第2章 喪失と決意 :2-2 初動調査

捜査会議室の中、志村誠はホワイトボードの前に立ち、部屋に集まった捜査チームのメンバーに向かって話し始めた。部屋の空気は重く、緊張感が漂っている。


「皆、翔太君の事件について話し合う。特に、最近頻発している蛇のシンボルが描かれた事件との関連性を検討する。」志村の声は落ち着いているが、その目は鋭い。



「田口、まずは被害者のバックグラウンドをまとめてくれ。」志村は田口翔に視線を向けた。


田口翔は眼鏡を直しながら、ファイルを開いた。

「被害者、宮崎翔太、22歳。大学生で、コンピュータ専攻。成績は優秀で、将来を有望視されていた。家族構成は兄の剛志さんのみ。両親は数年前に亡くなっており、兄弟二人で支え合って生きてきたようです。現場では、床に描かれた不気味な魔法陣が見つかりました。これらは黒いインクで描かれており、儀式的な意味を感じます。また、部屋の天井にも蛇のシンボルが描かれていました。」


志村は一瞬、自身の家族のことを思い出し、心が痛んだ。

娘の愛美、妻の奈津子、そして息子の大輝。

もし彼らに何かあったらと考えると、胸が締め付けられる思いだった。

彼の表情はさらに険しくなり、決意が一層強まった。



「事件当日の行動は?」志村が続けて質問する。


「最後に目撃されたのは自宅近くのコンビニです。そこで食料品を買っていました。その後、自宅で襲われたと推測されます。」田口は静かに答えた。



「通報したのは兄の剛志さんでした。通報は2007年3月25日土曜日の夜8時頃で、剛志さんが弟の家を訪れた際に遺体を見つけたということです。」田口は発見時の様子の報告に移る。


「剛志さんはどんな人物だ?」志村は問いかけた。


「彼は翔太さんを非常に大切にしており、弟の将来を心から応援していたようです。直感ですが、彼が犯人とはちょっと考えづらいですね。」田口が話す。


「ふむ。」志村は考え込んだ。本来印象論で容疑者から除外するのは危険ではあるが、田口の人を見る目に志村は一目置いていた。



「次に風間君、現場での聞き込み結果はどうだった?」志村は風間に話を振った。


風間直子はノートを見ながら報告を始めた。

「現場周辺の住民に聞き込みを行いましたが、特に怪しい人物を見たという証言は得られませんでした。ただ、近所の人たちは、翔太さんが非常に礼儀正しく、トラブルを起こすような人ではないと口を揃えていました。」



「なるほど。それじゃあ、八神君、証拠品の収集状況は?」志村は若手の八神真一に問いかけた。


八神は資料を手に立ち上がった。

「現場からは複数の指紋と、翔太さんのものと思われる血痕が見つかりました。ただ、凶器はまだ見つかっていません。また、天井に描かれていた蛇のシンボルは、ここ最近で起きた5つの事件と同じであり、被害者の下腹部から臓器を持ち去る異常性はも一致しています。同一犯の犯行の可能性が高いと推察されます。ただ、床に描かれていた魔法陣はこれまでの事件では確認されていません。」



「次に、冴木さん、検死の結果は?」


法医学者の冴木美月が冷静な表情で答えた。

「被害者の死因は出血多量によるショック死です。腹部の切り傷は非常に深く、鋭利な刃物で一気に切り裂かれたものです。また、内臓が一部取り出されていたことから、犯人は医学的な知識を持っている可能性があります。」


「内臓の一部が取り出されている…他の事件といい、まともな犯人じゃない。」志村は呟いた。



「最後に、杉本君、物証の科学的分析はどうなっている?」


科学捜査官の杉本洋介が資料を手に立ち上がった。

「現場で見つかった指紋の一部は、被害者のものと一致しましたが、他の指紋は現在データベースと照合中です。また、シンボル、魔法陣に使用されていたインクについても、成分を詳しく分析中です。結果が出るまで少し時間がかかります。」


「そうか、わかった。分析を急いでくれ。」志村は杉本へ要望を出す。



「志村さん、これは報告するまでもないのかもしれませんが…。」田口が迷っている様子で切り出した。


「なんだ、行ってみろ。」志村が促す。


「事件現場で発見された蛇のシンボルについて、剛志さん自身も夢で見たことがあると証言しています。まともに取り合う必要もないような話ですが、彼自身は真剣に話していました。」田口は続けた。


「夢で見たシンボルね…。」志村は自身の中で消化するように口に出した。



「ありがとう、皆。夢の話はさておき、今は現実的な証拠を集めることが優先だ。」志村は一瞬考え込んだが、すぐに決断を下した。


「この事件は単独のものではない可能性が高い。最近起こっている他の事件との関連性を調べ、犯人像を浮かび上がらせる必要がある。」志村は一同を見渡しながら言った。


志村はホワイトボードに向き直り、事件の概要と被害者の情報を書き込み始めた。部屋の中には、彼の筆圧の音だけが響いていた。


「この事件に関して、全力で取り組んでいく。引き続き各自の役割を果たしてくれ。何か新しい情報が入ったら、すぐに共有してくれ。」志村の指示に、全員が頷き、捜査に戻るために動き出した。



志村はデスクに戻り、引き出しから家族の写真を取り出して見つめた。

娘の愛美、妻の奈津子、息子の大輝。

彼らの笑顔を見て、心に誓った。

「家族を守るためにも、この事件を解決しなければならない。」彼は心の中で、家族との思い出を一つ一つ思い返した。

愛美の笑顔、奈津子の優しさ、大輝の成長…。


街に危険な存在がいる限り家族にも危険が及ぶ可能性が高まる。

一つでも事件を多く解決し、平和な街を作る。

その思いが彼の強固な決意を形成していた。

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