第4話 「怖い」が後ろから憑いてくる





「――起きて起きて」

 そんな言葉が聞こえてくる。香織が目の前にいるようだ。

 俺は――湯船に浸かりながら眠ってしまっていたのか。

「大変なの、今すぐ起きて」声に涙が混じっている。

 俺は目を開けた。


 晴翔が青白くなって横たわり、香織が傍らで泣き崩れていた。

 何が起きたのか分からなかった。俺は何時間眠っていたんだ?

「あなたが湯船で眠ってて……晴翔が溺れて……」


 ――結論から言えば晴翔が亡くなってから十時間が経過していた。

俺はすぐに病院と警察に連絡しようとしたが、香織に止められた。

「遺体を十時間も放置していたのよ!?ただでさえ、お風呂に沈めて溺死させたと疑われるような状況なのに……逮捕されちゃうじゃない」

じゃぁどうすればいいんだと返すと香織は静かに言った。

「二人で……なかったことにするの」


 俺と香織は晴翔の死体を毛布で包んで山奥へと車を走らせた。

 もちろんスコップなどの穴を掘る道具と一緒に。

「別の山で迷子になったことにして別の山で捜索願を出せばそれで済む」という香織の言葉に縋るしかなかった。

 どうしてこうなった。これは本当に呪いなのか。俺がなにをやったというんだ。これからどうなってしまうんだろう。頭の中ではそればかりがグルグルしていた。

 山に向かう途中、何も言葉を発しなかった。何かを口に出してしまえば全てが壊れてしまいそうだったから。

 

 目的地に着く。スコップを取り出し、穴を掘る。晴翔を一番深いところに置く。

 ――ピピッ。何か、電子音が聞こえた気がする。気のせいだ、こんなところに誰もいるはずがない。俺は土を穴に入れようとする。

 「ちょっと待って」香織はそう言って俺の手を止めると茂みの方へと歩いていった。

 木の陰で見えないが香織と別の女性の言い争う声が聞こえ、そして一人の女性がこちらに出てきた。


 幽霊子だった。

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