冒険者
シオンが仲間になることが決まった後、僕は意気揚々と彼女と共に外へと出る……よりも前に、彼女の為の服を買いに行った。
飲んでいるときも、朝起きたときも、ずっと何時はちきれてもおかしくない。何時、大切なものがまろび出てもおかしくないようなシャツを一枚だけ着ているようなシオンをあの姿のまま、外に出すことは出来ないからね。
「わざわざありがとうですわ。私の為に服まで買ってきてもらって」
僕がシオンに買った服はフード付きで体の露出がほぼゼロと言った感じの服だ。
彼女は国元から追放された公爵令嬢。
そんな身だからこそ、出来るだけ体を隠せるようなものがいいかな?と、思ってのチョイスである。
まぁ、体を隠せそうでおしゃれなのを探したら、割と服の色が明るめでちょっと目立つような服になっちゃったけど、別にいいよねっ!
「気にしなくていいよー」
というわけで、自分が買ってきた服を着てお礼の言葉を告げるシオンと共に、僕は再びの外出を行っていた。
「そういうわけにはいかないですわ。必ず、お金の方は返しますの」
「本当に気にしなくていいんだけど、金にそんな困っているわけじゃないし……っと、着いたよ」
一回目の外出の目的地は服屋。
そして、二回目の外出の目的地は冒険者ギルドだった。
「冒険者ギルド、ですの?」
「そうだよ。僕は冒険者だからね」
冒険者。
それを簡単に語るとただの何でも屋である。
街の清掃や、探し物、話し相手など、多種多様な依頼をこなしてお金を稼ぐ者たちのことを冒険者という。
ただ、そんな何でも屋とはいっても、基本的に経験の多い冒険者がこなす依頼は決まっている。
魔物退治や採取依頼、護衛などの腕っぷしを必要とするようなものである。
「僕が君と会ったのも依頼の帰りだったのよ」
剣と魔法の世界だるここには、そんな人類の敵として、魔物という存在が用意されている。
ただただ人間を殺すことを本能として組み込まれている怪物である魔物と戦ったり、魔物の生息地から薬草をとったり、魔物から襲われることなく移動できるようにしたりするのがほとんどの冒険者が行っている稼ぎ方である。
「そうなんですの……冒険者、ですの」
「そうそう。ガラ悪くて有名な冒険者だよ」
「い、いやっ!そんなことは思っていないのですのっ!」
「ほんとー?まぁ、良いや。とりあえず冒険者ギルドの中に入ろうか」
魔物と戦えるだけの実力を持っている冒険者たちを統括している組織。
それこそが冒険者ギルドである。
世界中に支部を持つ冒険者ギルドは時として、国を凌駕するほどの影響力を見せることがあるような組織だ。
そんな組織におけるミルヘンの支部の中へと僕はシオンと共に入っていく。
「わぁ……」
冒険者ギルドの内部にはまず、吞兵衛である冒険者の利用する酒場が広がっている。
そんな酒場の奥に冒険者ギルドの受付があり、その受付の隣に様々な依頼が貼ってある掲示板が置かれている。
「こんにちは」
昼間から飲んだくれている冒険者たちの間を通り抜けて、僕は受付の元にまでやってくる。
自分がやってきたのは幾つもある受付のうちの一つである新規の冒険者登録を行っているところだった。
「えぇ、こんにちは」
受付に立つ受付嬢は自分の挨拶へと返事をした後。
「えっと……隣の方は?」
困惑の表情と共に自分の隣にいるシオンについて触れる。
「拾ったんだよ」
「ひ、拾った……?」
「そう、拾った。昨日の依頼の帰りにね。ちょっと自分と縁のある人が困っている様子だったから」
自分が住んでいた街の領主の娘。
うん、これは間違いなく縁がある、って言えるよね?
「……前も、困っている人がいたから、って言ってお金を渡してましたよね?詐欺師に、大丈夫ですか?」
「……」
そ、そんなこともあったね。
「いや!今回は大丈夫だからっ!大丈夫」
確かに、僕は結構、詐欺師とかに引っ掛かっている気もする。
これなぁ……助けてくださいっ!なんてことを目の前にで言われちゃうと、まぁ、良いかぁ……という気分でお金を渡しちゃうのだ。
それでも、あれだよ。今回は大丈夫。
「今回はちゃんと縁近い人だから。問題はないよ」
僕が生まれた土地の領主の娘。
何の問題もないと僕は豪語してみせる。
「……面倒事のような気もするのですが」
「それは……」
だが、続く受付嬢の言葉に僕はしどろもどろになる。
面倒事では……あるかもしれない。
だって、国家追放の憂き目にあった貴族の娘だもん。普通じゃねぇ。
「大丈夫ですか?いい加減、騙されて倒れているあなたを見たくないのですが……」
「大丈夫だし!後、別に騙されても大丈夫なくらいは余裕あるから。そりゃ、詐欺だと分かった瞬間は、落ち込むけど、別に引きずったりはしないし。とりあえず、受付嬢さんはシオンの冒険者登録をお願い。後、彼女と僕は同じパーティーを組むから。とりあえず、僕は昨日の依頼完了の報告と今日の依頼を見繕ってくるから」
「……わかりました」
強引に言った自分の言葉にしぶしぶといった形で過保護な受付嬢が頷いてくれたのを確認した後、僕は受付の場所を移すのだった。
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