迷宮都市観光
迷宮都市アネッロの中心。
そこには巨大な穴が開いている。
まるで底は見えない。
ただただ真っ暗闇が広がるだけの巨大な穴が迷宮都市アネッロの中心には存在しているのだ。
「おっほー!」
ゲームでも圧倒的な存在感を誇っていたその常闇の穴を前にして僕は歓声の声を上げる。
やっぱり何回見ても、ゲームで目にしていた壮観な光景を前にしたら、テンションが上がってくるね。
「行くぞっ!お前ら」
「「おーっ!」」
「一攫千金だァっ!」
「その前にっ、死なないようにねっ!」
「そんな思惑で冒険者をやっていられるかぁっ!」
そんな僕の横で、完全武装な多くの冒険者たちが次々と穴の中に飛び込み、その体が消滅する。
これが、迷宮都市アネッロにおける迷宮の性質なのだ。
ここの迷宮の名をブーイオ。普通の迷宮であればしっかりとした入り口に地上と迷宮を繋ぐ階段が用意されているのだが、この迷宮の入り口はこの穴だけとなっている。
穴の中に飛び込むと迷宮の中に転移させられるのだ。そして、出るときは迷宮内部にある脱出口へと飛び込むと外に出られるのだ。
「よし、行こうか」
自分の隣で冒険者たちが迷宮の中に飛び込んでいく中で、僕は隣にいるシオンへとここから離れようと告げる。
「そうですわね」
今の自分たちはまだ、迷宮へと潜る準備を整えていない。
まだ、観光客気分である。
「やっぱり、この街に来たからは大穴の迷宮ブーイオの穴は見ておきたいよね」
「そうですわね。私も初めて見ましたが、圧巻でしたの」
満足感たっぷりの僕はシオンと感想を言い合いあながら、迷宮の方から離れていく。
「それにしても、その手にある黒い箱は何ですの?」
そんな中で、シオンが僕の手の中にあるカメラについて疑問の声を投げかけてくる。
「あぁ……これは映像を記録するための道具だよ。自分で作ってみた」
目で見て、自分で覚えればよいと言われればそれまでだが、何でもかんでも写真で取りたがる現代日本人である僕としてはどうしても記録として写真は残しておきたいのだ。
そのために、カメラのない世界に僕は魔法に聞きかじりの知識でもって何とか、カメラっぽいものを作り上げたのだ。
解像度も悪くないし、ちゃんとカラーだ。個人的には大傑作だと思っている。
「へぇー、便利なんですの。というより、ティエラは魔道具を作れるんですのね」
「そうだよ。僕が地味に得意なこともかも」
魔道具。
それは魔法を組み込み、特別な効果をもたらす便利な道具のことを指す。
「へぇー、良いですわね」
「ありがとう。それで?これからどこかに行きたいところとかある?」
「そうですわね……私は特にないですわ」
「ほら、新しい杖とかは?この街は迷宮よりもたらされる様々なものによって潤う土地」
迷宮内には様々な宝物、そこにしかない鉱物、そこにしかいない希少な素材をその身に宿す魔物。
数多多くの金成るものが存在する。
そして、それら迷宮の恵みに危険を承知で群がる冒険者たちより引き上げられてくる素材によって潤うこの街ではその迷宮内部より採られる物で作った高性能な武具が数多く存在する。
それらが出回るこの街の武具は常に高品質だ。
「今、シオンが使っている杖って適当な武器屋で買った安物でしょ?迷宮へと潜る前に新しい杖を買いなよ」
「……とはいえ、私にはお金がありませんわ」
「いや、貸すよ。お金くらい」
「そんなこと出来ませんわ……金を借りるなんて情けないところを見せて貴方からの信頼を失いたくはないですわ」
「そこじゃ、信頼を失わないよ。必要な出費だともわかっているしね。本当に信頼を失うのはお金を返してくれなかったとき。でも、一緒にいるなら大丈夫でしょ?僕とシオンが離れ離れにならない限り、お金を貸したという事実からは逃げられないわ」
「借りますわ」
「はやっ」
爆速で金を借りることを決意するシオンを前に僕は驚きの声を漏らす。
もう僕の言葉を遮っていたじゃん。その勢いは流石にびっくりする。
「それで?ティエラは何か買いますの?」
「僕は今、持っている剣が気に入っているから……珍しい魔道具とかあると良いなぁ」
自分がメインウェポンとして使っているのはゲームの本編でも登場する伝説上の魔剣グリムである。
頑丈で切れ味抜群。なおかつ、触れたものの魔力を奪うという優れものだ。
見た目も刃身が黒く染まっていること以外、派手なところはところなし。シンプルで上品なデザインであり、すごく気にいっている。
こいつはゲームのサブストーリーにおいて、主人公が寂れた遺跡を探索した時に見つけた古文書。
そこに書かれていた場所に眠っていた魔剣だ。
それを僕は古文書とか抜きにダイレクトで魔剣の眠り地へと赴き、そのままかっぱらってきた。
「きっとありますわ。それじゃあ、一緒に買い物……でぉーと、にしますわっ!」
「……うん?あぁ、そうだね」
「……っ!」
買い物の後がうまく聞き取れなかったが、とりあえず頷いておいた僕はそのまま上機嫌になったシオンと共にこの街を歩くのだった。
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