第3話 初シナリオ請負

 早速スポーンしたのは東京タワーと思われる建物の下あたり。日本出身にしたからここに飛ばされたのか、ランダムスポーンなのかは分からないが、見知った土地で、しかもなかなか再現度がすごいものを見れたことは、始めたばかりの俺にはとても魅力的に見えた。



『わからないことがあれば、チュートリアルと言ってくださればその都度説明いたします。それでは、この世界の謎も娯楽も、余すことなく楽しんでください』



「まじで秀逸なAIだよなぁ……分からないことを的確に判断して説明できるんだから……もっと勉強とかに応用したらいいのに。てかしてくれ」


 多くの人がにぎわっている。どうやら公共交通機関のようなものも存在するようで、本物の東京と瓜二つだ。少し違うところと言えば、存在する建物一つ一つが、この世界で独自の役割を果たしているところだろうか……


「夢みたいな話だけど、ゲーム内通貨をばかみたいにはたけば、渋谷のビル群の中に家を建てたりもできるんだもんなぁ」



 全く、楽しみ方が多そうだ。


「とりあえず、シナリオがどうとか言ってたよな……チュートリアル」


『はい。この世界では、探索者の皆さんはギルドの受付でシナリオと呼ばれるものを受注することができます。シナリオの目的は様々で、多くの場合は誰かの頼み事を請け負って目的達成し、結果を報告することでクリアとなり報酬と信用を獲得することができます。信用は、NPCとの会話でも時折使える場面がありますので、丁寧にシナリオをクリアするとより多くの報酬が貰えるシナリオを受注できるようになっていきます』



「ふーん……ギルドって、どこにあるの?」


『はい、東京タワーがギルドとなっております』


「わーお豪華ー」


『また、ギルドを通さずにNPCや他の探索者の方から直接依頼を受けることもできます。もちろん美祁さんに困ったことがあったら、他の探索者の方にお願いすることもできますよ』



「なるほど……探索者は助け合いですか……ん?待て、NPCが直接だって?」



 ・・・。無言。どうやらチュートリアルちゃんはこれについて言及しないようだ。ま、そんなことがあったら楽しく請け負ってみるとするか。



「そういえば、神河さんにログインするって連絡するの忘れてたな。ま、いいか。手始めにシナリオってやつがどんなもんなのか。一回やってみるとしよう」




 東京タワーのエレベーターに乗り込むと、青く光って……おぉ、地下の方に動き出した。エレベーターのボタンを特別押さない限りは下に行くようだ。階層に着いたのか、エレベーターがストップする。扉が開くと、よくラノベで見るような西洋風の内装が施されているギルドのラウンジが広がっていた。


「こんにちは。私はギルドの受付嬢をしています。リザと申します。シナリオの受注ですか?」


 受付に足を進めると、とってもきれいなお姉さんが出迎えてくれました。これ、NPCなんだよな。ダメだ。禁断の恋は苦しむだけだ。


「恋はダメでも、愛することはダメじゃないですよ?」


「……お主本当にNPCなのか?」


「ああいえすみません。夜の一定の時間帯を覗いて、私がNPCになることはないですよ?不正な行為を見逃さないために、私は会社からこの地に派遣された監視役を担ってます」


「ふーん。いい仕事にあたったなマジで」


「ええ。割高ですよ」



 お姉さんはお下品なお金の会話にも乗ってくれる。すご、コミュ強か。いや単に俺が世間知らずって場合もあるのか。



「うーん。あなたは初めてでも案外適応してますし、このあたりのシナリオとかどうですか?」


「どれどれ……なんだ?これ」


「落とし穴にはまった人が相次いで行方不明になってるんですよ。だからその捜索に当たってほしいという、ギルドが出してる公的なシナリオです」


「うん。内容は読めばわかる。世界観的にここは日本だよな?」


「ええ。もちろん海外の大陸もほとんどは実装済ですよ」


「そりゃな。世界でリリースしてるもんな。いやそうじゃなくてよ。もっかい言ってみろ。落とし穴だぞ?今時どこのどいつがそんな原始的な物作るんだよ」


「誰か……はわかりませんが、場所ならすぐにお伝え出来ますよ」



「これ、ギルド公式のシナリオなんだよな……それってつまり、ゲーム会社が作ったシナリオってことだよな」


「メタい思考はあまりおすすめしません。人生楽しくないですよ」



 ゲームごときに人生を否定される筋合いはない!と、大きな声で否定したかったが、直近の行動のヤバさを振り返って、あまり己の欲望とか思考を表に出し過ぎるのは良くないという事をしっかり反省していたため、この言葉はクリティカルヒットする。



「分かった。朝飯ついでに調べよう。で、場所はどこだ?」


「はい。青木ヶ原樹海です」



 ……俺死んだかな。即刻請け負ったことを後悔し始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る