ささやかな嫉妬
僕が昨日、シオンを拾う前に受けていた依頼は、危険な魔物たちの生息地である常闇の森林の奥深くに生えている貴重な薬草の採取の依頼だった。
「流石はティエラ様です。本日も丁寧な採取です。こちらは高価買取とさせていただきますね」
「そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう」
まずは依頼の達成金。
そして、採取してきた薬草の買取金。
その二つを合わせての金額はかなり高く、僕はホクホクである。
「むふー」
僕は満足顔でたっぷりお金の詰まった袋を受付から受け取って、冒険者登録を行っているシオンの方に戻ってくる。
「どう?終わった?冒険者登録」
「終わりましたわ。シオンの名前でしっかりと冒険者に登録しましたの。後、パーティー登録の方も受付嬢の方がやってくれましたわ」
「なら、良かった。それじゃあ、今日の依頼を見繕ってきたからもう行こうか。出発が遅れたら、帰りも遅くなるだろうし」
「わかりましたわ」
冒険者登録を終えたシオンと共に、僕は冒険者ギルドから出るために扉の方に向かっていく。
そんな中で。
「おいおーいっ!なんだ、何だァー?お前にもとうとう春が来たかー?」
酒場の方で酒を飲んでいた冒険者が女連れの僕へとヤジの言葉を投げかけてくる。
「ねぇー?私との一年間の熱い思いではどこに行っちゃうのー?」
「私のぺットになってくれるっていう約束はー?」
ヤジをかけてくる割合で言うと、男の冒険者よりも女冒険者の方が多かった。
まだショタと言える僕は冒険者のお姉さん方にはそこそこ人気なのだ。
「僕はまだここに来てから一か月ちょっとだよっ!酔っ払いの戯言はいらないんだよっ!後、ペットになるってのは何なんっ!?そんな怖い約束をした覚えはないよっ!」
そんな僕は女冒険者たちのヤジを一蹴する。
とはいえ、彼女たちは基本的に酔っぱらっているときに揶揄いのヤジを飛ばしてくるだけだ。
素面で会っても、まともに目も合わせてくれない……まともに取り合う価値はなし。僕に彼女が出来る気配はなしというものである。
「私とエッチなことしようよー」
「黙れっ!ビッチっ!」
「ひゅー、流石モテ男だぜっ!大変そうだなっ!」
「汚ねぇ、バーコードハゲとは違うからな、僕は」
「殺すぞてめぇっ!!!」
「羨ましいなぁー!おい!ということで、祝いだっ!私の分の酒を全部奢ってくれっ!」
「逆ぎゃくぅ!」
やいのやいの言ってくる冒険者たちのヤジへと律義に返しながら、僕はシオンと共にギルドの扉にまで向かっていく。
「あーんっ!?待ってよぉー!」
「僕は依頼に行くんだよぉ!」
「そんな稼いでどうすんだよっ!毎日のように依頼へと言っているじゃねぇかっ!」
「お金が欲しいんですぅー。じゃあ、行ってくるねぇー」
僕は世界中を旅することを望む旅人である。
当然、その行中にはお金がかかる上に、何故か世界中に別荘が欲しいという思考に至ってしまった僕はこれまで通ってきた場所、ガッツリと滞在していた場所すべてに家を買っている自分の浪費ぶりは想像を絶する形になっているのだ。
ちゃんと毎日働かないと。
「よし、行くよ。シオン」
「……わかりましたぁー」
ヤジとのやり取りを途中で強引に終わらせた僕はシオンと共に冒険者ギルドを後にする。
「ティエラ」
冒険者ギルドから出た瞬間。
シオンは僕の方に声をかけてくる。
「んっ?」
「その他の冒険者方……女冒険者たちと仲がよろしいですわね」
「そう、かな?そこまで仲いいわけじゃないと思うよ。そもそもとして、僕がここに来てから一か月くらいしか経っていないからね。でも、同業者として接することは多いし、ちょくちょく助けに入ったり、みたいこともあるから。仲悪いってわけじゃないよ」
互いにヤジを言い合える関係ではある。
これで仲悪いとは言わないよね?
「……そうなんですね」
「そうだよぉ」
「ちなみに、この街を離れる予定は何時頃ですの?世界を旅したいという話でしたが」
「ん?そうだね……もう、そろそろ街を出る予定ではあるかな」
見たかったゲームの三章に出てくる常闇の森林は堪能できたし、この街にも別荘は買えた。
もうやりたいことは全部出来たかな。
「なるほど。そうですの。それは、何日後ですの?」
「えっ?何日後……?そんなすぐに行こうとは思っていなかったけど」
「私は出来るだけ早くここを移動したいですわ。もう嫌なことからは目を背けることにしたんですの。私は自分をどん底から助けてくれたティエラと一緒に、生家のことなんて忘れて、世界を旅したいですわ。旅をする感覚、というものをすぐに味わいたいですの」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃん!それじゃあ、今日の依頼が終わったら、明日にも荷造りを初めてこの街を出ようか。次の目的地ももう僕は決めているんだよね」
「楽しみですの。早く、新しいところに行きたいですわ」
「よしっ。それじゃあ、その移動の為のお金を稼ぐためにも今日の依頼もしっかりとこなしてお金を稼ごうね」
「はいですわっ」
もうすぐにでもこの街を出ることを決めた僕はシオンと共に意気揚々と本日の依頼へと向かっていくのだった。
「……一緒に旅をするのは私だけですわ」
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