フラグ

 午前中には多くの個性豊かな露店が並ぶ露店街でショッピング。

 そして、お昼ご飯を食べて今、僕たちはこの街におけるカップル御用達の観光地。

 一般開放されている城壁の上を歩いていた。


「こうして来てみると、ちゃんとロマンチックだね」


「そうですね……」


 最初はデートスポットとして城壁という物騒なところの上を通って何が良いんだ?とは思っていたが、こうして実際に歩いている見るとそこまで悪いものじゃない。


「……」


 ここから見えるのは沈みゆく夕日に、徐々に街の露店から消えていく光。

 そして、ダンジョンから数多くの戦利品をもって引き上げてくる冒険者の姿である。

 この街の中心は何処までも、迷宮、冒険者たちだ。

 完全フル武装の彼らがせわしなく動くさまは圧巻であり、運び込まれてくる魔物たちの姿もまた然りである。

 目の前に広がっているのはここでしか感じられない力強さである。


「いや、ロマンチックとはまた違うか」


 とはいえ、自分で言っておいてなんだけど、ロマンチックではないや。

 凄いし、十分見るべき価値があるものだが……うん。ロマンチックじゃないな。

 クリスマスにカップルで歩くようなところじゃないね。

 

「そうですか?十分ロマンチックじゃないですか?」


「……いやぁ、物騒すぎる」


「そうですかね?」


 ちょっと日本出身の僕としてはこの光景をロマンチックと言いたくはない。

 まぁ、最初にロマンチックだのどうのこうの言い出したのは僕だけど。


「それにしても……今日は楽しめました。初めてデートというものを体験してみて、良いものだと感じられました」


 そんな会話を城壁を歩きながらしていた中で、レトンが今日の感想を口にする。


「そう思ってくれたのなら良かった。僕の方も楽しかったよ」


「それなら良かったです。独りよがりはさみしいですから」


「二人で楽しんでこそだよね、やっぱり」


 前世からずっと彼女いない歴=年齢なのでデートが何たるか、なんてまるで知らないけど。


「今日、買ってもらったネックレスは大事にさせてもらいますね?」


「そう言ってくれるのなら買った甲斐があるというものだよ」


 自分が午前中にレトンへと買ってあげたネックレスをその手に握って笑みを浮かべるレトンを見て、僕は満足げに頷く。

 ちなみに、そのネックレスは回復魔法の効果を上げるという特殊能力を持った道具であり、ゲーム本編においても基本的にレトンの装備として活用していた一品である。

 回復魔法は大事だからね。

 しっかりと主人公たちがゲーム本編をクリアできる強さを手に居られるよう、地味にサポートしておきたいね。

 流石に負けるはずがないと思うけど……万が一もあるかもしれないからね。


「今度は私が何か、ティエラ様にプレゼントしますね。今日の方は何も買えなかったので……」


「別に気にはしなくていいよ?自分がちょっとアクセサリーつけたくないだけだからね、こっちの問題だから」


 アクセサリー類って何かチャラチャラしているようなイメージがあって好きではない。

 なので、自分が買ってあげたネックレスのお礼として何かを買おうとしていたレトンに僕は要らないという立場を誇示していた。

 

「いえっ!そういうわけにもいきませんからっ!しっかりとしたお菓子などを用意しておきます!」


「なら、期待しておくね」


 レベリング目的に渡したネックレスでお礼を貰うのはちょっと気が引けるところあるんだけど。


「……今更ですが、こんな風に私とデートの練習をしていて良かったのですか?」


 なんてことを僕が考えていたところ、突然、レトンは僕の方へと疑問の声を投げかけてくる。


「んっ?何が?」


「ティエラ様はシオン様と恋仲ではないと言っていましたのでお願いしましたが……お二人は仲良さそうですし、こうして私が軽はずみにデートのお誘いをしてよかったものかと」


「いや、大丈夫、大丈夫。シオンと僕はそういう関係じゃないから。婚約者どころか恋人でもないよ」


 僕にシオンが惚れることなんてあるわけないねっ!


「だから、大丈夫だよ」


 そんな絶対の確信から僕はサムズアップして力強く断言する。


「そう、ですか……なら、良かったです」


「うん、心配してくれてありがとね。それでも、大丈夫だから。それじゃあ、今日はもう解散かな?」


 こんな会話をしている間に、もう僕とレトンは城壁の上を歩き終え、地面の方へと戻ってきていた。


「夕食前にはレトンも帰らなきゃでしょ?」


「そうですね。じゃあ、今日はここでお別れですね。今日は多くを学ばせてもらいました。これで、来たる婚約者の方との予行連中はバッチリそうです。それに、楽しかったです。ありがとうございました」


「うん、僕も楽しかったよ。こちらこそ楽しい体験をありがとう。それじゃあ、またね」


「はい。また」


 そして、僕はその場でレトンと別れ、帰路へとつくのだった。



 ……。



 …………。



「……何で?」


 そんな彼の背後には、一人の少女の姿があった。



 ■■■■■

 

 これは持論だが、僕は童貞には二種いる。

 まずはすぐに相手が自分のことが好きなんじゃないかと勘違いしてしまうタイプ。

 そして、もう一つは相手が自分に惚れるわけないと非モテの思考回路を極めてしまっている。

 ティエラは後者のタイプの童貞です。

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