第2話 げにげに!、あーね。げにげにげに……

「つ……付き合うって、ここ?」


「ああ、今俺はもーれつに金に困っているんだ。少しばかり探すのを手伝っていただきたい」


「あの、さ……お金、渡すよ?助けてくれたんだし」


「ふっ、お礼が欲しいから助けたんじゃないのさ。そんなものを渡すくらいなら手早く下を覗いていってくれ」



 うーん。わかったよと、全くもって不服そうな神河さんと一緒に自販機をひたすら調べ上げていく。時刻は午後8時。多分俺のお母さんは今激烈に怒っているだろう。はよ帰ってこいや的に。


 でもな、俺は決めたんだ。明日ゲームを買って、ひたすらに山下君の言う神ゲーをやりこむって。


 とまあ、近所の自販機という自販機を調べてもう30には上るのではないだろうか。集まった金額は700円だった。


「なんで皆お金を落としていかないんだよ!」


「逆になんでお金が集まると思ったのさ」



「ごめん神河さん。実は今お金に困ってて……」


「なんか、助けてもらっててあれだけど、一回きれいに断っといてあとからせがむのはダサいよ」



「人間そういうことも受け入れなければいけないときってのは必ずしもあると思うんだ」


「うん。今じゃないと思うよ?」



 もはや呆れながらも、カバンから財布を取り出してくれる神河さん。神だ。


「いくら?あんまり高いと無理だけどさ……」


「7980円(税込み」だ」


「ごめん無理だわ」


「と、思うでしょ?」



「いや勝手に続けないでよ」



 金が……アテが、尽きた……俺のダンジョンダイスワールド人生。ここに終幕。それもこれも全部このゲームの名前がどっかのカードゲームの派生に似ているせいだ。俺は何も悪くない!


「というか、その額ってさ。新作ゲームの値段じゃない?」


「ま、まさかミス神河。あんたは知ってるのかい?」


「知ってるも何も、私持ってるからさ」


「神河さん。君にしかできないことだ。お願いがある」


「すごい厚かましい人だね……いいよ。何?」









 よかった。ここの店主生活サイクルが逆になった系のおばちゃんだった。営業時間が午後2時から午前0時までとかいうわけ分からん時間だったわ。


「すごい時間帯にやってるね。ここ」


「だよな。どんな生活してんだろうか」



「おーおー。若いもんがこんな時間に何の用だい……て、天美君か。今日は女子連れてどうしたんだい」


「ちょっとその、奢ってもらいに……」


「お前さん。それでも男かい」


「ほんとにこれは申し訳なく思ってますけど、絶対奢ってもらうんです」


「お、おお……あとでお礼しときなよ?彼女が邪険に思ってても思ってなくても、こういうのはあのような子にされたままで終わっちゃいかんよ。」


 店主のおばちゃんからのアドバイスを受けていた時、神河さんが「あった」と声を上げる。


「すみません。これ一個ほしいんですけど……ねえ天美君?」


 どうしてだろう。なんか顔に影が見えるような見えなくないような……


「買わせるからには、とことん私に付き合ってもらうからね?」


「……うぃっす」









午後九時


「ただいまお母さん。塾行ってたら遅くなったよ」


「おっしゃ那祁。表出ろや」


「理不尽な反省文を書かされていたんですぅぅうう!!俺なんにも悪くねぇよちょっと先生に絡んだだけだってばよ!!」


「……はぁ。まああの担任ジョークみたいな人生送ってるくせに上段通じないタイプやしなぁ……まあ、今日のところは勘弁したるぜ」


「ありがたき母上」



 今日のご飯はカレーだった。ウメェ。








「だいぶ屑だっていう自覚が芽生えてきた」



 ただひねくれているだけではお話にならないよな。俺って。


「私の連絡先入れといたからね。今日からやりまくるよ!」



 と、半ば強引にゲームに誘われた俺。まあもともとやりこむつもりだったし、一緒に出来る人ができたことは、結構嬉しかったりもするんだけど。


「この御恩は、しっかり丁寧に返そう」



 家にあったVRゴーグルを取り出して、父が使っているゲーム機を拝借する。父曰く、「もう当分ゲームをする気にならんから、あげるよ」とのこと。一体何があったんだ。


 今日買ってもらったディスクを読み込んで、VRをつける。


「さっそく、起動するか」


 ゲームを起動すると、体から力が抜けていくのがわかる。最新のVRゲームってすげぇよな。頭の神経伝達っぽいやつでゲームのキャラを動かすことができるのだから。なんかあれよな。これつけてる女子って、ちょっとえっちぃごほんごほん。


『ダンジョンダイスワールドへようこそ。初回ログインのため、自動的にゲーム説明とキャラメイクから始まります』



 山下君から、オンラインの仮想空間でできるTRPGと聞かされていたため、キャラメイクと聞いてもさほど驚かないが、ゲーム説明か……一応目標みたいなのはあるようだ。



『この世界は、皆さんが生活している地球とそっくりですが、いたるところに謎の現象が起きていたり、あらゆる恐怖が潜んでいます。あなたたち探索者は、自身が持ちうる技能とサイコロの運を用いてそれらを解決していき、遭遇する悪人たちの思惑を阻止して世界の平和を守る役割があります』



 なるほど……俺たちプレーヤーは、ゲームの世界では探索者と言われるらしい。あたりにありふれた謎を解決して、世界を守ることが探索者の使命……仕事?みたいなもんか。


『また、それらを乗り越えていくうちに、技能が成長したり魔法のことについて書かれた物を手にすることがあるでしょう。それらを駆使して、より強大な悪に立ち向かってください。世界の命運は、全てあなた達にかかっています』



 おお……魔法はクリア報酬か。これまた斬新なゲームだ。悪人を退治するのに武力は必要だろうに、最初から魔法が使えないということがどう影響してくるか……



『また、ユニーク技能は各キャラ最初に一つだけ持つことができます。スキルの詳細を事細かく書いて送信してくだされば、AIが分析し、それらを即座にプログラムしてあなただけのオリジナル技能となります。しかし、強すぎる場合は自動的に調整されますのでご了承ください』


 AIを用いて即座にプログラムとか、どれだけ最先端の技術使ってんだよ。


『その他詳細の説明を行っていきます――――



「あーげにげに。げにげに!げーにげにげに」



 説明ばかり聞いてこのままじらされていると体がもたなくなりそうなので、あとは適当にプレイしながら身に着けるとしよう。詳細説明をスキップして……お、キャラメイク画面に来たな。



キャラのSTRやDEXはランダムか……このゲームではまず最初に、

STR(力の強さ)、CON(精神の強さ)、POW(魔力の多さとか)、

DEX(行動の速さ)、APP(容姿の良さ)、SIZ(大きさ)、

INT(教養)、EDU(職業)


をランダムに決定される。INTとEDUの数値は、ポ〇モンでいうところの努力値の多さを決定するもので、これが多ければ多いほど技能を取ることができる。他のことは、今はさほど重要じゃない。強いて言えばAPPは高めにお願いします!



「行くぜ、運命のダイスロール!」


名前:新たな探索者

STR6 CON12 POW12 DEX15 APP16 SIZ10 INT16 EDU14

HP 11 MP12 SAN60 IDE80 幸運60 知識70


職業P:280  興味P:160



 こんな結果になりました。HP とかMPとかの二段目は、一段目のステータスが反映されてできる項目で、今回はわりといい方。HPがこころもとないけど……


 技能を振るポイントも、まあまあ高いからいい感じに取れそうだ。


 が、しかし俺はあまり安定を好まない。TRPGにおいて、技能ポイントは自由に降ることができ、数字は成功する確率を示す。例えば、俺がパンチの技能にポイントを80振ったとすると、成功率は80。割といい感じに成功するようになる。


 だがしかし、それで何が楽しい?真面目な技能を振って、真面目にプレイしてというのもまあ好む人はいるだろう。だがしかし、俺だってゲームを嗜むもの。正統派でクリアするよりかは、裏技のようなものを用いてクリアを目指す方が楽しい。


「職業は……どうやら自由らしいな。選んだらAIが職業にあった技能を出してくれるみたいだ」


 なんでも選べる感じにしてたら、みんな王様とか自衛隊とか馬鹿みたいにつよつよな職業に振るぞ……と思っていたのだが、どうやら同じ職業は一人しか取れないらしい。自由に選ぶのではなく、ゲーム側の選択肢で選ぶ職業なら、量産可能のようだ。


「つまり自衛隊はもう存在しているか……ユニークジョブはつよいぞぉ」


 さっきから鬼ラインが入っていた神河さん曰く、このゲームはPKがありらしく、強い職業を選んでる人は、狙われたりするという事案がもう発生してるらしい。

「死んじゃったらキャラクターをどれだけ愛しててもロストしちゃって、また一から作らないといけないからね」とすごい泣いてるスタンプと一緒に送られてきた。彼女はロスとしたのだろうか。

 

 ここから推測するに、ユニークジョブを取っている探索者が死ねばそいつがとっていた職業をまたとることができるようになるのだろう。あれだ。悪魔〇実だな。


 となると、ひねくれた俺にはこのゲームはあっているかもしれない。王道で強い職業など絶対に取りたくないし……



 あとは良い感じに年齢とか出身地とか、探索者の性別を決めて……


「よし……これだな。頼むぜ技能ちゃん。AIの規制にひっかからないでくれ」



名前:天那美祁(あまな みき)  (女)17歳

職業 ストリートアーティスト   身長150cm 体重45kg

出身 日本

髪の色:銀  瞳の色:赤  肌の色:薄い肌色 


ステータス

STR6 CON12 POW12 DEX15 APP16 SIZ10 INT16 EDU14

HP 11 MP12 SAN60 IDE80 幸運60 知識70


〇戦闘技能

回避(興味30)(初期値30):60

投的(興味45)(初期値25):75


〇探索技能

目星(職業70)(初期値25):95

聞き耳(興味50)(初期値25):75


〇行動技能

変装(職業80):80

跳躍(興味35)(初期値25):60


〇知識技能

芸術:壁の塗装(職業80):80



職業P:280/280 残0P  興味P:160/160残0P



 ちょっとした遊び心で、名前をアナグラムにしてみた。あと、せっかくAPPが良かったので、外見を女の子にしてみた。ストリートアーティストとかいうよく分からない職業を取ったせいで、戦闘技能はおろか探索技能も興味で覚えなくてはならない事態に陥った。おーまいごっど。しかし、多分プレイしていて楽しいキャラではあるだろう。


「頼みます。これで通してください!」


 俺はキャラシートを送信する。AIが分析中ですという読み込みマークが出てきて、しばらく待っていると


『読み込みが完了しました。一度確定すると、ショップや探索中で白紙のキャラシートを入手するかキャラがロストしない限りキャラの変更はできません。よろしいですか』


 と、ゲームが聞いてきた。まあ、最初だし死んでもいいかという軽い気持ちで作ったキャラなので、別にどうという事はない。というか、キャラ変えたかったらロストすればいいのか。なるほど。


「問題ない。世界に踏み出すとしようか」




『プレーヤーの承認を確認。それでは、世界に接続します』





 俺のサイコロ生活は、ここから始まるのだった……





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やっと現実から二次元に入ります

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