③
いけない、あの感動的なエリザルートを思い出し、つい興奮してしまった。
ともかく、エリザをエレシアと王子から引き
俺は柱に寄りかかりつまらなそうにしているエリザの下へ向かう。
涼しげで可愛らしいワンピースに身を包んでいることから、王子と会うにあたって目一杯お
そんなエリザの邪魔をしてしまうと思うと胸が痛むが仕方がない。
でも大丈夫だ。
君は五年後、主人公と出会い本当の恋に落ちる。
誰もが
だからどうか、今は耐えてくれ。
まぁ……主人公が五人のヒロインのうち誰を選ぶかはわからないけど、それは置いておいて。
「久しぶりだねエリザ。元気だった?」
「……?」
俺の声に振り返るエリザ。そして
「いや誰よ?」
「俺だよ俺。リュクス・ゼルディア」
「は? アンタがあのリュクスぅ? へぇ、随分雰囲気が変わったじゃない」
ニヤニヤしながら俺を値踏みするような視線をぶつけてくる。
普通なら気分を悪くするところだが、相手があのエリザならそんなことはない。
どんな態度をとられても「あ、これゲームで見たやつ!」という感動につながる。
むしろ「ああエリザならそうするよね!」って解釈一致過ぎて興奮すら覚える。
ああ俺って今、本当に『ブレイズファンタジー』の世界にいるんだな。
「っていうかアンタ、あのキモい魔眼はどうしたのよ?」
「実は封じ込められることがわかってね。最近はこうして普通の目にしているんだ」
「あっそう。もっと早くできていれば、みんなに嫌われることもなかったのに」
「あっ……ああ」
「は? 何よ?」
「心配してくれていたんだね……なんて優しい」
「はっ!? はあああああ!? アンタの心配なんて誰もしてないんですけど!? ニヤニヤしてんじゃないわよ!」
「うんうん」
「だからニヤニヤすんなって言ってんのよ!」
「痛っ……やったぜ!」
「ねぇ。思わず
おっとテンションが上がり過ぎて心配されてしまった。
「遠慮しとく。ところでエリザはどうしてグランローゼリオに? お姉さんと二人で旅行?」
「違うわ。殿下に会いに来たのよ」
「殿下? ルキルス殿下がここに?」
「ええ。お姉様ったら私が殿下のことを好きなのを知っていて、黙って二人で会う約束をしていたのよ。許せないわ」
「黙って会う約束をしたってことは、二人はもう恋人なんじゃないのか? それを邪魔しちゃ悪いよ」
「なんで?」
「なんでって……」
あれなんでだろう。うまい言葉が出てこない。
こうもまっすぐに恋している少女を、果たして俺が止められるのか。
さてどうやってエリザを納得させようか。
そう思っていると、ロビーの方から、まるでモデルのような男が歩いてきた。
燃えるような赤い髪の長身の男。
あれこそがこの国の王子、ルキルス・スカーレットだ。
変装しているものの、
殿下がエレシアに声をかけると、彼女の顔がぱっと明るくなった。
俺と話していたお姉さん的な表情とは違う、恋する乙女の表情に思わず
「ちょっ」
そして思わず声が出た。
二人は抱き合うと見つめ合い、キスをした。
おいおい……毎日学園で会っていただろうに……節操ないな。
エリザだってまだここにいるのに。
いや……。
これは、
王子は私のものだと示しているのだ。
「何よあれ……最低」
エリザがそう
思わず横を見やると……うわぁ。
顔を真っ赤にして目に涙を
エリザの心がぐしゃりと
「やっぱり……私じゃ駄目なんだ。お姉様には勝てないんだ……。お勉強も。魔法も。ダンスも。見た目も。恋も。全部……全部……勝てないんだ」
常に優秀な姉と比べられてきたエリザの心の闇が漏れ出した。
そもそも年の差が……なんて言葉は、今の彼女にはなんの励ましにもならない。
彼女の生きてきた環境は彼女にしかわからない。
だがそれでいい。優秀な姉への劣等感に
あと五年。あと五年の辛抱だ。
「ちょっと長いな……」
あと五年。
その間には王子とエレシアの婚約というイベントも待っている。耐えられるか?
エリザがじゃない……。エリザは強い子だ。
耐えられる。耐えられてしまうのだ。
ゲーム内の彼女を思い出す。
初めて主人公とエリザが出会うイベント。
仕事で学園を訪れていたエレシアに見惚れていた主人公に、エリザが頭から水をかけるのだ。
歪んでいると思った。
ゲームでは「これもキャラクターの個性だよね!」と思っていたが、実際にまだ幼く、そこまで性格が曲がっていない今のエリザを前にすると、
姉と比べられて傷ついて。
五年間も劣等感に苛まれ、性格がどんどんねじ曲がっていく。
それでもエリザは耐えるのだ。
だから今、耐えられるかどうか心配しているのはエリザのことじゃない。
俺だ。
こんなにまっすぐに恋をしている子が負け続けるのを、黙って見ていられるのか?
そのうちいい人が来るからと、黙っていることができるのか?
いや無理だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます