④
「こんな惨めな気持ちになるのなら、来るんじゃなかったわ。私がお姉様に勝てるはずがないのに……」
「いや、そんなことはない」
「は?」
俺の言葉に突っかかるようにエリザが
「君はお姉さんに負けてない」
「アンタが私の何を知っているっていうのよ?」
「知ってるよ。君のことなら全部知ってる。お姉さんにはない君のいいところ、俺が全部知ってるから」
「ちょっとキモいけど……ふん、いいわ。今日は特別に聞いてあげる。お姉様に私が勝っているところ、聞かせてくれるかしら?」
「貴族として領民を守るために、得意じゃない剣と魔法を頑張っているのを知っている。自分の従者に身分関係なく平等に接しているのを知っている。動物や小さい子に優しいのを知っている。ふと笑った後に照れ隠しで睨んでくるのがすごく
いつも強がって凜々しい表情を作っている君が、主人公(俺たちプレイヤー)だけに見せてくれるひまわりみたいな笑顔。ほんの
意地っ張りで素直じゃなくて……だけど頑張り屋で弱い者に優しい。
「
実際ブレファンでのエリザの人気はかなり高い。
ヒロイン個別のストーリーなら、俺はエリザルートが一番好きだ。
グッズも沢山出ているし、発売されたフィギュアは現在ではプレミア価格だ。(俺も持ってる)
どうか自信を持ってほしい。
「だから二度と自分を姉以下のゴミクズだなんて卑下するな!」
「私そこまでは言ってないわよ!?」
あれ、そうだったか?
「はぁ……なんかアンタがキモ過ぎてどうでもよくなってきたわ」
「
頑張って推しへの愛を語ったのに! ちょっと恥ずかしい。
「ふふっ。でも元気出た。……ありがとう。
「そりゃよかったよ」
エリザの素直な態度にキュン死しそうになるのをなんとか
その恥ずかしそうな笑顔……反則過ぎる。
まるでゲーム終盤、好感度MAXの時のひまわりのような笑顔だった。
「さてそれじゃ、エリザが元気になったところで。あのイチャイチャな雰囲気をぶち壊すか」
「え? ちょっとアンタ……何する気よ!?」
俺はエリザの手を引くと、殿下とエレシアの前に出た。
「ごきげんよう殿下。我がゼルディア家の領地、グランローゼリオは楽しんでいただけていますか?」
若いとはいえ一国の王子。隠しきれない高貴なオーラに
無我夢中でイチャイチャしていた二人は気まずそうに出迎えてくれた。
「お、おおエリザ。それと君は……もしかしてリュクスくんか? エテザル討伐の件は聞いているよ。見違えたね!」
予想通り、御三家のリュクスは殿下とは面識があるようだ。
取り繕うような殿下に精神的に優位になったと確信した俺は、四人で食事でもどうでしょうか? と誘ってみた。
「共にこの国の将来について語りませんか?」
「そ、それはいい考えだ。いいかなエレシア? 二人を同席させても」
「ええ、殿下が決めたことでしたら構いません。エリザも殿下とお話ししたがっておりましたし。ね? エリザ?」
「は……はい」
怖ぇえええ。エレシア様の笑顔怖えええええ。
「では席を増やさせよう。間に合うといいんだが。失礼、
そう言って殿下はレストランの方へと向かっていった。
その背を見送っていると、エレシアがそっと耳打ちしてきた。
「君はもう少し賢い子だと思ったんだけどなぁ」
イチャラブを邪魔された怒りが伝わってくる、とても冷たい声だった。
「子どもだから、わかんない」
敢えて子どもっぽく、そう返しておいた。
正直、どうして自分でもこんなことをしたのかわからない。
陰キャ特有の、他人の幸せをぶち壊したいという衝動だろうか?
いや、違う。
エリザを泣かせた二人に、
エレシアからの好感度なんてもうどうでもいい。俺の使命は推しの笑顔を守ることだ。
「まぁいいわ。もうあの子は大丈夫みたいだし」
「……?」
姉の圧に震えるエリザを見つめながら、エレシアは何か思わせぶりなことを言った。
「もうエリザったら。せっかく殿下と二人きりのデートだったのに〜」
そしてエリザの方へ戻る頃にはいつものエレシアになっていた。
きっとこの件で、エレシアの中でのリュクスの評価は地に落ちただろう。
でも、実はエレシアにとっていいこともあるんだぜ?
ゲームでは五年後に悲惨な死を遂げるエレシアだが、少なくともこの世界において死ぬことは絶対にないのだから。
ゲームではあり得なかった殿下との結婚も
だから今くらいは、ほんのちょっと二人の間を邪魔することを許してほしい。
え?
そんなの、エレシア殺害の真犯人がリュクスだからに決まっているじゃないか。
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