監禁

 レトンと共にデートの予行練習をし、帰ってきた後はいつものようにシオンと夕食を食べて同じ宿屋の部屋で眠った。


「なぬっ?」


 そんな次の日。

 僕は自分の手足に触れているひんやりとした感覚に首をかしげながら目を覚ました。


「……知らない天井だ」


 そして、そんな僕の視界に入ってきたのは自分の知らない天井だった。

 無駄に豪華な装飾が施された最高級ホテルの天井は何処へやら、殺風景な石の天井へと変わっていた。


「んで、何処?」


 それで周りを見渡してみれば、床も、壁も天井と同様の殺風景な石づくり。

 そこまで広くもないこの場に置かれているのは今、自分が寝かされているのは天蓋つきのクイーンベッドただ一つである。

 正直に言って、違和感が尋常ではない。

 明らかにこのベッドだけがこの部屋の中で浮いている。


「それでっと……」


 部屋の様子を確認し終えた僕はこれまであえて見ないようにしていた自分の状態を確認する。

 昨日寝た時と同じ服を着ている僕は今、何故か右手と右足に鉄の枷がつけられ、それより伸びる鎖がベッドと固定されているせいで自由が奪われているような状況にあった。


「ふんっ」


 そんな中、僕は一切迷うことなく自分のことを繋げている鎖を破壊しようと手刀を振るう。


「かってっ」


 さして強くない魔物であれば倒せるような手刀を受けてなお、その鎖は堅牢さを保って無事であり続けていた。


「……うそでしょ?」


 そんな鎖を前にして僕は思わず困惑の声を上げる。いくら何でも硬すぎやしないか?


「……魔法も上手く使えない」


 硬すぎる鎖。

 そして、更に問題が一つ。

 さっきからずっと僕の体内から魔力を抜き続けている枷のせいで、うまく魔法を扱うことも出来なかった……このままだったら普通に自分の中にある魔力がすべて抜かれそうなんだけど。

 

「……」

 

 物理攻撃で破壊出来ない鎖。魔法の使用を拒む枷。

 今の僕は完全な拘束状態にあるのかもしれない……。


「うーん」


 僕はガチャガチャと枷に触れ、その仕組みを何とか解明することを試みながら。


「シオンは大丈夫だろうか……?」


 自分がここに連れてこまれた際も、己の隣にいたシオンのことを心配する。

 ただの平民上がりの、ちょっと強めの冒険者でしかない僕が他人から誘拐されて監禁される理由がまるでない。

 相手の目的はおそらく、シオン。

 

「……んっ」


 何とか外せないか、僕は枷をガチャガチャと弄りながら、その性質を確認する

 これはあくまで魔力を吸い込み、貯め込んでおくだけ……おそらく、壊せれば吸われた魔力は返ってくる。

 だから、これを壊せさえすれば……壊せさえ、すれば。

 ここをこうして……ここに、魔力を、流せば。

 僕が必死こいて何とかしようと枷へのアプローチを続けていた中で。


「……ッ」


 ギィ……という音を立てながらこの石造りの小さな部屋に備え付けられていた鉄の扉が開かれる。

 そして。


「あっ、起きましたの?」


 その扉を通って僕の元へとやってきたのは一つのお盆を持ったシオンだった。


「シオン……ッ!?」


 僕は想定外の人物の登場に驚愕して、驚きの声を上げる。

 

「な、なんでっ!?」


 シオンが無事なら一体なん……っ。


「僕をこうして拘束しているのは、シオンなの?」


 何故、シオンが無事でここにいるのか。

 その理由はすぐに察しがついた。

 こんなの理由は一つしかないだろう。

 シオンを狙っての誘拐事件に僕が巻き込まれたのではなく、シオンが僕を狙って誘拐して監禁してきたのだろう。

 

「……なぬ?」


 いや、何で?

 何でわざわざシオンが僕のことを監禁してくるの?理解出来ないんだけど。


「起きたんですね、気分はどうですの?」


「別に気分は悪くないよ」


 多くの疑問が湧いてくるけど、とりあえず僕はシオンの質問に答える。

 シオンが無事だともわかったし、さっきまでの焦燥感はなくなった。


「それで、一つ聞いていいかな?」

 

 枷から手を離した僕はシオンへと疑問の声を投げかける。


「何ですの?」


「何で僕は今、拘束されているの?」


 今の状況に置いて、まず聞くべきところを僕は尋ねた。


「その前に、朝ごはんからですわ。私の愛情をたっぷり込めて作ってきましたわ!」


 だが、そんな僕の疑問は、シオンに一蹴される。

 いや、今の状況としては絶対、悠長に朝ごはんを食べているようなところじゃなくない?僕は拘束されているんだけど。


「……なにこれ?」


 だが、そんな僕の思いは、自分の前に差し出されたシオンお手製の朝ごはんを前にして吹き飛んでいった。


「おかゆですわよ?」


「どこが……?」


 僕の前に差し出されたおかゆらしい代物は真っ赤な液体に、髪やら何やらが浮いている、呪物と呼ぶのが相応しいようなものだった。

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