第2章 喪失と決意 :2-4 奇妙なチラシ

葬儀から数日が経ち、剛志は独自の調査を進めることを決意した。

会社に申し出て長期休暇をもらうために、プロジェクトマネージャーの田中に相談することにした。



田中は40代半ばの落ち着いた男性で、剛志の上司であり、彼の信頼する人物でもある。

剛志は田中さんのオフィスのドアをノックし、中に入った。


「田中さん、少しお時間をいただけますか?」剛志は少し緊張した様子で言った。


「宮崎君、もちろんだよ。最近の君の状況はよく知っている。本当に辛いだろう。何か相談事があるのかい?」田中は優しい眼差しで剛志を見つめ、彼の心情を察していた。


「実は、弟の件でどうしても解決しなければならないことがあって…しばらくの間、仕事を休ませていただけないでしょうか?」剛志は真剣な表情で説明した。


田中さんはしばらく考え込み、そして深く頷いた。

「わかった。君の状況を考えれば、無理もないだろう。プロジェクトの進行は他のメンバーに任せて、しっかり解決に専念してくれ。仕事のことは気にせず、君自身と弟さんのために時間を使いなさい。困ったことがあればいつでも連絡してきなさい。」


「ありがとうございます、田中さん。必ず解決して戻ってきます。」剛志は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。



田中からの了承を得ると、剛志はすぐに調査に取り掛かった。

しかし、美咲についての情報はなかなか見つからなかった。


剛志はまず、翔太の大学の友人たちに連絡を取った。

中村亮太や佐藤悠馬など、翔太と親しかった友人たちに会いに行き、直接話を聞いた。

彼らは翔太の死に深くショックを受けており、剛志の訪問を暖かく迎えてくれた。


「翔太のことで話があるんだが…美咲さんについて何か知らないか?」剛志は真剣な表情で尋ねた。


「美咲さんか…最近、あまり見かけなくなったんだよな。最後に会ったのは、確か2週間前のことだったかな…」亮太は記憶をたどるように話した。


「翔太から聞いた話だと、最近悩んでたみたいなんですけど...」悠馬もよくわからない様子だ。



剛志は彼らの証言をもとに、美咲がよく訪れていた場所を調べることにした。

彼女が通っていたカフェや、時折訪れていた図書館などを訪れ、店員やスタッフに聞き込みを行った。

しかし、誰も美咲の最近の行動や居場所についての情報を持っていなかった。


せめて美咲の親しい友達から話が聞ければと思ったが、亮太と悠馬の友好関係からはつながることができなかった。



「これじゃ、まるで雲を掴むような話だ…」剛志は自分に言い聞かせるように呟いた。

日々の聞き込みが徒労に終わる中、焦りと不安が彼の心を蝕んでいった。



そんなある日、剛志は近所のカフェで休憩を取っていた。

このカフェは彼がよく訪れる場所で、静かな雰囲気と居心地の良いソファが特徴だ。

窓から差し込む柔らかな陽光と、店内に漂うコーヒーの香りが、少しだけ彼の心を和らげていた。


剛志はカウンターで注文したカフェラテを受け取り、窓際の席に腰を下ろした。

疲労が蓄積した身体をソファに預け、しばしの間、目を閉じて休んだ。

彼の心の中には、弟を失った悲しみと、未解決の謎への苛立ちが交錯していた。


しばらくして、剛志はカフェラテに口をつけ、目を開けた。

何気なく壁に目を走らせたその時、一枚のチラシが目に留まった。

色褪せた紙に大きな文字で「久保田探偵事務所」と書かれており、その下に様々な調査内容が記載されていた。


剛志は興味を引かれ、立ち上がってチラシに近づいた。

疲れた目を凝らして内容を読むと、「夢現象の調査」という言葉が目に飛び込んできた。


剛志は、その詳細を隅々まで確認した。


―――

久保田探偵事務所


オカルト現象の調査が得意な探偵事務所です。

以下のような実績があります:


1. 不思議な失踪事件の解決

行方不明になった人物の調査。古代の儀式が関係していることを突き止め、無事に解決。


2. 心霊現象の調査

家屋に起こる怪現象の原因を解明。

科学的アプローチを用い、結果的に心理的要因を突き止めました!


3. 謎の事故調査

過去に起きた不可解な事故の真相を解明。

現場の徹底調査と証拠の分析により、原因を特定!



その他の調査業務

1. 浮気調査

パートナーの行動を調査し、真実を明らかにします。


2. 企業の内定調査

採用候補者の過去の経歴や信頼性を調査し、企業の採用リスクを軽減します。


3. 行方不明者の捜索

行方不明者の捜索および居場所の特定を行います。



調査員紹介


久保田百合子

探偵事務所の所長。

オカルト現象や神秘学に精通し、数々の難事件を解決してきた実績を持つ。

お客様からの信頼も厚く、その洞察力と経験は折り紙付きです。


神崎涼介

冷静沈着で分析力に優れた探偵。

特に難解な事件を解決するための鋭い推理力には定評があり、数々の困難なケースを成功に導いてきました。


西園寺彩音

若手ながら直感力に優れ、特異な現象にも柔軟に対応する調査員。

過去に不思議な夢現象の調査経験もあり、その明るく前向きな姿勢でお客様をサポートします。


―――


剛志の目は「夢現象の調査」という言葉に引きつけられた。

まさに今、自分が抱えている問題に合致する内容だった。


「これは…もしかして、何か手がかりになるかもしれない…」


剛志はチラシを慎重に外し、カフェの店主に声をかけた。


「すみません、このチラシを持って行ってもいいですか?」


店主は剛志の頼みに快く応じた。「もちろん、どうぞ。探偵事務所のチラシですね。あそこはよく仕事を依頼する人が多くて評判ですよ。私も何度か相談に乗ってもらったことがあるんです。きっと探偵事務所の人たちも喜ぶと思いますよ。チラシはたくさんあるので、気にしないでくださいね。」


「ありがとうございます。」剛志は感謝の気持ちを込めて頭を下げ、チラシをポケットにしまい、カフェを後にした。



その晩、剛志は自宅のリビングでチラシを見つめながら、久保田探偵事務所に電話をかけた。


「もしもし、久保田探偵事務所ですか?相談したいことがあるのですが…」


剛志の声は震えていたが、その決意は固かった。

何としてでも、翔太の死の真相を突き止めるために。

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