我が家
悪役令嬢であるシオンを拾った僕は今、自分が暮らしているフェルス王国の南東にある街、ミルへンへと帰ってきた。
「まずはお風呂からかな……お風呂淹れるね」
つい最近、本当に一週間くらい前に買ったばかりの家にシオンを招き入れた僕はまず真っ先に家のお風呂を沸かしに向かっていた。
「……ありがとうですの。まずはトイレの方を借りますわ」
「うん、わかった。トイレはそっちの庭にある小さな小屋のところにあるから、そこを使って」
「ありがとうですの」
お風呂を沸かし始める僕に対して、シオンはトイレの方に向かっていく。
「さて、と」
このままシオンにはお風呂に入ってもらって体を綺麗にしてもらうとして。
「今の僕の家には何ある?」
大事なのは、まだ引っ越してきて一週間の我が家に一体何があるかという問題である。
ベッド二つもないよ?当たり前の話だけど。
「……あっ、食材はある」
色々と不安感たっぷりで家の中を見て回る僕は自分の家の冷蔵庫の中を見て、ひとまずほっと一息を漏らす。
魔法によって冷やされ続けている冷蔵庫の中には二人分くらいの食材は入っていた。
「……ただいまですの」
冷蔵庫の中身を僕が確認していた頃、トイレの方からシオンが帰ってくる。
「んっ、既にお風呂入っているから、そこで体を洗ってきちゃって。着替えは適当に僕が持っている服を並べてあるから、適当にとって」
「わかりましたわ」
僕の言葉に頷いたシオンはそのまま静かにお風呂の方に向かっていく。
うーん、それにしても、ゲーム本編のシオンはきゃんきゃんといつも甲高い声で喚き散らかしているようなキャラだったから、今の彼女を見ると違和感が半端じゃない。
「……服、臭くないよね」
なんてことを考えながら、僕は一旦、冷蔵庫を閉じて、自分の服について考える。
この世界は前世の地球よりも文明レベルは遥かに下であるが、それでも、資源や個々人の能力等であれば圧倒的に上だ。
魔物というこの世の生物とは思えない存在がいて、魔法という空想の世界そのままの奇跡まで存在するこの世界では、個人で何かを作るというのが異常なまでにしやすい。
僕は自分の家を己の魔法一つで立てたし、服についてもアラクネーという蜘蛛の魔物から採取した糸を使って自分で服を作ったりもしている。
現代的なデザインで作った僕の服はアラクネーの魔物から採取した最高級の糸を使っているから、汗を染みこんで臭くなることはないと思うのだが……。
「うーん……」
これで自分の服を着たシオンから裏でこっそりくっさぁ、とか思われていたら泣くな。
僕は別にM属性などない。
可愛い女の子からのくっさぁではちょっとしか興奮出来ない。
「よしっ、チーズで何か作ろう」
別に他意はないが、僕は冷蔵庫を開けてブルーチーズを取り出す。
「パスタかなぁ」
そして、そのままパスタも取り出してカルボナーラを作ることを決意する。
「ふんふんふーん」
シオンがお風呂へと入っている間、僕はカルボナーラを作っていく。
「お風呂、頂きましたわ」
そんな中で、シオンがお風呂から上がってリビングの方に戻ってくる。
「今、夜ご飯を作っているところだから、ちょっと待ってね」
そんなシオンに反応した僕は今、夜ご飯を作っているところだと伝えながら、彼女の方に視線を向ける。
「……って、ぶふぉっ!?」
そして、僕はシオンの格好を見ると共に噴き出して驚愕の声を貰う。
「な、何かおかしかったのですの!?い、一番着やすそうな服を着ただけなのですが……これは着ちゃいけないやつでしたの!?」
「いや、別にそんなことはないけどぉ」
僕の前に立つシオン。
そんな彼女はたった一枚のシャツを羽織るだけの姿で僕の前に立っていた。
「じゃ、じゃあ、な、なんですの……?」
「気にしないで」
……これが彼シャツか。
風呂あがりで火照った体にシャツ一枚を羽織るだけのシオンの姿にはなかなか来るものがある。
別に僕は背丈が大きい方ではない。
今、シオンが着ているのは僕が作ったかなり大きめのオーバーサイズシャツ……たとえ、大き目なものだとしても、身長差の問題で彼女の大事なところがちょっと見えそうになるくらいにはパンパンだった。
シオンはおっぱいも、おしりも大きく、シャツはもうはちきれんばかりにパンパンだ。
「……ちょっと、服を変えてこない?だいぶ小さくない?」
「これが一番大きかったですの……ズボンとかはどれも入りませんでしたわ……」
「なるほど……」
身長が小さい。
その事実を叩きつけられた僕は堪えきれないダメージを負って、がっくりと肩を落とす。
「うぅ……」
ちょうどそんなタイミングでパスタのゆで時間が終わる。
「さ、先に席へと座っていて。ソースと絡めてから持っていくから」
「わかりましたわ……手伝いとかは?」
「別に要らないからいいよ」
僕は魔法を使って鍋からパスタをソースの入ったフライパンに移すと共に、皿も魔法で軽くひょいっと自分の前にまで持ってくる。
「完成っと」
パスタをソースと絡め終えた僕は完成したそれをお皿に盛りつけ、何の意味があるかはわからないけど、見栄えはよくなる葉っぱを一番上に乗せる。
「はい、お待ちどうさま」
そして、僕はそのお皿を持ってシオンが座って待っているテーブルの方に向かい、彼女の前にパスタのお皿を出してフォークもあげる。
「ありがとうですの……」
「よし、食べちゃおうか……いただきます」
僕は前世から抜け切れていない癖となっている食前のあいさつをしてからパスタを口にまで持ってくる。
「んっ」
そんな僕の前で、ゆっくりとシオンもパスタを食べ始める。
「……ぐすんっ」
そして。
「えぇ……っ!?不味かった!?」
一口食べた瞬間、静かに涙を流し始めたシオンを前に僕は動揺の声を上げるのあった。
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