⑤ジョリスSIDE


「兵士長……その腕……」

「ええ、折れていますよ。医務室で高めのポーションを飲む必要がありそうですね」


 若い兵士がリュクスを屋敷へと運び去った後。

 その場にいた熟練の兵士たちが集まってきた。

 話題は先ほどの戦いについて。

 ジョリスはリュクスと戦うことになった経緯を簡単に説明した。

 生意気な子どもに現実を教えてやるくらいの気持ちだったのだが。


「最後の一撃には思わず本気のカウンターを決めてしまいましたよ」


 ジョリスは赤黒くれた右腕をさする。

 リュクスから最後の一撃を受けた時の衝撃でこうなってしまったのだ。


「いやしかし、坊ちゃんがあそこまで動けるとは思わなかった」

「前に訓練に参加したのは一年くらい前だっけ?」

「あの時は酷かったなぁ」

「でも兵士長の腕が折れたのはどういうことだ? 使ったのはパワースラッシュだろ?」

「ふむ……考えられるのは、坊ちゃんの持つ魔力の量が桁外けたはずれということでしょうか。通常10込めればいい魔力を坊ちゃんは1000込めた……それならば説明がつきます」


 ジョリスの言葉に、みんなが息をむ。


「た、確かにそれなら説明はつきますが……」

「それでも兵士長の守備を超えてくるほどとはとても……」

「わかりませんよ? 何しろ坊ちゃんは魔眼の子なのですから」


 魔眼という言葉にみんなが押し黙る。

 魔眼の子は国に災いをもたらす。

 それはここ、ローグランド王国で古くから言い伝えられてきたことだ。

 数百年前の魔眼の子が魔王になったように。

 リュクスもまた何か大きな災いをもたらすのではないかと、みんなが恐れている。

 だが、ジョリスには関係なかった。


「坊ちゃんの兄であるデニス様も、お父上である当主様も剣の腕前はさっぱりでした。私は退屈でした。ですが坊ちゃん……リュクス様は違う。あれは鍛え甲斐がいがありますよ」

「へ、兵士長が……」

「ブツブツつぶやきながら……」

「笑っている……」

「学園に入るまでにリュクス様を最強の剣士に……いやそんなに待てませんねぇ。ああ、そういえば十年祭では同年代の子どもたちの剣術大会が開かれるのでしたね。まずはそこで優勝することを目標に据えてみましょうか。さぁ、楽しくなってきましたねぇ」


 普段全く笑わないジョリスの笑み。

 魔眼の子よりいにしえの魔王より、兵士たちにとっては、目の前のこの兵士長ジョリスが一番怖い存在なのだった。

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