迷宮へ
迷宮都市アネッロの観光を満喫した次の日。
「よしっ……と」
僕は宿屋で完全武装の姿となっていた。
自分でデザインした黒を基調としたポケットの多い軍服風の衣装を身に纏い、自分の背丈ほどある剣を背中に背負う。
そして、細かな武器を自分の体に隠していき、最後にマントを羽織えば完成である。これで僕の武装は完了である。
「僕は準備出来たよ。シオンの方は終わった?」
「私の方も問題ないですわ」
僕が準備終わったことを告げると、すぐにシオンの方から準備が終わったとの答えが返って来る。
「じゃあ、開けるよ」
それを受け、僕は今、自分たちが泊まっている部屋を二つに仕分けていたカーテンを開ける。
僕とシオンは同部屋だからね。いちいち着替えるときはちゃんと仕切りを作ってお互い見えないようにしないとね。
「はいですの」
カーテンの向こう側にいるシオンはいつもの格好に魔法使い用のローブをまとい、杖を持っただけだ。
僕と違ってシオンの準備はすぐに終わっていたと思う。
「ごめんね、待たせて」
「全然、大丈夫でしたわ……それにしても、完全武装の時のティエラの格好は珍しいですの」
「まぁね」
僕がオリジナルで作っている衣装なのだ。
そりゃ見る機会はないだろうね。
ちなみに、僕が自分の衣装のデザインに軍服を選んだのは純粋にカッコいいからだ。
軍服ってどうしても厨二心惹かれちゃうよね。
前世で生きていた分と合算すると、普通に自分の精神年齢は三十路なのだが、精神年齢は体の方にかなり引っ張られている感覚があるのだ。
そのため、僕は現在進行形でバチバチに厨二病である。
「でも、カッコいいですわ」
「ありがとう」
「それじゃあ、早くダンジョンの方に行きますの。私の頼もしいところを見せますわ」
「そうだね。期待しているよ」
「もちろんですわっ!」
僕はシオンと和やかな雰囲気で会話を交わしながらダンジョンへと向かっていく。
「それにしても、その他の冒険者と挨拶をしなくていいのだろうか?」
そんな中で、ふと思ったことを口にする。
昨日の夜のうちに冒険者ギルドの方には顔を出し、迷宮へと潜る許可証は貰っている。
だが、その場にはもう夜遅くてほとんど冒険者はいなかった。
そのため、同業者たちにはほとんど挨拶出来ていない。さてはて、そんな状況で大丈夫なのだろうか?
そう思っての僕の発言。
「別に要らないですわ。私も冒険者の方々とはよく協力して様々なことに取り組んでまいりましたが、彼らはそこまで大きな横の繋がりは持っていませんでしたわ。大きな街であれば、こんなものですの」
それに対して、シオンは問題ないと断言してくれる。
「そんなものかぁ……」
そのシオンの言葉に僕は頷く。
そんなものだというのなら、そういうものかもしれない。これまで僕が回ってきた街はこじんまりとした小さなところが多かった。
それで、僕が知らないだけだと言われたら、そうかぁ……となるしかない。
「着きましたわね」
そんな話をしながら街を歩いていれば、迷宮にまでやってくることが出来た。
「よし、入ろうかっ……!」
改めてやってきた迷宮。
それを前にして、僕は再度テンションを最高潮にまで高ぶらせて意気揚々と口を開く。
「ちょ、ちょっと待ってくれますの?」
だが、そんな僕を自分の隣にいるシオンが止めてくる。
「ん?どうしたの?」
「手を繋いでくれませんこと?あまり、ここへと最初に飛び込むのには勇気がいりますわっ」
「なるほどね」
確かに、底の見えない、ただ闇が広がっているだけの大穴に飛び込むのは勇気がいるか。
「はい、これでいい?」
「良いですわっ!」
テンションが最高潮で高ぶっていた僕は周りに女性も含め、多くの冒険者がいることも気に留めず、シオンの手を取る。
「よしっ!じゃあ、行こうか」
「そうですのっ!」
そして、僕はシオンと手を繋いだままダンジョンの中へと入っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます