後始末

 首を落とした後も異形の化け物は普通に動き出すかもしれない。

 そんな警戒心を持って、最後まで異形の化け物からは視線を外さなかったが、既に相手は事切れているようで再び動き出すことはなかった。


「ふぃー」


 もう動かないな、そう確信を得てからようやく僕は構えを解いて血を振り払い、静かに剣を納刀する。


「ここか……って?」


 ちょうどそんな時、ドタバタとした音共に四階層から五階層へと降りていく階段を完全武装の一団が逆走して登ってくる。

 見たところ、かなりの強さを持っているみたいだった。

 首元に冒険者ギルドより渡される冒険者の証を持っているし、ここで長年活躍する冒険者だと思う。


「え、えっと……君たちか?あの、魔物を殺したのは」


 そんなこの場に現れた一団のうち、その先頭を走っていた軽武装に剣を一振り下げているイケメンが僕の方に声をかけてくる。


「はい、そうですね。あの魔物を倒したのは僕ですね……何か、問題だったでしょうか?倒してしまって」


 そんな言葉に反応して、僕も返答の言葉を返す。


「いや!そんなことはない。これ以上の人的被害が出る前に倒してくれて感謝する。二十階層に突然現れたそいつは多数の部下を率いて階層を跨いで行動しないというこれまでの経験則を無視して、上昇を開始。二十階層にいた連中もかなりひねりつぶし、それから上層にいた冒険者たちを次々とひねりつぶしていった奴だ。現状、把握できているだけでもかなりの被害でな。本当に助かったよ。あのまま地上にまで出ていってしまう可能性まであったのでな」


「それでしたら、良かったです」


 捕獲して、研究所に回すつもりだった、とか言われたらどうしようかと思った。


「それで……失礼な話だが、良く、倒せたな。そいつは二十階層に」


「あぁ、申し遅れました。僕はティエラと申します。本当につい最近この街を訪れ、本日初めてダンジョンに潜った者です。ですから、自分たちはちょっとこの階層よりも上の実力ですので、何とか対処出来た次第です」


「あぁ……なるほど。そういうことだったのか。初日にこんなイレギュラーの対応をさせてしまって申し訳なかったな。だが、助かった。君たちがこの街に訪れてきてくれていなかったら、更に多くの人が被害を受けていただろう。改めて感謝を」


「いえいえ、冒険者として当然のことをしたまでですよ……それで、この遺体はどうなさいますか?回収されていきます?」


「あー、出来ればそうしたいと上の方は考えているだろうが……」


「それでは、回収してもらっても構いませんよ。別に売却とかでもなく。こんなよくわからん生物を持って帰るのも嫌ですからね」


「良いのか?珍しい魔物を売れば」


「別に構いませんよ。そこまで金に貪欲というわけでもないですし。強いて言うなら、自分で倒したこいつの生態を研究する中でわかってことがあれば教えられる範囲で教えてほしいくらいですかね」


 あんな異形の化け物、ゲームにも出てこなかった。完全なイレギュラーだ。

 そんな存在を前にして、自分で売っぱらて金にしようとは思えない。

 しっかりとしたところに引き取ってもらって研究してもらった方が良い……金なんてのんびり稼ぐに限るよ。

 それが出来るだけの能力は既にあるわけだから。


「あぁ、それは当然のことだ。君が倒したこの魔物はこちらの方で」


 やりぃ、めっちゃデカい。

 

「それで?君たち二人はどうする?ここの後始末は任せてくれてもいいぞ。敵の情報等を出来れば教えてほしいが……それは後でもいい。これからも、君たちがダンジョンを潜っていきたいというのならそれを止めはしない」


「あー、そうですね」


 一応、このダンジョンに来る準備はしっかりとしている。

 そのことを考えると、出来れば下の方に行っておきたいというのが正直なところなんだけど……そう考える僕はシオンの方に視線を送る。

 果たして、あれだけ魔法をポンポンと撃っていたシオンの魔力の残りはどうなんだろうか?


「この先も降りていきますわ」


 そんな僕の視線を受け、シオンは一歩前に出て口を開くと共に自分の隣に立つ。


「この場は皆様方にお任せしますわ。この場においては新米である私たちはあまり関わらない方が助かるでしょう?私たちにもやりたいことがございますので」


「はっはっは、随分とズケズケ言ってくれるね。その通りだが、ちょっと心が痛いよ。あぁ、そうだね。君たちには出来るだけ、下の方にこのまま降りていってほしい。これから、冒険者ギルドでお抱えとなっている冒険者たちどころか、国の方から派遣されている方々も能力を使いたいからね」


「んっ、そういうことでしたら、自分たちはこれで失礼します」


 シオンとのやり取りで正直なところをありのままに告げたイケメンの言葉に僕は頷く。


「それじゃあ、行こうか。シオン」


「はいですの、失礼しますわ」


「失礼します」


「あぁ、改めてありがとう。そして、このダンジョンを楽しんでくれ」


「はーい」


 そして、僕とシオンはこの場を離れるためにこの一団がやってきた五階層へと降りる階段に向かっていく。


「ところでシオン、魔力は大丈夫なの?」


「大丈夫ですわ。まだ四分の一も使っていないですの。最初に温存しておいてこともあって。それで?ティエラの方は大丈夫でしたの?腕の方がしびれていた様子でしたが」


「ん?全然大丈夫だよ。もう治したから」


「それならよかったですわ」


 お互いの状態を確認しながら、僕とシオンは先ほどの事は忘れてダンジョンの下へ、下へと向かっていくのだった。

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