HERO PRETENSE

一都 時文

第1話 START

 いつから知ったか分からないけど、気がついたらそうだった。俺の人生はクソだ。

 

 暑い夏に悩まされながらも腕立て伏せをする。何処かのスーパーヒーローにでもなりたい、こんな人生なら捨ててしまった方がいいと思っている。そう思いながらウットはいつものように水を浴びにお風呂へ向かった。

 ウットは特別筋肉も無く、外にもあまり出ないため人付き合いが得意ではない。本人はそれで良いのだと自分に言い聞かせているが、内心将来が怖くて目を背けているだけだった。

 タオルを取って適当に服を選ぶ。ウットは今にも死んでしまいそうな気分に水分不足も重なって頭に激痛が走っていた。「はぁ、」とっておきの溜め息を出しながら水を飲むと時間を見た。時刻は二時だ。ウットは再度溜め息がでそうになったが今日は止まった。ウットは今まで留めてきた事を実行する事にしたのだ。


 死ぬ為に買い物へ行く。正直未遂で終わらせる気でいるウットはロープと刃物を買うと、何となく橋へ寄った。何ならここで飛び降りてもいいと思ったが、それでは周りの人に申し訳無く思ったのでやめた。

「もうちょっと真っ当に生きたかったな、」本音が漏れる。川の沖では楽しそうに子供が遊んでいるのが見えた。ウットはその子供達を見守りながら自分に重ねた。自分の人生を振り返れば返る程辛くなっていく、気がつけば息が上がっていたので家に帰ることにした。

 足がフラついてくる。ウットは一度休む事にした。が、その時、ウットと同年代の集団が通り過ぎた。もう限界だと頭によぎる。ウットは涙を浮かばせた顔で必死に時が過ぎるのを待った。

「大丈夫ですか?」誰かが話しかけてくるが返答は不可能だった。

「取り敢えず座ります?」この町では犯罪が多い。その為こういった場合は危ないとよく言われている、然しウットに抵抗する力は無い為諦めて身を委ねることにした。

 近くの公園の椅子に腰掛けた。まだ視界がちらついていて目眩がするがマシにはなっていた。

「すみませんでした。ありがとうございます」ウットは少し顔を上げた。青年は必死にスマホに突っ走って[人 助け方]と検索していた。

「もう大丈夫ですよ?」ウットも申し訳無くなり青年に伝えるが青年も引く気は無いようだ。

「うぅ…出てこない、」嘆きの言葉を呟くとウットの肩を掴んだ。「あの、死ぬには早いと思います。お願いです。生きて下さい」ウットはきょとんとしている。

「カバンの中、見えちゃて…紐とカッターなんて自殺に醍醐味の道具じゃないですか、だから、止めたくて」青年は大人びでいるようないないような見た目だが、ウットと比べれば余っ程大きく見えた。

「自殺、か、」ウットは疲れ切っており嘘を考える余裕が無い。「俺はウットって言います。君は?」

「ルネスタです。あの、本当に死なないでください」ルネスタは本気で止めにきている。が、ウットはまたもや息が詰まりだし、少し吸うので精一杯になった。

「ああ、、ごめんなさい、えっと、救急車?でも高い…呼んだほうがいいですか?」首を振る。

「じゃあ…水入ります?」首を振る。

「えぇっと、横になります?…他には…思いつかないぃ…」頭を抱えるルネスタの肩に手を置くと小声で「大丈夫」と伝える。ルネスタは不安そうに背中を撫でてくれた。

 三十分程はまともに動けなかった。その間ずっとルネスタは付き添ってくれたのでどうお返しをすればいいか迷う。

「ありがとう、もう本当に大丈夫。」

「良かった、俺、何にもできなかったな」

「そんな事無いよ、居てくれただけで助かった」ルネスタは嬉しそうだ。

「あの、本当に死なないでください…ね?俺はまた、逢いたいです」自殺を止めるためだろうか?それでも、ウットは[また逢いたい]と言ってくれることが嬉しかった。

「うん、死なないよ、」ホッとしたルネスタは元気に立ち上がるとウットに手を伸ばした。

「なに?」

「手を貸して下さい、倒れられたら困ります。」ルネスタは強そうな体格で軽々とウットを立たせる。ウットも同仕様も無くなってとにかく謝罪しながら立ち去る事にした。

 雨が降ってくる。頭痛の原因はこれが大きかったのかも知れない。ウットは家から公園が見える距離だった為すぐに帰ることができて雨に打たれることは無かったが、窓から公園を眺めるとルネスタがびしょ濡れになっていた。

 ウットは慌てて傘を取ると家を出た。頭は痛いが今は関係ない。恩人に風邪でも引かれれば申し訳無さ過ぎて死ねてしまうとまで思った。

「ルネスタ」ウットが苦しそうに声を出すと、服を絞っていたルネスタが振り向いた。

「ウット?駄目ですよ、家で休んで下さい、」ウットも今度は反抗する。

「これ、傘、使って」もう意味は無さそうだが、取り敢えず渡す。

「家は近いの?」

「いえ、ここからじゃ一時間くらいかな、」

「流石にマズいでしょ、家に来る?それか、どっかのホテルに…お金は払うよ」

「気にしないで下さい、多分大丈夫ですよ、」絶対に大丈夫でないと、止めようとした時、誰かの叫ぶ声が聞こえた。

 

「子供が溺れてる」その声の元へ二人共何を話すでもなく走った。そこには子供が二人、一定の場所で溺れている。「マズい」ルネスタが呟いた。二人で勢いよく川沿いまで走るが、ウットの体力は限界を達している。

 周りには溺れた子供の母親であろう人物が二人いるのみで、到底助けられそうに無い。「助けて!」ただひたすらにせがんでくる母親達を落ち着かせて、とにかく頭を回転させた。

「ルネスタ、紐で繋ごう。あそこには溝があるんだ。だから、渦ができやすい。大人なら足はつくはずだし、このくらいの波なら溺れはしないはず」憶測でしか無いがとにかく二人は急いでいた。ルネスタとウットは母親二人の腕にしっかり紐を結びつけて引っ張ってもらうことにし、命綱はたった一つの紐で怖くて足がすくんだが子供の命がかかっているので喝を入れた。


 溝までは波の強さ耐えながら、雨で霞む辺りをなんとか乗り越えた。ルネスタが溝まで行くといきなり胸近くまで水深が深くなった。ルネスタは子供を一人引き上げるとウットに手渡す、ウットは子供を抱えてもう一人をルネスタが抱えたところで紐を引いた。これは引き上げろという合図だ。沖では母親にその他の住民も集まっていたらしく、幸いにも直ぐに引き上げる事ができた。

「命の恩人よ、本当にありがとう。」母親達はひたすらに感謝を述べてくるので、二人はなんとか宥めてウットの家で休む事にした。


「災難でしたね」ルネスタが苦笑する。

「本当にね、まさか自殺の為の紐が命を救う為の紐になるとは思わなかった」「確かに」ウットは何となくスーパーヒーローになれた気がして幸せだった。

「シャワー好きに使って、服も、俺のだけど使ってね」すっかり仲良くなったウットとルネスタは交互にシャワーを浴びて、その間に、お互い料理を作ることにした。

「上がったよ」ウットがシャワーを終えて出てくると料理は既に机に並べられており、少し掃除もされていた。

「最高だよ、ありがとう」またもルネスタに借りができた気がした。「食べよう」二人で小さなテーブルを囲む。二人で作ったカレーとステーキはなかなかの出来で今日の疲れを癒してくれた。

「ウットは大学生?」ルネスタが尋ねる

「そうだよ、大学二年」

「俺は大学三年だよ、何か意外だな」ウットも驚く。二人は年齢は特に気にすることなくご飯を食べ終えるとウットはソファ、ルネスタはベットで寝ることにした。二人共疲れていたため寝付くのは異様に早い。

「あ…あ…」ウットがうなされて声を上げる。ルネスタは爆睡していたが、ふっと目を覚ますと寝ぼけつつ体を起こした。

 ウットの息が上がり今日一番苦しそうにしている。知識の無いルネスタでもこれは過呼吸だと分かるほどだった。

「ウット、大丈夫?息吸って、否、吐いて、どっち??」頼りないルネスタは取り敢えず背中を擦って様子を伺ったが一向に良くならない。悩んだ末に急いでインターネットで調べると書いてある通りにウットを誘導した。

「これで大丈夫?」ウットはまだしんどそうだ。

「ウット、もしかして何か病気持ってる?」首を振る。が、片頭痛が酷かったのを思い出して窓を指さした。

「窓?窓の病気って何?」ルネスタは分かっていないので今度は何とか声を出した。「片頭つう…が、」脳が酸欠を起こしており、体の力が抜けてソファに倒れた。

「片頭痛か、なるほど、えっと…冷やす!」ルネスタが冷蔵庫に走る。氷枕は無かったため即興で袋に氷と塩を入れてタオルで巻いてウットの首筋を冷やした。

「どう?辛くない?」ウットは頷く。

「大丈夫だよ、大丈夫」ルネスタは優しくウットを抱きしめると過呼吸が治まるまで看病した。そうして二人は眠りに就いた。


「起きた?」ウットが部屋をきれいにしながらルネスタを覗き込んだ。

「おはよう。気づいたら寝てた」「俺も」ルネスタがスマホを見る。非通知が何件か着ていた。

「誰だろ?」部屋を移動して折り返しの連絡をする。

「ルネスタ様でお間違い無いですか?こちらはgpp1です。」

「はい、ルネスタですが、なんの用ですか?」

「貴方をgpp1に勧誘したいと思いご連絡しました。」ルネスタは[gpp1]を知らない為、完全に怪しがっている。

「せっかくの誘いですがお断りします。」

「そうですか…でも、その、あっウット様もお誘いしておりますので一度相談して頂くのはどうでしょうか?」やけに必死な相手に少し引けてくるが、ウットとルネスタに関連性はほぼ無いため不思議でしかなかった。

「あの、そちらはどういった会社?組織?なんですか?」

「すみません、説明が遅れていましたね。我が社は生死の狭間にいる方々を見送るか助けるかを決める仕事しております。ルネスタ様とウット様にはその中でもgpp1という、言わばターゲットを生かす為に働いて頂きたいのです。ちなみに生涯の資金は保証します。なんなら死後も保証します。」

ルネスタは即座に電話を切りたい気分だったが、何か証明できる事があるのであれば悪くもない話だと思った。何よりルネスタは現在金銭的に厳しい生活をしていたのだ。

「一度…考えてみます。」

「分かりました。またご連絡させて頂きます。」電話を切る。何とも馬鹿らしいがそんな話で悩む自分も惨めな気がしてくる。

 リビングに戻るとウットも悩んでいた。ウットは金銭的にキツそうではないが自殺をする程追い込まれていたのだから、誰かに必要とされるのは希望になるのかも知れない。

「ウットはどうする?」

「正直、怪しいとしか思わなかったけど、でも、少し気にはなるかな、」「だよね、」沈黙が続く。無理も無いがお互い変な気分だった。

 ブーブーと、スマホがなった。ウットがその場で着信に出る。

「ウット様、早速すみません。お伝えし忘れた事がありまして、」「あの、ルネスタも聞いてて大丈夫な話ですか?」「はい、その方が有り難いです。」「分かりました。」音をスピーカーに切り替えた。

「ウット様、ルネスタ様、もうすぐ小柄な和装を着た少年と、金髪の女性が参りますので、詳しくは彼らを当たって下さい。では」

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