ!どうか、よろしくお願いいたします!

 

 あとがきが信じられないほどになってしまい、申し訳ございませんでした。

 本編との落差によるサウナ的な感覚を与えられたことを祈って、あとがきを閉じさせていただきます。

 今後とも、本作をよろしくお願いいたします。

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