買い物
よくよく考えてみたら、一番の戦犯ってインターリだよな……。
レトンは特殊な才能ゆえにこの世界の世界宗教であるイミタシオン教の聖女として祀り上げられている立場にあるが、それでも元々は平民出身である上に、祀り上げられてからの日も浅い。
そんな身で貴族社会の学園に送り込まれてあたふたしていたレトンに婚約者のいる身でありながら、親身に寄り添い、デレデレしていたのは主人公である。
「……」
プレイしていた時にはあまり気にしていなかったけど、普通にレトンが攻略対象なのかと思って、結構ちゃんと口説くような選択肢を取っていたしな。
主人公の行動は婚約者のいる身で、平民出身で慣れないこと尽くしの女の子へと優しくしに行くというものだった。
それでなおかつ、それに対して嫉妬し、元々持っていた強力な選民思想が合わさって暴走したシオンを必要以上に騒ぎ立てて国家追放に向かわせたのはインターリである。
やべぇのは主人公であり、プレイヤーだった……?いや、だとすると、現実世界にいる主人公たるインターリってどうなっているんだろう?
インターリのセリフ選択にはまともなのとふざけたものの二つが用意されていた。
そこら辺の折り合いは一体どうなっているのだろうか?あのおふざけ全開の選択肢等も主人公の性格としてしっかり反映されているのだろうか?
「ティエラ様?」
街中で歩きながら、シオンとレトンの二人の話を聞いて事の顛末について考えていた中で。
「さっきから黙りこくってどうしたのですか?」
自分の隣を歩いていたレトンの方から疑問の声を投げかけられる。
「あぁ、ごめん。ちょっと考え事をしていて」
「……考え事もいいですが、私のことをすっかり無視するのは辞めてくださいね?一生懸命に話しかけているのに無視されるのは正直ちょっと悲しいです」
「あぁ、ごめんね」
「同じ平民仲間であるティエラ様から無視されるのはショックです」
「……いや、別に平民なんて周りを見渡せばいくらでもいるけどね?」
「ティエラ様は……シオン様と一緒にいますし、こっち側では?」
「申し訳ないけど、違うからね?今のシオンは元々持っていた選民思想も粉々に打ち砕かれているし。国家追放されて、自分がいつ死んでもおかしくない極限状態に置かれたというのはシオンにとってかなり大きなことだったみたいだよ」
「……そう、ですか」
「とはいっても、レトンが罪悪感を感じる必要まではないと思うよ?」
「……ありがとうございます。やっぱり、私に対してフランクに話しかけてくれるのはティエラ様くらいですね」
「えっ?何で?」
「私は訳もわからぬままに聖女として扱われていますし、自分の周りにはご貴族様ばかりですから。他の方々は私を恐れて話しかけてはくれません」
……それは、僕がただ無礼な奴なのでは?
「ま、まぁ、僕の場合は無礼を働いて目をつけられたらさっさと逃げればいいや、って軽く思っているところもあるしぃ」
別に一切の考えがなくて無礼をしているわけじゃない、……じゃないから大丈夫だよね?
「ふふっ、それはお強いですね?私には出来そうにもありません」
「そう?案外全力逃亡する人間を捕まえるのは難しいし、案外この世界は生きやすいよ。嫌なことがあるならレトンも逃げちゃえばいいと思うよ。十二歳の頃から一人で旅に出た僕が太鼓判を押してあげよう」
「その年から旅に出るってすごいですね……」
「まぁ、元々家も裕福じゃなかったから冒険者になるのが一番丸い選択だった、というのもあるけどね」
「だとしても、です」
「そう言ってくれるなら嬉しいよ」
考え事を辞めた後はレトンと色々なことを話しながら晩飯の買い物を続けていた。
それにしても、随分と無責任なことばかり僕は言っている気がするけど大丈夫だろうか?
冷静に考えて、聖女が逃げ出すのは不味いんじゃ……。
いや、まぁ、良いか。逃げたいと思うような状況にレトンを追い込んだ周りが悪いと言えば悪い。僕は悪くない。
「んっ、僕はもうこの辺りでいいかな?」
商店街を一通り見て回って、食材を色々と買っていった僕は自分の買い物ふくろを確認しながら告げる。
もう晩飯を作るのには十分な量を買えただろう。しっかりと晩飯のレシピも色々と見て回る中で固まっている。
「そうですか。私はまだちょっと足りない感じですので、もう少し買い物の方を続けようと思います」
「やっぱり人数が多いと作らなきゃいけないものも多くて大変そうだね」
「はい、もちろんです。さっきは色々と愚痴ってしまいましたが、今の生活も楽しいですしね。これからも色々なことを頑張りますっ!」
僕の言葉に頷くレトンは握りこぶしを作りながら自分の言葉に頷く。
「ですが、また愚痴りたいことが出来た時は聞いてください」
「うん、それくらいならいつでも。それじゃあ、シオンも待っているから僕に宿の方に帰るね。それじゃあ、またね」
「はい。また。シオン様にもよろしくお願いします」
「うん」
そして、僕はそんなレトンと別れ、シオンが待っている宿の方にもどるのだった。
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