初依頼
ミルヘンから徒歩で移動すること一時間ほど。
僕たちは常闇の森林へとたどり着いていた。
「今日、受けた依頼は軽めなのにしておいたんだよね」
ここまでシオンとマジで依頼とは関係ない話で盛り上がった僕は、常闇の森林へと足を踏み入れたところでようやく依頼について言及する。
「そうなんですの?」
「今回受けた依頼は増えすぎたゴブリンの討伐。歯ごたえはないけど、最初ならこれくらいでいいかなって思って」
ゴブリン。
それはこの世界に多くの種類ある魔物たちの中でも最下層に位置するよう魔物である。
だが、一個体の強さは弱いのだが、生殖能力が強く、時折大量発生することもある危険な魔物である。五億を超えるゴブリンの群れを相手に滅ぼされたような国もあるほどだ。
まぁ、基本的によくあるゲームの設定と同じ感じ。弱いけど、かといって時々ヤバい奴ら。
それがゴブリンだ。そんな子は肩慣らしにちょうどいいでしょう。億超える前に増えているゴブリンを駆除するのは誰かがやらなくてはならないこと。
それをちょっと簡単に実力確認したい僕たちがやるのは理にかなっていると思って、あまり旨味はないゴブリン討伐の依頼を受けたのだ。
「シオンはどうかな?ゴブリン退治でいい?」
とはいえ、しっかりとした英才教育を受けて、多くの経験を積んできた貴族であるシオンは今更ゴブリン退治とか嫌かもしれない。
そう思って、シオンへとめちゃくちゃ今更になって疑問の声を投げかける。
「私は別に、ティエラが選んだ奴なら何でもいいですの。全部、ティエラの言うことを聞きますわ」
だが、それに対するシオンの答えはちょっと斜め上だった。
「いや、別にシオンも意見していいんだよ?」
「別にしないですの。今の私にはティエラしかいませんわ。私はずっと……ティエラには、捨てられたくないですの。ずっと、ずぅーっと、一緒にいられるように……私は、ティエラの意見であれば無条件に聞きますの」
「いやいや、それは何かちょっとパーティーの在り方としてちょっと違うじゃん。意見を言われて怒るほど僕は狂っていないよ。全然、嫌いになったりしないから、安心して?」
「……」
結構マジな表情と声色で僕への絶対的な肯定感を示し、それが跳ねのけられるだけで捨てられた子犬のような表情を浮かべるシオン。
そんな彼女にちょっとだけ引きながら、僕は言葉を話していた。
うーん……あのゲームでの勝気な姿は何処に?
でも、まぁ……死にかけるような経験をしたらしょうがないのかな。色々と肉体的にも、精神的にも限界が近かったんだろうし、依存しちゃうのもしょうがないのかなぁ。
「まぁ、頼られて悪い気もしないけどね」
「……っ」
とはいえ、僕に依存しているのも彼女が心に傷を負っている僅かな時間くらいでしょ。
しばらくは受け入れて、シオンが立ち直るのを待ってあげようかな。
僕はシオンが回復した後も、同じパーティーを組んでいたいのだ。弱っていることに付け入って好き放題するようなこともしない。
自分が困っているとき。隣にいてくれてよかった、そう思ってもらえるようにならないとね。
そうじゃなきゃ、シオンに愛想つかされてパーティーから抜けていってしまう。そうならないように頑張ろうっ!
「というわけで、まずは一体目」
そんな会話をしながらもしっかりと常闇の森林を歩いていた中で、まず一体目のゴブリンを見つけた僕は相手に向かって迷うことなく魔法を発動。
自分の手元で輝きだした魔法陣から一つの炎の矢が放たれ、ゴブリンの頭を打ちぬく。
「……って、最初に僕が倒すのは不味かったかな?」
その後、僕はシオンの方に視線を向けてペロリと舌を出す。
「僕の戦闘方法ってば、癖が一切ないからね。剣や体術を使った近距離戦闘。魔法を使った中遠距離戦闘。ほかにも回復、隠密行動、感知。基本的なことは何でも出来る子だからね。戦い方で見せることなんてほとんどないんだよね」
「……いや、全部が使えるって結構、癖ありませんこと?そんな人いませんわ」」
「ただの器用貧乏だよ。次はシオンがどんな感じなのか見せて。僕はそれを参考にしていくわ」
僕はただ、自分にあった才能を見つけられなかっただけだ。
得意なものを見つけられなかったのにも関わらず、何時かどれかは覚醒すると思って、全部に手を出したまま成長して、しっかりと器用貧乏になっただけである。
そんな僕のことよりも、シオンの方である。
「わかりましたわ……ちゃんと、私の価値を示して見せますわ」
シオンの戦い方を見たいと告げる僕に対して、彼女は握りこぶしを握ってやる気を漲らせる。
「うん、期待しているねっ」
とはいえ、僕はもうシオンの戦闘方法は知っているけどね。
シオンはゴリゴリの魔法使いタイプ。ありとあらゆる魔法を高レベルで使いこなし、敵を高火力で消し飛ばすような戦闘方法を用いる。
「それじゃあ、ゴブリンの数をどんどん減らしていこうか。あまり、家に帰るのが遅くなるのも嫌だからね。引っ越し作業をしたいから」
「はいですの」
依頼で受けたゴブリン駆除の為、僕はシオンと共に常闇の森林を歩いていくのだった。
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