迷宮十六階層

 僕が九階層へと花を取りに行っていた関係上、自分が元の階層に戻ってくるところからになってしまったダンジョン攻略。

 だが、ちゃんと一時間以内に元の場所にまで戻ってきた僕はそのままシオンと共に十六階層の攻略に動いていた。

 

「ごめんっ!そっちに魔物抜けていったっ!」


「わかりましたの。しっかりと対応したので安心しますの」


「なら、良かったっ!」


 十六階層。

 初めての迷宮攻略の時に出くわした未だ詳細なことはわかっていない異変中の異変を倒したことで一躍有名人になった僕たちであるが、実際のところ、その実力としてはその他の冒険者から抜きん出ているわけではない。

 当然、弱くはない。

 だが、ここで上級者扱いされるようなレベルの人たち。歴戦の強者である冒険者たちと比べるとそこまで差があるわけではない。

 トントンくらいである。


「ふぅー、せいっ」


 ゆえに、僕とシオンにとって、ここ、十六階層は四階層などと違って、決して油断出来るような場所ではなかった。


「がぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!」


 僕の前に立つ巨大な魔物。

 ハルバードを武器としてその手に持つ牛の頭を持つ巨人たるミノタウロス。


「ふぅー」


 その彼が振るうハルバードによる巨大な一閃を僕は深く息を吐きながら、その軌道をゆっくりと眺める。

 既に自分の前でハルバードを振るうミノタウロスの取り巻きとしてくっついて回っていた魔物たちは主にシオンが魔法で焼き払ってくれている。

 後はここで僕がこのミノタウロスを倒せば終わりである。


「ほっ」


 自分の体を真っ二つにしようと迫ってきたハルバード。

 それに対して、僕はそれを避けるように跳躍。

 そして、自身の足をハルバードの柄へと乗せて更に、跳躍。

 一気に巨大なミノタウロスの首へと迫っていく。


「しぃっ」


「……ぁ」


 自分の前にあるミノタウロスの首に向かって僕は己の手にある魔剣グリムを一振り。

 己の魔力を乗せて振るわれる魔剣グリムの切れ味はすさまじく、たった一刀でその太い首を両断した。


「っとと」


 首を落とされたミノタウロスの体がゆっくりと地面に倒れている中で、僕も地面へと足を下ろす。


「これで十六階層のボスは撃破、っと」


 今、僕が首を落としたこのミノタウロスは十六階層のボスとして鎮座していた魔物だった。

 自分たちは無事に十六階層の最後をクリアしたのだ。


「お疲れ様ですわ」


「ありがとう。シオンの方もお疲れ様」


 ミノタウロスの首を跳ね飛ばした自分の方へと近づきながら労いの言葉をかけてくれるシオンへと僕も言葉を返す。


「この、ミノタウロスの売れる部位はどこでしたっけ?」


「えっと……確か、ミノタウロスは心臓と頭にある二本の角が高価買取だったはずだよ」


 魔物の死体は基本的に何かに利用することが出来る高値で売買される素材である。

 自分たちの前にいるミノタウロスの中で、特に高価な部位として取引されているのは確か心臓と頭にある二本の角だったと思う。


「わかりましたの。それじゃあ、回収しちゃいますわ」


「うん、ありがとう」


 そんな僕の言葉に頷いたシオンは魔法を使って素材を採取。

 そして、そのままその採取した素材を魔法で作りだせる異空間へと収納していった。


「これでミノタウロスは終了。そして、同時に十六階層も終了だね」


 十六階層のボスであるミノタウロスを無事に倒し終えた僕たちの前には安全に通れるようになった十七階層へと降りるための階段が伸びていた。


「どうする?今日はこのまま帰る?」


「いや、十七階層を少し見てから帰りたいですの。私はまだ魔力が余っていますわ。軽く雰囲気だけ掴んでからの方がいいんじゃないないですの?」


「うん、それじゃあ、そうしようか。僕の方もまだ体力は残っているからね。十七階層の方にいこうか」


 シオンの言葉に同意した僕はそのままこの部屋にある地上へと出る転移陣ではなく、十七階層へと降りていく階段へと足を踏み入れる。


「はいですの」


 その後をシオンもついてくる。


「いやー、それにしても今回もしっかりと勝てて良かったね」


「そうですの……本当に、ティエラの綺麗な体に傷が一つもつかなくて良かったですわ」


 ここ、十六階層は僕とシオンでも油断出来るような場所はない死地である。

 だが、それでも僕たちはしっかりと安定してダンジョンを一歩一歩前に進んでいくのだった。

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