救助
悲鳴が聞こえてきた方向に向かっていく僕とシオン。
「……見つけた」
その悲鳴を上げた声の主はすぐに見つかった。
自分たちがたどり着いた場所では今、明らかに四層のレベルではない魔物たちに襲われ、壊滅しそうになっている女性たちの冒険者パーティーの姿があった。
「シオン、保護をお願い。敵は僕が斬る」
「わかりましたわ」
剣へと手を伸ばした僕は急加速。
「手助けしますっ!ここは自分にまかせてくださいっ!」
今まさに、一体の魔物がその手に持っているハルバードを振り下ろし、地面に倒れていた女性の頭をかち割ろうとしていたタイミングで僕は割り込み、その一刀を剣ではじき返す。
「こ、子供っ!?」
「……まぁ、そうだけど」
子供かと声を上げた女性に対して、僕は思わずボヤキ声を一つほど漏らしながら、自分の手にある剣を回す。
魔物の持つハルバードを強引に横へと受け流して、魔物の態勢を崩させ、そのまま僕はがら空きとなった首へと蹴りを一つ。
靴のかかとに小さなナイフを忍ばせている僕の蹴りは確実に魔物の首を斬り裂いて、血の噴水を上げさせる。
「よしっ、と」
これで一体目。
この場にいる魔物は全部で六体……なので、後五体だな。
「えっと……これで」
既に襲われそうになっていた女冒険者たちはシオンが発動させた結界によって守れている。
焦って叩き潰す必要はなさそうだ。
「ぎゃぎゃっ!」
「ぐぎゃーっ!」
「うげっ」
何てことを考えた瞬間。
僕の元に向かって五体いた魔物たちが一斉に僕の方に向かって飛び掛かってくる。
「……ッ!」
そうだった、魔物も襲い掛かってくるから、結局のところは悠長にしていられないっ!
「ふぅー」
僕は冷静に自分への第一陣として突っ込んできた魔物の攻撃を回避し、その振り返りざまの剣の一振りで相手の首を落とす。
「ぎゃぎゃっ!」
剣を振り抜いて一体を倒した僕に対して、魔物たちは統率の取れた動きで迫ってくる。
「「ぎゃっぎゃぎゃー!」」
魔物たち二人がかりで僕の振り抜いた剣を掴んで固定。
「ぎゃっー!」
そして、僕の武器を封じた上で他の三体が襲い掛かってくる。
それに対しても冷静に。
迷いなく剣の柄を離して、マントで隠していた肩のホルダーからかなり小さめな短剣を二つ抜いて二振り。
「「ぎゃぎゃっ!?」」
「ぎぃーっ!?」
これで二体を撃破。
そして、残りの襲い掛かってきた一体には手にある短剣を投げつけることで対処する。
「ラスト」
一瞬にして自分たちの味方が倒されていたことに呆然としていた、僕の剣をしっかりと握っていたままの魔物たち二体へと、ここまでの流れの中で準備していた熱線の魔法でもって、彼らの眉間を打ちぬいて確実にその命を断つ。
「疲れた」
いきなりギアを上げたから、ちょっとだけ疲れたわ。いきなり敵が強くならないでほしい。
そんなことを考えながら、視線を魔物たちから襲われていた女冒険者たちの方に向ける。
「だいじょ───」
そして、そのまま大丈夫であるかと尋ねようとするのだが……。
「大丈夫でしたの?」
それを強引にシオンが遮って、セリフを奪ってくる。
「……っ?」
何時の間にか自分の背後に立っていたシオンの手によっての口を片手で塞がれ、体をホールドされるような形にされている僕は首をかしげる。
何で急にこんなことを?
「馬鹿ですのっ」
そんな僕に対して、シオンは耳打ちしてくる。
「ティエラはギルドの受付嬢から詐欺師に気を付けてと言われるほどにわきが甘いですの。こういう接触の場には向かないですの。ここは貴族として豊富な経験を持っている私の出番ですわ」
「……そっかぁ」
確かにそうかも。
僕が他人に騙されている確率はかなり高いしなぁ……人間関係の面で圧倒的な経験を持つシオンの方に交渉事は任せた方がいいのかもしれない。
……。
…………。
いや、駄目じゃね?今のシオンならともかくとして、悪役令嬢だった頃のシオンはバットコミュニケーションの極みだったでしょ。
コミュニケーションを成功していたら、シオンはここにいないし。
全然、任せるに値しなくない?
「私に任せるんですの」
「……まぁ、わかった」
でも、なんかシオンはすっごく自身満々だしな。
円滑なコミュニケーションの方法は知っていた上で無視していたタイプ、ってことなのかな?
「襲われていたみたいですが……怪我はないのですの?怪我がありましたら言ってくれませんこと?私が回復魔法で治して差し上げますわ」
「じゃ、じゃあ……私の片目を治しちゃくれないか?あいつらの不意打ちを受けて潰されちまったんだ」
「馬鹿っ!そんなこと出来るわ……」
「お安い御用ですわ」
「……いたくねぇ」
「嘘っ!?」
おとなしくシオンの言葉に頷き、彼女が女冒険者と話しているのをただ見守ることしかできなくなってしまった僕は自分の視線のほどを女冒険者の方から魔物たちの方へと再度移す。
「……こいつらは何?」
自分が先ほど倒した魔物の姿。
それはこれまで自分が見たことのないような、実に醜悪なものだった。
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