邂逅

 ササッと僕の用事だけ済ませた後、インターリたちと共に、ダンジョンの外へと出てきていた……また今度別の時にちゃんと元のところまで戻らないとな。


「よっと」


 そんなことを考えながらダンジョンから地上の方へと転移で戻ってきた僕を。


「ねぇ」


「うわぁ!?」

 

 すぐ目の前で待ち構えていたシオンを見て、思わず悲鳴をあげて、一歩退く。


「……なんで?」


「なにゅ!?」


「なんで悲鳴をあげるの?なんで1歩引いたの?なんで私を置いて一人で行っちゃうの?」


 そんな僕をシオンが一歩、足を前に出して遠慮なく自分との距離を詰めてくる。

 ちょうどそんな時。


「お、お前は……っ!」


 一番最初に転移陣を踏んだ僕から少しばかり遅れて地上へと戻ってきたインターリが驚きの声を自分の後ろであげる。


「……えっ?」


「どうしてお前がここにいる、シオンッ!」


 あちゃー。

 出会ってしまった、主人公たち一行とシオンが。

 接触を行う前にシオンには色々とお話しようと思っていたのに。


「なんでお前がここにいるんだ!シオン、答えろ!」


「ちっ、なんでお前がいやがるんだ……だが、ここで会ったが百年目……!」


「貴方……まだ死んでいなかったのっ」


「……生きて、いたんですか」


 なんてことを僕が考えている間に、インターリは剣を抜いて構え、それにジャーダとリトスの二人も続いていく。

 だが。


「なんで……?」


 シオンはそんな彼らのことを無視して僕の肩を掴む。


「なんで彼らと一緒にいるの?もう私なんて要らないの?もう私なんで不要なの?私を捨てるの?使えない私を捨てて彼らとダンジョンに行くの、私はもう貴方の仲間じゃないの、もう、要らないの?私を捨てていくの?私はもう、君にとって価値がないの!?ねぇ!」


 シオンは僕の前でハイライトのない瞳を浮かべながらブツブツと声を上げてこちらへと迫ってくる。


「嫌だ……嫌だ、嫌だ嫌だ。しかも、なんで、今日で。今日は私の、誕生日で、それで」


「だからだよ?」


 そんなシオンの勢いに気圧されながらも、僕は自分が一人でダンジョンに行って採取してきた目的のもの。

 一輪の花を取り出してシオンの方へと向ける。


「ふぇ……?」


「誕生日プレゼントに、って思って。9階層から摘んできた。前は依頼としてこの花を採取して、全部売っちゃったじゃん?でも、その時にシオンはこの花を欲しそうにしていたから……観賞用に採取してきた」


 今日はシオンの誕生日なのだ。

 だから、そのプレゼントの確保のために僕はダンジョンへと向かっていたのだ。

 午前中はちょっと、シオンに用事があったみたいだからね。ちょうどいいと思ったのだ。新鮮な花を届けようと。


「えっ、あっ……」


「ちょっとサプライズしたいな、って思って」


「あ、ありがとう……ですの」


 花を受け取ったシオンは瞳を輝かせながら僕からの花を受け取ってくる。

 よしっ!喜んでくれたみたいで良かった。


「それで?」


 それを確認した後、僕はインターリたちの方に視線を送る。


「君たちは何をしているの?」


 そして、そのまま静かに威圧する。


「ッ、ティエラ。そこにいるのは危険なやつなんだ。こいつは俺たちの国で───」


「そうなんだ」


 僕はインターリの言葉を遮って口を開く。


「君たちとシオンにはただならぬ因縁があるんだね」


「あぁ、そうなんだ。だから!」


「ただ、一体誰に剣を向けているんだい?彼女は僕の仲間であり、そして、この街の冒険者だ。どんな事情があろうとも、他人に街中で剣を向けてはならない。捕まりたいのかい?」


 既にシオンは裁かれて、他国にまでやってきている。

 ここでもまた、シオンが裁かれることはなく、彼女への無作法はインターリたちが犯罪者になってしまう。


「……っ!?」


「申し訳ありませんが、自分はここでシオンと一緒に失礼します」


 僕の言葉へと息を飲むインターリたちを前に、ぺこりと一礼する。


「誘ってくれた件については行けません。というか、行けそうにありません。それでは、自分はここで失礼します」


 シオンの存在がバレた以上、参加は無理だね。

 最初はシオンに変装でもしてもらって、みんなでシオンの誕生日のお祝いも兼ねてパーティ出来たら、なんて思っていたけど。

 主人公たちよりもシオンの方が優先だ。


「行こうか、シオン」


「……うんっ!」


 そんな僕は主人公であるインターリたちに背を向け、シオンと共にダンジョンから離れて自分たちが宿泊しているところに向かっていく。


「ところでさ、髪切った?」


「……っ!えぇ、切りましたわ。似合ってますの?」


「うん、似合っているよ」


「そうですの!なら、切った甲斐がありましたの」


 二人で色々とお話をしながら。

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