VS 異形の化け物

 巨大な異形の化け物。

 それは女冒険者のパーティーを襲っていた初めて見る魔物の体を縦にも、横にも三倍にしたような体躯をしており、その体からは謎の瘴気が噴き出していると共に、全身からは触手が飛び出して不気味に揺らいでいた。

 そんな異形の化け物の周りには、先ほど僕が倒した女冒険者のパーティーを襲っていた初めて見る魔物の姿も十数体ある。


「……明らかにヤバそうだな」


「まずは周りの連中を消し飛ばすついでに一当たりしてみますわ」


「お願い」


 まだ四階層のボスであるハイオークの死体を弄ぶことに夢中となって、この場へと新しく現れた僕たちに異形の化け物が気づいていない中で。


「偉大なる炎の龍よ。すべてを飲み込め」

 

 シオンが魔法を発動する。

 新調したシオンの杖からは巨大な炎で象られた龍が溢れだし、その龍が炎の津波となってこの場を一気に洗い流していく。


「えっぐ……」


 その威力は流石というべきか。

 シオンが発動させた魔法はほとんどの魔物を一瞬で消し飛ばしてしまうような圧倒的な火力を誇っていた。


「……うげぇ、ですの」


「……マジかい」


 だが、その龍が消えた時。

 周りにいた雑魚たちが消し炭となって灰も残さず塵となって消えていた中、異形の化け物だけは無傷でその場に仁王立ちしていた。


「ぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああっ!」


 そして、その次の瞬間。

 これまで僕たちに気づいていなかった異形の化け物はこちらへと視線を向けて、自分たちの方に突撃してくる。


「よっ」


 それに対して、僕は背中に背負っている魔剣グリムを引き抜いて異形の化け物へと立ち向かっていく。


「ぐっ……ッ!」


 異形の化け物が何の工夫もなしにただ己の腕を振り上げて下ろしただけの一撃を剣で受け止めた僕はその重さに思わず苦悶の声を漏らす。

 ……やべっ、思ったよりも強かった。


「ちぃっ!」


 僕は何とか相手の一撃を受け流して、後方へと下がっていく。


「貫けっ」


 そんな中、僕の後ろにいるシオンが魔法を発動。

 地面より巨大な土の杭が伸びて異形の化け物へと迫っていく。


「ぎゃぎゃぎゃっ!」


「……な、何で効きませんのっ!?」


 だが、そんなシオンの魔法はまるで意味をなしていなかった。

 土の杭は異形の化け物の体に突き刺さることもなく折れていった。

 そして、そんな異形の化け物は容赦なく僕との距離を詰めてきてその剛腕を振るってくる。

 異形の化け物の重たい攻撃を何とか体をねじらせて受け流していき、狙えるタイミングがあれば魔力を纏わせて切れ味を向上させた剣の一振りで異形の化け物の体を斬ろうとするが……。


「ぎゃーっ」


 ぎゃーっという悲鳴を上げていそうな泣き声とは裏腹に、僕の斬撃はまるで異形の化け物の体を斬ることが出来ていなかった。

 その間も撃ち続けているシオンの魔法も同様である。

 僕の攻撃も、シオンの攻撃もまるで届かない中で、ただただ異形の化け物が腕を振り回すだけの時間が続いていく。


「腕がしびれてきた……っ」


 そんな応酬の中で、異形の化け物の攻撃を受け続けていた剣を持つ僕の腕には多くの衝撃が伝わり、もうかなり痺れてきていた。


「だ、大丈夫ですのっ!?」


「……ッ」


 自分へと心配げに、焦ったような声をかけてくるシオンへと返答する余裕もない中で、僕は異形の化け物と向かい合って我武者羅に剣で彼の暴威に対抗していく。


「あれ……?」


 そんな極限状態の中でも。


「……吸収している?」

 

 勝利を逃さぬよう、相手の観察を行っていなかった僕は、とあることへと勘づく。

 魔剣グリムを持っている僕だからこそ気づけた兆候、流れ。

 シオンの魔法を受ける瞬間、異形の化け物の体を覆っている瘴気の動き、働きが魔剣グリムと似たようなものになってくることに僕は執念でたどり着く。


「見えた……っ!」

 

 ここだ。

 半ば直感での確信を得た僕は迷いなく自分の懐から一つの道具。

 個人で作り上げた一丁の銃を懐から取り出して引き金を引く。


「ぎゃぁーっ!?」


「貫いたっ!」


 轟音と共にはじき出された銃弾が異形の化け物を貫き、その体に穴を開ける。

 そして、そんな銃弾を受けた周りからは大きく瘴気が晴れていた。


「なるほど、ねっ!」


 瘴気がこいつの核だ。

 それでシオンの魔法も、魔力を纏った僕の斬撃も無効化していたわけか。


「ふんっ」


 相手の性質がある程度わかった僕は流れるように異形の化け物の腕を狙って蹴りを放つ……ダメだ、普通にかてぇっ!

 魔力を纏わない物理の方面でもしっかりと強さを見せないと向こうに何の影響も与えられない。

 自分の態勢とか考えずに、相手とぶつかり合いながら出す瞬間火力なら、僕の場合は拳銃が一番かねっ!


「シオンっ!」


「何ですのっ!?」


「僕の手にある道具で相手を攻撃したところ、瘴気が晴れたところを狙って魔法を打ってっ!」


「了解ですのっ!」


 僕は片手に剣、片手に銃というスタイルで異形の化け物へと向き合い、痛みか何かで明らかに動きが鈍くなっている異形の化け物の攻撃を剣で防ぎながら、銃でその体へと遠慮なく銃弾を浴びせていく。


「炎よっ!」


「ぎゃぁーっ!?」


 そして、瘴気がなくなってよく食らうようになったシオンの魔法を受け、異形の化け物は大きく体を震わせていた。


「ぎゃっ……っ」


 その果てに、足に受けた僕の銃弾とシオンの魔法を食らって異形の化け物は体のバランスを崩して無様に地面へとその体を倒す。


「しぃ───ッ!」


 無様に転んで自分の前に首を晒す異形の化け物に対して、僕は一切剣に魔力を纏わせていない剣の一振りを異形の化け物の首へと振り落ろす。


「ぎゃっ……」


 そんな僕の斬撃は確実に、異形の化け物の首を落とすのだった。

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