夏休み.....の前にテスト

「今日の授業は終わりですが2週間後には期末試験があります。部活も今日からないので赤点などは決して取らないようにしてください。」

「「「はーい。」」」

 土日を挟んだ月曜日の帰りの会で先生はそう言った。私の学校では年に3回の定期テストがあって今回は高校生になって初めての定期テストだ。

「テストだって。」

「また勝負するかい?」

「ヤだよ。纏に勝ったこと一度もないし。」

「そうか。」


 纏と一緒に帰路に就く。高く上がった太陽が私たちをじりじりと照らしてくる。

「あっつい。」

「今年も暑いなぁ。」

天を見上げると雲一つない快晴だった。

「やっぱりテスト勝負しようか。」

「お!どんな心変わり?」

「なんとなく。」

「じゃあ罰ゲームはあり?なし?」

「いつもので良いでしょ。」

「どんな罰を受けさせようか楽しみだよ。」

 

 纏と別れてマンションへと歩く。今日は叢雲さん先に家に入っててくれてるかな。


「ただいまー」

呟くように家のドアを開けると私のではない靴が置かれていた。叢雲さんのだな。

「ただいま。」

「おかえりなさい。」

私がリビングのドアを開けると叢雲さんは机で勉強をしていた。シャワーを浴びたばかりのようで髪は少し湿っていた。

「勉強してるんだ。」

「はい。机お借りしてます。」

「はーい。私シャワー浴びてくるね。」

 

 シャワーを浴びた後私も勉強をしようと叢雲さんの向かい側に座って教材を広げた。今日は数学でもやろうかな........



「やば、こんな時間だ。すぐご飯作るから待ってて。」

「手伝います。」

この前の土曜日に出かけてから少し変わったことがある。叢雲さんが私とコミュニケーションを取ろうとしてくれることだ。叢雲さんから話しかけてくることはほとんどないけど質問以外のことにも返答してくれるようになった。

「今日はチャーハンと餃子だから野菜切ってもらえる?私餃子焼いてるから。」

「わかりました。」

私が冷凍庫から作り置きの餃子を出して油を引いたフライパンで焼き始めると横でトントントンと軽快な包丁とまな板がぶつかる音が鳴り始めた。

「叢雲さん、料理できるんだ。」

「はい。教わりましたから。」

「そうなんだ。」

餃子を焼いていると私の隣で具材を切り終えた叢雲さんが調理器具の準備を始めた。

「このフライパン使っていいですか。」

「いいよ。」

食材も逐一許可を取って来たあと、叢雲さんが料理を始めた。チャーハンは叢雲さんに任せることにして私は付け合せのスープを作った。


「じゃ、いただきます。」

湯気を上げているチャーハンと餃子を机に並べる。チャーハンを一口食べると口の中でパラパラとほぐれた。私が作るとべちゃってなるからすごいな。

「このパラってなるのどうやってやるの?」

「え?」

「私がやるとべちゃってなるんだよね....」

「わかる。私もずっとそうだった.....」

叢雲さんはそこまで口に出して手で口を覆った。

「すみません.......」

「謝らなくていいけど.....てか叢雲さんって敬語だけど私も敬語の方が良かったりする?距離近過ぎかな!?」

だとしたら大分迷惑かけてるんだけど。

「い、いえ。大丈夫です。」

「叢雲さんも敬語疲れるんだったらため口でも全然いいからね。てかそっちの方が歓迎だし。」

「......努力します。」

まあ無理強いすることもないし私は叢雲さんの作ったチャーハンを味わうことに専念した。

 

 ご飯の後はまた勉強をすることにした。まずこの家にはテレビくらいしか娯楽が無いから勉強くらいしかすることが無い。

「そういえばなんですけど。」

叢雲さんが唐突に喋り出した。

「結弦葉さんずっとテスト範囲外やってませんか?」

「え?」

私が開いていた教科書のページは124で、テスト範囲を確認すると76ページと書いてあった。

「あぶなー。助かったよ。」

「大丈夫ですけど...なんで解けるんですか。まだ習ってませんよね。」

「この家に遊ぶものが無いから勉強しかすることないんだよね。実家には本とかもあるんだけど。」

テレビで時間を潰すのにも限界があるから暇なときは勉強をするしかないのだ。

「すごいですね。それ。」

「そう?中学の時も予習は進めちゃう方だったから。」

「そうだったのですか。」


 そのあと休憩を挟みつつテスト勉強をして、私はベッドで叢雲さんは私の実家から届いた布団で眠りについた。


「なつきぃ。」

「何、暑いからくっついてこないで。」

「バスケが...したいです。」

「テスト勉強をしてください。」

「現実を見せるなぁ。」

テストまで一週間を切ったころ、バスケバカはもう限界のようでいつもの元気さはなくなっていた。

「じゃあ今日どこかの体育館でも行く?」

「暑いからいい......」

「張り倒すぞ。」

せっかくさそってやったのに無下にしやがって。

「冷たーい。」

「ダルがらみしてくんな。マジで。」

「へいへい。」

纏が体を起こした。黒板を写していたのに見えなくなる。

「纏じゃま。」

「ひどっ。」

纏は私の机に突っ伏した。

「邪魔だって。」

「もう限界だぁーーーー。」

纏が立ち上がった。

「どこか行くの?」

「昼休みだから体育館空いてるよね?」

「たぶん?」

「部員集めてバスケしてくる。」

「は?」

纏はなぜか持っているバスケットシューズを手に走って教室を出て行った。すると入れ替わるようにして私の前の席に誰かが座った。

「叢雲さん。」

「お昼一緒してもいいですか?」

「いいけど。」

「この席借りてもいいですかね。」

「どーせ纏のだしいいでしょ。」

叢雲さんは机を反転させて私の机とくっつけた。

「で、どうしたの?」

「どうしたのとは?」

「いや、学校で話しかけてくるなんて初めてじゃん。」

「ご迷惑でしたか?」

「いいや。別にいいけど。」

「それなら良かったです。」

何を考えているかわからないけど最初よりかは仲良くなれたのかな。

 食べ終わった後も話していたけど纏が帰ってくるなりそそくさと自分の席に帰ってしまった。

「いまの叢雲さんだよね?どうかしたのかい?」

「ご飯一緒に食べただけ。」

「浮気.....?不倫.....?」

「いや付き合ってすらないだろ。」

「本気だったのは私だけだったのね.......」

「昼ドラ展開やめろ。 それでバスケ楽しかった?」

「やっぱり体動かすのは楽しいよ。」

兎にも角にも纏の元気がもとに戻って何よりだよ。ウザさは戻らなくていいけど。


「お昼のときご迷惑でしたか?」

夜ご飯を食べていると叢雲さんがそう聞いてきた。

「ううん。纏もいなくて話し相手もいなかったから嬉しかったよ。」

「それなら良かったです。」

叢雲さんはほっとした表情になった。

「でもどうしてなんだろうなとは思ったけど。」

「お、お友達とお昼ご飯を食べてみたかったのですよ。」

「そっか。今度は纏がいるときにも一緒に食べようよ。」

「いいのですか?」

「まぁ、叢雲さんが嫌なら別にいいけどさ。」

「いえ、ぜひご一緒させていただきます。」

「ん。纏にも伝えとくよ。」


 とは言ったものの纏にはなんて伝えようか。ほんとのことを言ってもいいんだけどね。ただ叢雲さんが言って欲しくないなら言わないべきだろう。

「どうかされましたか?」

「え?」

「なにか悩んでいるご様子だったので。」

顔に出てたっぽいな。

「あー。纏になんて伝えようかなって。居候のことは言わない方がいいよね?」

「......はい。」

「わかった。じゃあ適当にごまかしとくわ。」

「すみません。」

「大丈夫だって。纏もそこまで気にしないだろうから。」

「ありがとうございます。」


 寝る時間になってベッドに入る。少しスマホを触っていると横からスース―と寝息が聞こえてきた。そういえば叢雲さんが私より先に寝ているのは初めてだ。会話も初めて会った時よりかは増えているし、今日は友達とも言ってもらえた。すこし嬉しさを感じながらスマホを充電器につないでから部屋の電気を消して眠りについた。

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