襲来
ダンジョン内に突然、異形の化け物の率いる怪物たちが現れ、町全体を震撼させたあの日より一週間。
「いやぁー、なんかゴタゴタがあったみたいだが……無事に来られてよかったな」
「そうですね」
迷宮都市アネッロへと一つのグループがやってきていた。
「それにしても、見たことのない連中がダンジョンに出て、しかも地上の方に向かって突き進んでいったんだろ?よくもまぁ、すぐに街へと来られるようになったな」
最低限の鎧を身につけた軽装で、金髪に琥珀色の瞳を持った一人の少年。
「いえ、当初は地上への侵攻を防げないと判断し、すぐさまこちらの方に連絡してきたそうなのですが、結果的には防げてしまったそうなんですよ。たまたま上層を進んでいた強力な二人組が食い止めたようです」
神官服でその清い体を覆っている金髪碧眼の美しき少女。
「マジかよっ!?そんなこと全然知らなかったぜっ!?」
全身鎧でその身を硬く守る赤い短髪に赤の瞳を持った大柄の少年。
「何で知らないのよ……普通に街へと来られないという連絡がやってきた後、すぐに連絡が来たわよ?大きな事柄しか覚えていられないのかしら?」
魔法使いのローブにとんがり帽子を身につけた腰まで伸びる白髪に水色の瞳を持った少女。
この計四名の一団。
彼らはアルケー王国内に存在するイーストカレッジ学園の生徒たちだった。
金髪の少年はアルケー王国の王子様、インターリ・アンファング。
金髪碧眼の少女は平民出身の聖女様、レトン。
赤い短髪の少年はアルケー王国の貴族様、ジャーダ・メディウム。
白髪に水色の瞳を持ったアルケー王国のご貴族様、リトス・カニエーツ。
彼ら四人組はそんな高貴な身分の者たちであり、とどのつまりは、ゲーム『アルカリアの箱』に出てくる主人公たちの一団であった。
「……僕も知らなかったね。うん」
「だろぉ?覚えていやがるこいつらがおかしいんだ」
「まったくもう、これだから男は……」
「いえ、男たちではありません。彼ら二人があまりにもポンコツ過ぎるのですよ」
「「はぐっ……」」
「見かけによらずエッグいわよねぇ……貴方。火力が信じられないほどだわ」
やってきたゲーム四章。
何の問題もなくゲームが進行し、三章において悪役令嬢を追放した主人公たちは、四章として迷宮都市アネッロに上陸したのだった。
主人公たちが国を発ち、他国を訪れた。
「いや!気を変えようっ!来られたことをまずは喜ぼう!これで僕たちは当初の予定通り、ダンジョンへと来られたんだ。それをまずは楽しもうじゃないか」
「わかりました」
「おうよっ!」
「まぁ、それもそうね。過ぎたることと言えば過ぎたることかしら」
物語は、これより急速に進んでいく。
■■■■■
アルケー王国より、その王子までも伴った一団がやってきた。
そんな街の一角にある一つのホテルにて。
「くちゅんっ!」
一人の少女、シオンがずいぶんと可愛らしいくしゃみをあげていた。
「どうしたの?さっきからくしゃみばかりして」
そんなシオンへと同じホテルの部屋にいる少年、ティエラが疑問の声を上げる。
先ほどから、ずっとシオンはくしゃみを出し続けていた。
「いや……わかんないですわ」
別に部屋が埃っぽいわけでも、寒いわけでもない。
だが、それでもシオンのくしゃみは止まらなかった。
「でも、何か嫌なことが起きる現象かもしれないですの」
そんな中で、シオンは真剣な表情で大真面目にそんなことを告げる。
「くしゃみだけで何を言っているの?」
だが、それに対するティエラの反応は冷淡だ。
くしゃみ如きがそんな大層な話になるはずがないと切り捨てていた。
「もー!何でですの!少しくらい真面目に受けとってくれてもいいですのっ!」
そんなティエラへとシオンは頬を膨らませながら抗議の声を上げる。
だが、その様子は何処か楽し気で幸せそうに見える。
「ふんっ!」
最初はティエラへと不安定な感情を揺れ動かしながら向けていたシオンであるが、今の彼女はある程度安定しているように見えた。
「……少しくらい見てくれてもいいですのよ?」
だが、それでも、声を上げるシオンを横目にして日記を書く手を止めずに視線も向けてこないティエラに向ける彼女の瞳は何処か狂気と粘っこい執念にも似た強い感情が渦巻いている。
シオンも明確に自覚はしていない。
ただ、それでも、シオンは恋にも、愛にもよく似た何処か歪で重たい感情をティエラに向け続けていた。
「うーん、でもなぁ……くしゃみ一つでそんなこと言われても」
そんなシオンに対し、何処までも楽観的な表情を浮かべ、相手の感情にまるで気づかない実に鈍感な様子を見せるティエラは呆れた様子で口を開く。
ただ、それでもティエラはシオンの方へと視線を向ける。
「ふふっ」
その視線を受け、シオンは満足そうに頷く。
「……?」
急に不満そうな態度が一変、ご機嫌になったシオンのを前にして、ティエラは意味が分からないといった様子で首をかしげる。
そして、そんなティエラはその内心で。
「(……まぁ、確かに不吉な未来は見えるかも?)」
赤と青のオッドアイのうち、青の瞳を水の惑星のように輝かせながら、そんなことを思っているのだった。
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