第1章 悪夢 :1-2 弟からの相談

宮崎剛志はデスクに座り、パソコンの画面に目を通していた。

彼の専門はネットワークセキュリティであり、顧客企業の社内インフラや外部サービスの構築に追われていた。

部下からのレポートを確認しながら、次々と届くメールに対応し、ミーティングの準備も行っていた。

時計を見ると夜7時30分を過ぎている。

まだ終わらない業務にため息をつきながら、ふと目に入ったデスク上のカレンダーに「3月21日」の文字が見えた。

剛志は少し驚いた。もう3月も終わりに近づいているのだ。



剛志は椅子にもたれかかり、目を閉じて一息ついた。

最近の仕事は特に忙しく、長時間の残業が続いていた。

プロジェクトの締め切りが迫り、プレッシャーも増している。

部下たちは懸命に働いているが、それでも時間は足りない。

剛志は頭の中でタスクを整理しながら、次に何をするべきかを考えていた。


突然携帯電話が震えた。画面には「翔太」の名前が表示されている。

剛志は電話を手に取り、深呼吸をしてから応答した。


「もしもし、翔太?」剛志は電話に出た。


「兄さん、ちょっと相談があるんだ。」翔太の声が少し緊張しているように感じられた。


「どうした?大丈夫か?」剛志は心配そうに尋ねた。


「うん、大丈夫。...ただ、今週の土曜日に大事な相談があるんだ。」翔太は一瞬ためらったようだったが、その先を続けた。


「土曜日か。もちろん、大丈夫だよ。でも、どうして急に改まって?」剛志は毎週土曜日に翔太の家を訪れるのが習慣だったため、不思議に思った。


「実は美咲のことで相談があるんだ。電話では話せないことだから、直接会って話したい。どうすればいいか聞いてほしいんだ。」翔太の声には、何か重大な悩みを抱えているような響きがあった。



御堂美咲は翔太の彼女であり、半年前から付き合っていると聞いていた。

剛志も一度実際に会ったことがあり、その時の印象はおとなしくて、とてもかわいい子だった。

美咲は細身で、身長は160センチくらい。

長い黒髪が特徴的で、顔立ちはやや小さく、ぱっちりとした大きな目が印象的だった。

彼女の笑顔はとても優しく、いつも穏やかな雰囲気を漂わせていた。

翔太と一緒にいるときはいつも楽しそうで、二人の関係は良好だった。剛志も彼女を気に入っていた。



「そうか。分かった。土曜日に行くよ。待ってろ。」剛志は胸の中に不安を感じたが、それを口には出さずに答えた。


「ありがとう、兄さん。」翔太の声は少し安堵したように聞こえた。



電話を切った後、剛志はしばらく考え込んだ。

翔太との電話は珍しくはなかったが、こんなふうに改まって相談を持ちかけられるのは初めてだった。

美咲に関する相談が何なのか、剛志には想像もつかなかった。

とはいえ、剛志には土曜日を待つ以外の選択肢はなく、ざわめく胸を抑え込みながら仕事に戻る。



剛志はデスクに戻り、再びパソコンの画面に目を通した。

次のメールに返事を打ちながらも、頭の片隅では翔太の言葉がぐるぐると回っていた。

翔太が深刻な問題を抱えていることは明らかだった。

しかし、それがどの程度のものなのか、どれほどの影響を及ぼすものなのか、剛志にはまったく見当がつかなかった。


「美咲さんのことか…。」剛志は呟いた。

翔太と美咲の関係は良好に見えたが、恋愛には常に問題がつきものだ。

剛志自身の恋愛経験は人並み以下であったが、想像することはできる。

翔太が何に悩んでいるのかを知ることができれば、少しでも力になれるかもしれない。


剛志は時計を見上げ、もうすぐ終わりが見えてきた仕事に集中しようと自分に言い聞かせた。

だが、翔太の不安そうな声が耳にこびりついて離れなかった。

仕事の手が止まるたびに、翔太の顔が浮かんでくる。

兄として、翔太の力になりたいという思いが強くなっていった。


「とにかく、土曜日までに自分の仕事を片付けておこう。」剛志は決意を新たにし、再びパソコンのキーボードを叩き始めた。

その背中には、弟を思う兄の強い気持ちが込められていた。

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