迷宮攻略
大穴の迷宮ブーイオ。
その内部に広がっているのは石畳の細い道が入り組んだ迷路である。
The・ダンジョン、とでも言うような井出立ちではあるが、そもそもとして、迷宮の内部というのは基本的に各迷宮、階層ごとに違っている。
普通の迷宮の場合、一階層は森林、二階層は洞窟……といった感じになっているところが多いのだが、ここは最下層の一つ前までずっとこの石畳の迷路が続いている。
ここの迷宮は全部で50階層まであるので、49階層まで延々と迷路を下っていくというわけだ。
「今、何階層まで来ましたの?」
「多分、今で四階層だったと思う」
「想像よりも進めないですわね。もう、三時間は歩いているといいますのに」
「そうだね」
そのため、攻略には非常に時間がかかるのだ。
僕は隣を歩くシオンと言葉を交わしながら、長い長い迷宮の中を進んでいく。
「前方にオークが三体」
そんな中で、曲がり角から姿を現した二足歩行した豚型の魔物であるオークが三体ほど現れ、僕は口を開くと共に軽く地面を蹴る。
「軽く倒しちゃうねっ」
背中の剣に手を置き、抜刀。
僕の太刀筋は確実に、無駄のない動きでオークの首を跳ね飛ばした。
「流石ですわ」
そんな僕を見て、シオンが称賛の声をあげながら自分の方に近づいてくる。
「……でも、あまり、私の方が輝けなそうですわ」
「……まぁ、ダンジョンの中だからね」
シオンの魔法は一個一個が強力だ。
だからこそ、この狭いダンジョンで発動させるのは少しリスキーだった。
流石に天井が崩れるほど脆くはないと思うけど……それでも、これだけ狭いと自分がまきこまれる可能性もあるし、離れたところにいる他の冒険者たちの方にも影響が届くこともあるから。
「まぁ、でも、いずれは見せ場が来るから。ボスがいるところとかはちゃんと広いし。まだシオンの強力な魔法を使うべきところじゃないんだよ。いつかは、ね?」
「……むぅ」
「それに、今のところここの魔物はまだ弱いからね。まだ僕に甘えていてよ」
四階層なんて迷宮の序盤の序盤だ。
長い迷路を進むのに時間がかかっているために三時間くらいかけてもまだ四階層だが、自分たちの実力的にはここを軽く踏破出来るレベルだ。
「……もう十分支えてもらっているからこそ、私はもっと、ティエラに恩を返したいのですが」
「隣にいてくれるだけで満足だけどね?」
やっぱ隣に誰かがいるってのは良いものだ。
これまで一人でワイワイ言いながら観光してまわっていた。
それも当然楽しいが、それでも、隣に誰かいる方が喜びも倍だった。
「……これで何の自覚もないのが感じられて、ティエラにはムカつく」
「何がっ!?」
急にムカつかれたよっ!?泣くっ!?
「気を取り直しましょう」
「う、うん……」
全然、取り直せる気がしないけど。
「私はあまりこの迷宮のことは知らないんですが、自分たちが三時間でここまでしか来られませんでしたの。この迷宮、最下層にまで行けるんですの?」
「あぁ……それは、大丈夫だと思うよ。ここの迷宮は特別だからね」
普通の迷宮の場合。
例えば、五階層を目的として一階層から降りていったとき、目的の階層に着いて帰ろうとしたらまだ上に上がって一階層の方にまで戻らなきゃいけない。
それに、その次の日もまた一階層からダンジョンを潜っていくことになる。
「ここは迷宮内にある帰還用の魔法陣を踏むと一階層にまですぐ戻れるんだよ。そして、次に穴の方へと落ちれば前回に踏んだ帰還用の魔法陣に戻ってこれるんだよね。だから、ちょっとずつ下へ下へと踏み込んでいくことが出来るんだよね」
「……ちょっと怖いシステムですわね。どうなっているですの?それは」
「ただの転移ではあるけどね」
「……誰かもわからない他人の使う転移ほど怖いものもないですわ」
「まぁ、それもそうだね」
ここの迷宮がどういうメカニズムで動いているのかも、ゲーム内ではちゃんと説明されていたからこれが安全であることはわかっているが、それをここで言うわけにもいかないからお口チャックするしかないよね。
「っとと」
こんな風に会話しながら進んでいる僕とシオンだが、その道のりの中でも普通に魔物は自分たちの前に現れ続ける。
「せいっ」
それを僕は自分の魔剣グリムであっさりと返り討ちにしていた。
「……それにしても、太刀筋が綺麗ですわ」
「そう?独学だからそう言ってもらえると嬉しいな」
「元貴族である私の目から見てもすごいですわ……本当に、美しいですわ。その剣技の他にも様々なものを使える。本当に、凄いですわ」
「そう言ってくれると嬉しい」
覚醒するのを期待して、毎日、馬鹿みたいに色々なことを学んできた甲斐があるよ。
「きゃぁぁぁぁぁあああああああああああああああ」
僕がシオンから褒められてほっこりとしていた時、自分たちの耳に一つの女性の悲鳴が聞こえてくる。
「何かあったのかなっ……近いな。行くよ!シオン。助けられるかもっ!」
「……わかりましたわ」
その悲鳴を受け、僕は迷いなくその悲鳴の元へと向かっていくのだった。
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