迷宮都市アネッロ

 ミルヘンを後にし、そのまま三日ほどの道中を超えて。


「着いたーっ!」


 僕とシオンは目的地であった街へとやっていた。


「おぉー……すげぇ」


 今回、やってきたのはゲーム四章に出てくる巨大な迷宮を中心とする都市、アネッロである。

 迷宮都市アネッロに来た僕は毎度のことながら、ゲームの姿ままである街の様子を前に感嘆の声をもらす。


「いやぁ……凄い」


 街へと入る門を超えて、大通りを馬車に乗ったまま進んでいく僕は周りを見渡しながら、ただただ感嘆の声を漏らし続ける。


「これからはどうしますの?」


 そんな中、自分の感動を共有してはいないシオンが僕へとこれからについて聞いてくる。

 ヤバい、ヤバい……一人で勝手に盛り上がりすぎていたね。


「えーっと、まずは馬車を何処かに一旦預けて、その後にお風呂からかな?」

 

 これからどうするか。

 それを尋ねられた僕は答えを返す。

 移動中の三日間、お風呂に入れたわけじゃなかった。

 そのせいでかいた汗とかはそのままでもう体がベタベタである。

 自分の隣に座っているシオンからもちょっと濃厚な匂いがしているからね……恐らく、僕の方もそこそこ匂っているだろう。

 魔法で自分の体を清潔にすることも可能だけど……魔法を使用するのに消費する魔力だって無限というわけではない。

 基本的に旅の中で自分の身なりのために魔法を使うことは禁忌なのだ。


「……お風呂ですの」


「そう。お風呂……えっ?何か不満?」


「いや、ただちょっともったいない……」


「もったいない?」


 お風呂ともったいないって、一体何処に関連性があるのだろうか?


「いや!なんでもないですの。早く、お風呂に行きますの。お風呂ってとてもいいですわよね」


「だよねっ!僕は自宅に必ずお風呂を作るくらいには風呂好きだから……本当に、お風呂は良いよぉ」

 

 やっぱり、日本人たる者。

 毎日、湯船に浸かってゆっくりとしたい。


「うん……そうですの」


「それじゃあ、そういうことで!宿屋を探すのは大浴場でゆっくりと温泉に浸かった後ということでっ!」


 ゲームにも大浴場は出てきていた。

 ずいぶんと綺麗で大きな大浴場が。


「ふんふんふーん」


 あそこに入れるのかぁ……もう、毎日、あそこに行っちゃおうかなぁ……。

 そんなことを考え、気分よく鼻歌なんかを歌っちゃう僕はまず、馬車を置きに向かうのだった。


 ■■■■■


 僕たちが迷宮都市アネッロに着いた頃にはまだ空の一番上で輝いていた太陽は既に沈んでしまって暗くなった夜。


「ふぃー、サッパリしたぁ」


 お風呂でまったりした後、すぐに見つけて入った宿屋の一室で僕は深々と息を吐く。

 いやぁー、大浴場に居過ぎたね。

 マジで一人で三時間くらい入っていたせいで夜が更けてしまった。

 あまりにも夜になりすぎて、もう時間的に宿屋がとれるか怪しいところまで行っていたのだが……すぐに良さげな宿屋を見つけることが出来た。

 おかげで宿屋難民へとならずに済んだ。

 割と夜遅くだともう宿泊客の受け入れを辞めてしまう宿屋も多いからね。

 結構あるのだ、宿屋難民になることが。

 

「ふふん」

 

 しかも、ここはゲームで主人公たちが泊まっていた宿でもある。

 これにはもうテンションを上げることしかできない。

 ゲームに出てきた大浴場でまったりとして、その後にゲームで主人公たちが泊まっていた宿屋に自分も止まる。

 これ以上はもうないね。

 

「気分が良さそうでよかったですわ」

 

 非常に気分の良い僕の横にいるシオンがそんな自分を見て、微笑ましいものを見るかのような視線と共に言葉を漏らす。


「いや、ごめんね。ずっと、お風呂に入っていて」


 そんなシオンへと改めて、自分の長風呂についての謝罪の言葉を口にする。


「気にすることはないですわ。私も結構長い間、入っていましたし」


「そう言ってくれると助かるよ……それで、なんだけど、本当にこれで良かったの?」


「何がですの?」


「いや、部屋……」


 今、自分とシオンがいる部屋には二つのシングルベッドが置かれている。

 まぁ、つまりは僕とシオンは同部屋なのだ。


「この三日間、一緒に旅してきましたの。今更ですわ。私たちはいつも、ほとんど隙間のない荷台で詰め詰めになりながら寝ていましたの。本当は一緒のベッドでもいいくらいですわ」


「いや、まぁ……そうなんだけど」


 それ以外に選択のない、しょうがないときに二人で寝るのと、別に必要がない中で同部屋にするのとでは、話題が違うような気もするのだが。


「それとも、何ですの……?ティエラは、私と一緒に居たく、ないんですの?」


「いや、別にそういうわけじゃないけど」


「なら、構わないですの。早く夜ご飯を食べますの。私はお腹が空きましたわ」


「まぁ、良いかぁ……」


 別に、シオンが良いというのならいいか。

 ただの童貞に過ぎない僕が異性と同室であることに警戒する理由なんてあるわけもないし。警戒しなきゃいけない側が大丈夫だと言っているのなら、それに流されることとしよう。


「そうだね、夜ご飯にしようか」


 同部屋であることを出来るだけ気にしない覚悟を決めた僕は部屋に来る前、露店で買ってきた食べ物をシオンと共にテーブルの上に広げ始めるのだった。

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