②
* * *
「リュクス様。朝食の準備が完了いたしました」
「わかった。今行くよ」
扉の向こうから声がした。
迎えに来てくれたモルガの後に続いて食堂へ向かう。
その道すがら、何人かの使用人とすれ違う。
みんな
呪われた魔眼持ちを畏怖しているのはわかる。
けれどこうも露骨に目線を
モルガは気さくに話してくれたからうっかりしていたが、それ以外の人間と対面したことで、自分がリュクスなんだ、という実感が湧いた。
「そういえば」
ゲームで戦った時の魔王って、常に魔眼という訳じゃなかったよな?
通常時は普通の目で、ラスボス戦闘に突入した時にカットインが入り魔眼に切り替わるという特殊演出があった。
つまり、魔眼は本来オンオフが可能ということになる。
えっとどうやるんだろう……とりあえず声に出してみる?
「静まれ……静まれ俺の魔眼よ。静まってくれぇ!」
「うわ、なんですか急に!?」
「ご、ごめん……」
少し声が大きかったのか、モルガを驚かせてしまった。「うわぁなんだコイツ?」みたいな顔をされている。
「ちょっと魔眼をオフにしてみようと思ってさ」
「おふ……?」
モルガが
「魔眼の発動をやめて普通の目にしておくってこと」
「そんなことできるのですか?」
「できるさ」
今度は声に出さずに、目を閉じ静かに念じてみる。
すると、眼球からエネルギーが抜けていくような感覚になったので、そっと目を開けてみる。
「どう?」
「はわわ! 本当に魔眼じゃなくなりました!
「似合う?」
「とっても似合います! 絶対こちらの方がいいですよ、リュクス様!」
「そ、そう? なら普段はこっちでいようかな」
気味悪がられるのではなく、
う……うめぇぇぇえええ〜〜〜〜!
パンとスープ、スクランブルエッグ、ソーセージを
食堂に移動した俺は、沢山のメイドや執事に囲まれながら朝食をとっているところだ。
健康な体ってサイコ――! 沢山食べられるって幸せだ……。
前世では病弱な分、食も細くてこんなに食べられたことはなかったからなぁ。
「お、お坊ちゃま……」
そこに恐る恐る気難しそうな中年のメイドさんが話しかけてきた。おそらくモルガから聞いていたメイド長さんだろう。
もしかして、テーブルマナーとか注意されるのかも、と身構える。それとも、封じ込めた魔眼のことを
「今日のお食事はお気に召したでしょうか?」
「すごく
「い、いえ。普段なら肉を見れば『こいつを生け
食べ物をそんな粗末に!?
誰だよそのクソガキ……あ、俺か。
そういえば食事中、みんな随分と緊張しているなと思っていたがそうか。いつリュクスの……俺の奇行が始まるかと身構えていたのか。
なるほど、気苦労をかけていたようだ。
「えっと、今までのことは本当に申し訳ありませんでした。これからは真面目にやっていくので、どうかよろしく。あと、今まで俺の奇行を見守ってくれて、ありがとうございました」
「
ホッとしたようなメイド長さんの言葉。だがその表情は
何か裏でもあるのではないか? と探っているような。
それは仕方がない。
生まれが不幸であることに任せてやりたい放題やってきたリュクスの信頼度はゼロを通り越してマイナスだろう。
ここから頑張って、この人たちの信頼を取り戻していくのも、今後の課題の一つになるだろう。
* * *
「屋敷の中を案内してくれるかな?」
朝食を済ませた後、モルガを捕まえて尋ねてみた。
「もちろん構いませんよ? でも、それならちゃんと命令をしていただけますか?」
「命令?」
「はい! 私、この後トイレの掃除をしなくてはならないんですけど……」
モルガは悪びれることなく言った。
「リュクス様の命令は優先順位が上なので」
「なるほど。いいよ。それじゃ命令だ。俺に屋敷を案内してくれ」
「喜んで!」
モルガについて回って、屋敷の中を案内してもらう。
その最中、何度か屋敷の使用人たちとすれ違ったので挨拶をしてみた。
みんな普通に返事をしてくれてから「はっ」と驚いてこちらを振り返った。
魔眼による生理的嫌悪感がなくなったことに気が付いたのだろう。
「今、目が青かったよね?」なんてひそひそ話も聞こえてきた。
魔眼さえ封じれば、意外と早く
「順番に案内しますね」
食堂や書斎。トイレやシャワーなどが現代日本風で笑ってしまった。
元がゲームだから仕方ないが、ガチ中世のトイレだったら耐えられたか不安だったのでありがたい。
地下に当主とその家族専用の大浴場があったのは
「今日からは毎晩こちらをご利用ください。我々メイド見習いが交代でお体をお流しいたしますので!」
「いや自分でやるからいいよ」
「えええええええええええ!?」
「そんな驚く!?」
「り、リュクス様……せっかくお変わりになったのに……お
そこは前からなのか。
ってかリュクス
「わかりました。では右足だけ。右足だけでいいので洗わせてください」
「何がわかりましたなの!? 何もわかってないよね!?」
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