居候が来てから最初の学校。

朝だというのにめちゃくちゃ暑くて汗を額に浮かべながらなんとか学校にたどり着いた。昇降口で靴を脱いでスリッパに履き替える。そこで私は叢雲さんにお弁当を渡していないことに気が付いた。慌ててリュックを確認するとお弁当が二つ入っていた。

「忘れるところだった。これお弁当。」

「えっ。わざわざ作ってくださったのですか。」

「自分のも作るついでだったから気にしないで。」

「ありがとうございます。」

「じゃあ私先に行くね。」

叢雲さんと一緒に教室に行ったらいろいろクラスメイトに問い詰められると面倒なので鞄にお弁当をしまっている叢雲さんを置いて私は先に教室に向かうことにした。


「おはよー。」

私は私の席の前に座ってる女の子に声をかけながら自分の席に着いた。

「おはよう。那月。今日は少し遅かったな。」

「そう?」

「ああ、二分三秒の遅れだね。」

「怖っ。ストーカーみたいなことしないでよ。」

「あはは、冗談冗談。」

「まったく.....」

この頭のおかし.....すこし変わった奴は甘王あまおうまとい、私の幼馴染だ。身長が高くて180cmくらいある。一年生ながらバスケ部でユニフォームを貰っている。

「お、叢雲さんだ。」

纏は教室に入って来た叢雲さんを見ながらつぶやいた。

「ほんと叢雲さん人気だねぇ。」

「あれだけ可愛ければな。人気も出るわけだよ。身長も小さくて.....」

あ、まずい。纏は身長にコンプレックスを持ってるから身長小さい人に憧れてるんだよな。

「纏はどっちかというと綺麗系だもんね。」

「もう一回言って。」

「纏は綺麗系だもんね。」

「”系”と”ね”をなくして”もん”の代わりに”よ”にして。」

「えー?纏は綺麗だよ?」

「告白かい?私も那月を愛してるよ。」

「うるっさい。」

頭を軽くはたく。調子に乗ってあごクイしてきやがった。凜は顔が整ってるし身長が高いのもあってイケメンなんだよなぁ。



午前の授業が終わってお昼ご飯の時間になった。いつもどおり纏と机をくっつけてからお弁当を広げる。

「あれ?お弁当箱は?」

纏は私の机の上に並べられたタッパーたちを見ながら言った。今日はお弁当箱を叢雲さんに貸しちゃったから私はおにぎりを二つとおかずを小さなタッパーに小分けで持ってきたのだ。

「まぁちょっといろいろあってね。」

「ふーん。」

適当にごまかしておく。

「またお弁当作ってよ。那月の料理は絶品だからな。」

「また大会があったらね。」

「約束だよ。」

前にバレーの応援に行ったことがあってその時に軽く差し入れを持って行ったら好評で、それからたまにねだられる。あ、から揚げとるな。




「はい。じゃあ帰りの会を終わります。よい週末を。」

「「「さようならー。」」」

今日は金曜日なので明日から土日だ。でも今回の週末はやることが多そうだけど。

(先帰っちゃったかな.........)

叢雲さんの席の方を見ると荷物ごとなくなっていたのでもう帰ってしまったのだろうか。

「どうかした?」

「ううん。纏こそ今日は部活ないの?」

「明日と明後日は一日練習だから今日は久々のオフさ。」

「なーる。じゃあ帰ろっか。」

「この後用事とか無ければ付き合ってほしいのだが。」



ボールがネットに通る軽快な音がする。あれから体育館にやって来た私たちはジャージに着替えてバスケをしている。私の放ったボールはリングにあたって鈍い音をだして跳ね返って来た。

「む。」

「腕がなまってるんじゃないのかい?」

纏が煽りながらシュートを放つ。纏のシュートは綺麗な放物線を描いてリングに吸い込まれていった。

「うま。」

「現役だからね。」

3ポイントラインからでも軽く打ってくる。

「さぁ那月、1対1だ。」

 家に帰ろうとした私だったが纏に誘われて体育館でバスケをすることになった。体育館は蒸し暑すぎるから嫌だったが纏がうるさいほど頼んできたので私が折れた。

「で、どうしたの。いきなりバスケやろうなんて。」

「特にないよ。ただ那月と最近やってないなって思っただけ。」

「嘘でしょ。あんたが誘ってくるときは大抵なにかあったときなんだから。」

「........」

私は纏にボールをワンバウンドして渡す。

「ま、私はなにかあっても無理やりは聞かないスタンスだから。言いたいことがあったら言いなよ。」

「ほんと、那月のそういうところには助けられるよ。」

そのあとはシュート練習とかドリブル練習を手伝った。いや付き合わされた。


「あのさぁ!ちょっとだけって言ってたじゃん!」

「ちょっと新しい技のコツがつかめそうだったからさ。」

「だからって日没までやるバカがどこにいるんだよ!」

あれから纏がちゃんとした練習を始めたせいでもう下校時間になってしまった。汗がびっしょりで気持ちが悪い。

「ほら!早く着替えて。」

「もとはと言えばあんたが始めたせいでしょ!」

言い合っていると体育館のドアが開いた。

「おーい。まだ誰かいるのかー。」

「あ、やばい先生だ。いまーす!!」

「早く出てこい。もう下校時間だぞ。」

急いで更衣室から出ると若い女の先生が立っていた。確かバレー部の顧問だった気が。

「あれ、纏じゃん。」

「先生。お疲れ様です。」

「まさかバスケしてたとかじゃないだろうな。」

「えっと、その......」

珍しく纏が慌てている。

「何のためのオフだよ。そこはしっかりしとけ。」

「はい。」

「じゃあ早く帰るように。そこの子も。」

「はい。さようならー。」


リュックを背負って体育館から出た。

「もー。こんな時間までやるからー。」

「那月とのバスケが久しぶりで楽しかったからね。いまからでもバスケ部に入らないかい?」

「......無理だよ。いろいろ忙しいし。」

「そうか。じゃあ私こっちだから。また来週。」

「うん。また来週。部活頑張ってね。」

「ああ。」


マンションまで着いた。早くシャワー浴びたいなとエントランスまで入ると叢雲さんが座っていた。学校の荷物を持ったままだ。

「叢雲さん!?」

「あ、結弦葉さん。おかえりなさい。」

「ただいま.....じゃなくて何してるの?」

「勝手に家に入るのはだめかなと思いまして。」

「なら私は何のために鍵渡したのー。ほら立って。部屋行くよ。」

座ってる叢雲さんに手を差し伸べる。

「ありがとうございます。」

叢雲さんは私の手を取って立ち上がった。

「喉とか渇いてない?」

「はい。結弦葉さんが水筒持たせてくださったので。」

「良かった。お弁当に苦手なものとか入ってなかった?」

「はい。美味しかったです。」

「良かった。」


家についてから私は一目散にお風呂場に向かった。服を洗濯機に投げ入れる。

「生き返る~。」

火照った体に冷たいシャワーが染み渡る。気持ちいい。しっかり体と頭を洗ってお風呂場を出た。下着類とかを洗濯用ネットに入れて洗濯機に再び入れる。もう寝間着に着替えて頭をタオルで拭きながらリビングに戻った。

 リビングのドアを開けると水の匂いがした。キッチンを見ると湯気が立っている。急いでキッチンに行くと叢雲さんが料理をしていた。

「あ、キッチンお借りしてます。」

「いいけどなに作ってるの?」

「冷蔵庫に献立表が貼ってあったのでうどんを茹でているところです。」

「ありがとー。助かる。」

「いえ、居候なのでこれくらいはやらせてください。」

「ありがと。でもご飯の前にシャワー浴びてきな。代わるよ。」

「ありがとうございます。」


 うどんを茹でて冷やしてる間にてんぷらを揚げる。昨日のうちにできる限りの準備をしておいてよかった。


「シャワーいただきました。」

「はーい。もうできてるから座ってていいよ。」

「ありがとうございます。」

うどんを麺つゆに入れてその上にネギと天かすを乗せる。てんぷらは別のお皿に乗せてテーブルに運んだ。あとはコップと冷蔵庫からお水を取り出した。

「あ、そうだ。食べながらで良いんだけどさ。」

「はい。」

「明日暇?」

「予定はないです。」

「良かった。なら出かけるからそのつもりで。」

「わかりました。どこに行くのですか?」

「叢雲さんの食器とかお弁当箱とかそういう系を買いに行くつもり。」

「わかりました。ありがとうございます。」



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