②
ま、まさかこんなに早くお目にかかれるとは……!
エレシアの妹で同じくコーラル公爵家の令嬢、エリザ・コーラル。
彼女こそ、五人いるブレファンの攻略ヒロインの一人である。
現在の年齢は俺と同じ十歳。
姉のエレシアと同じ桃色の髪だが、エリザは可愛らしいサイドテール。目は若干ツリ目気味で、
「ちょっとエリザ〜。リュクスくんに
「……ふん」
優しい姉の言葉をそっぽ向いてシカトするエリザ。
本物キタアアアアアアア!!
いいね〜。エリザはああでなくては! 主人公以外には決してデレない。それこそ俺が大好きなエリザ・コーラルである。
リュクスである俺ににこやかに挨拶してきたらどうしようかと思ったぜ。
「ごめんなさいね。最近のあの子、誰にでもあんな感じなのよね」
「別に構いませんエレシア様。それにあまり大声を出すと、周りに気付かれてしまいます」
「そうね……。全くもうあの子ったら。勝手についてきたと思ったらずっと不機嫌で……困っちゃうわ」
「勝手についてきた?」
俺の疑問に「待ってました」とばかりに
「そうなの。実はこの後、殿下とディナーなの」
「殿下と!?」
「キャー言っちゃった言っちゃった! 内緒よ、絶対内緒なんだから!」
顔を真っ赤にしてキャーキャー言うエレシア。はい可愛い。
突然だがここでコーラル姉妹の複雑な恋愛事情を解説しよう。
まず殿下こと、この国の王子であるルキルス・スカーレットとエレシア・コーラルは同級生で両思いの恋人同士である。
十歳の時のパーティーで初めて出会い即、恋に落ちた。学園入学以降は毎日のようにイチャイチャし、卒業と同時に婚約する。
ところが実は、妹であるエリザ・コーラルも王子であるルキルスに片思いしていて、姉に対抗心を燃やしているのだ。
ルキルス王子からは恋愛対象外として全く相手にされていないが、姉のエレシアはエリザからすれば恋のライバルだ。
いや、改めて整理してみると全然複雑じゃない、ただのエリザの横恋慕だったわ。
エリザは、姉と王子がこのグランローゼリオでお忍びデートするという情報を聞きつけ、わがままを言ってついてきたのだろう。
そして、お忍びだというのにわざわざ俺に声をかけてきた姉エレシアの狙いも読めてきた。
おそらく、デートに邪魔なエリザを俺に押し付けようとしているのだ。
でなければ、お忍びで来ているのに俺に声をかけてくる訳がない。
ゲームでは見えなかったエレシアのちょっと腹黒い部分が見えてきて複雑だが、俺としてもヒロインに接触できたのは幸いだ。
何故ならゲームでのリュクスはエリザとの仲が最悪だったから。
エリザルートではそれが原因で主人公と対立し、リュクスは大事件を起こす。
その結果、エリザと結ばれた主人公に、物語中盤で殺されることになる。
もちろん悪役を辞めた俺は敵対することは一切ないが、エリザから一方的に嫌われてしまっては元も子もない。
万が一の死亡フラグを避けるために、モブとして当たり
「エレシア様。エリザをしばらくお借りしてもよろしいですか?」
「エリザを?」
「はい。久々に会ったのでいろいろと話したいこともありますし、何より一緒に遊びたいのです」
「でも……」
エレシアは心配そうにエリザの方を見る。
まぁ、そういう演技だろう。内心では俺の申し出を喜んでいるはずだ。
何せ、エリザと俺が遊んでいれば、殿下と二人きりになれるのだから。
そこに、ジョリスさんが割って入った。
「ご心配なく。私が護衛をしておりますので。妹君は命に代えてもお守りいたします」
「それなら安心だわ。じゃあリュクスくん。エリザと仲良くね……ああ、それにしても。君は本当に見違えたわね。まるで別人みたい」
エレシアはにっこりと笑う。
そして、俺の耳元で
「私もわがままな妹じゃなくて、君みたいに賢い弟が欲しかったな」
それはこの世界で初めて聞いた、ぞっとするほど甘く、優しい声だった。
ブレファンの攻略ヒロインは全部で五人。
その中でもエリザ・コーラルは異色のキャラクターだ。
何しろゲーム開始時、主人公以外の男――ルキルス王子に恋をしている。
容姿も性格も能力も全て自分より上の
一挙手一投足を姉と比べられ、
元々攻撃的だった性格はより凶暴になり、周囲の人間を言葉で傷つける。
それは主人公に対しても例外ではなかった。
二人の出会いは最悪も最悪。
しかし、反発し合っていた二人はふとしたきっかけから互いを意識するようになる。
姉エレシアを知らない主人公は、エリザと姉を比べることなく、純粋にエリザのいいところを好きになっていく。
学園でのイベントを過ごしていくうちに
そして、ついに主人公がエリザへ告白しようと決意したその時、姉エレシアの死という衝撃的な事件が起きる。
王子の次の婚約者に選ばれたのは妹のエリザ。
コーラル家のためにもこの婚約は避けられない。
だがエリザの気持ちはもう主人公に向いていた。
どうする主人公!?
どうするエリザ!?
「いやー最高のストーリーだぜ!」
「急にどうしました坊ちゃん!?」
「す、すみません取り乱しました」
ジョリスさんに突っ込まれて我に返る。
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