異変

 腐乱したような緑色をしたやせ細った人型の個体。

 頭であると思われるような場所にはたった一つの瞳だけが輝いており、その全身からは熔けた何かが滴り落ちている。

 こんな醜悪な魔物、僕はゲームでも見たことがなかった。


「……本当に、何者なんだが」


 実力的にも明らかに四階層のレベルではなかった。

 もっと上、一体一体が十階層くらいの実力はあったと思う。

 こんなのに四階層を主な活動場所とする冒険者たちが襲われたら間違いなく勝てない。

 階層の実力に見合わない魔物が現れるなんて……そんなこと、あるはずがないと思うんだけど……。


「ティエラ」


「んにゃ?」


 魔物の方に注意を向けていた僕はシオンに声をかけられたので、ほぼ反射的に上を見上げて自分を後ろから抱き着いている彼女の方に視線を送る。


「んんっ……話、聞いていましたの?」

 

 やべっ。

 普通に魔物たちのことで頭がいっぱいだったよ?僕の耳は眠っていた。


「あっ、ごめん。全然聞いていなかった……何の話かな?」


 シオンの言葉を受けて、慌てて僕は女冒険者の方に視線を向けて口を開こうとする……のだが。

 

「ティエラは喋らなくていいですの」

 

 やっぱりシオンからは話そうとするのを止められてしまう。


「そ、そんな警戒しなくとも取らな……」


「んっ?」


「えっと……」

 

 なんか、シオンってば圧力かけていない?

 何の圧かはわからないけど……やっぱり、シオンってばバットコミュニケーションなんじゃ……。


「実はですね」


 僕がそんなことを考えている間にも女冒険者は話始めようとしていた。

 よしっ、一旦は話に集中するべきだね。


「下の方では結構な異変が起こっているような現状でして。この魔物たちは下の方の階層からどんどんと上がってきているみたいなんです」


「……なんだって?もぐっ」


「私たちは元々六階層を進んでいたんですが……七階層に行こうとしたとき、下へと降りる階段から大量の冒険者たちが逃げ込んできて……それで、奴らがやってきたんです」


「ふぐっふぐっ」


「私たちに襲い掛かってきた、さっき倒してもらった魔物を大量に率いた巨大な化け物が、地上に向かって進んでいたんです。わ、私たちはそれから逃げようとしてここにまで来たんです。本当は六階層、五階層の転移陣から逃げたかったんですけど、そこらへんはもうパンパンで逃げられなくて……それで四階層の方にまでやってきたんですが、あの魔物たちに追いつかれてしまったのです」


「もガッ……なるほどね。それじゃあ、早く撤退した方がよさそうだね。ここを曲がって少し行ったところに転移陣があるから逃げた方が良いよ。そこなら近くに魔物はいないね……うん。間違いない」


 女冒険者の話を聞き終えた僕は自分の口を封じているシオンの手から逃げ、口を開く。


「ここら一帯を魔法で探知したけど、既に五階層の方にも君たちの言っていた巨大な化け物とやらが来ているね……四階層のボス部屋で、そこにいたボスをいたぶって遊んでいる」


 探知魔法を使用し続けている僕は淡々と現状、どうなっているのかの説明をしていく。


「よし。シオン。僕たちはボス部屋の方に行こうか。あそこならシオンも思う存分に魔法が使えるはずだから」


「わかりましたわ。今度こそ、私の強さを見せてあげますわっ!」


「期待しているよ」


 そして、あっさりと僕たちはこれからの方針を固める。


「ま、待ってくださいっ!?あ、あの化け物に挑むんですか!?あ、あれはダメですっ!人間が勝てるような相手じゃないですっ!」


 そんな僕たちに対して、女冒険者の一人が慌てた様子で口を開く。


「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。僕たちはそう簡単に負けるほど弱くないから」


「……っ」


 そんな女冒険者の方に視線を向けた僕は笑いかけながら任せよ、と胸を張って答える。


「……行くですわ」


「あびゃー」


 だが、次の瞬間に僕はシオンの方から抱きかかえられる。


「どこに行けばいいですの?道案内を頼みますわ」


「別に自分で歩けるよ?」


 するりと自分を抱きかかえるシオンから逃れた僕は自分の足で走り出し始める。


「じゃあね、あとのことは任せて」


「……むぅ」


 そして、僕は女冒険者たちの方から離れ、彼女たちが語っていた巨大な化け物を目指して歩を進めていく。

 先ほどまでのノロノロとした、悠長な歩みではなく全力疾走だ。


「後、どれくらいですの?」


「いや、もうすぐ……いや、もう、見えたっ!」


 全力で走ること五分。

 探知魔法で探り当てた最短距離を突っ走て来た僕たちは本来、四階層のボスが待機して待っているはずのボス部屋にまでたどり着く。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」

 

 だが、そこでは、四階層のボスであるオークの上位種。

 四階層のボスたる完全武装のハイオークを散々と甚振った上で止めを刺した、女冒険者たちが語っていた巨大な化け物が汚い笑い声をあげているのだった。



 ■■■■■


 新作です!

『悪役貴族に転生した僕は主人公を倒せるくらいの世界最強となり、悪役らしく女を囲って自分の思うがままにこの世界を自由に生きて好き放題に無双する』

https://kakuyomu.jp/works/16818093082544194896

 自信作なので、読んでくだせぇっ!

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