一章 ゼルディア家
①
一夜明け、次の日の朝。
「むっ……朝か」
貴族という言葉から連想される
「ゼルディア家は倹約家……か」
昨日得た知識を
あの後、廊下で暇そうにしていたメイド見習いのモルガを部屋に招き、いろいろと質問した。
設定資料集まで読み込むほどハマったゲームの世界だったが、俺の持っている知識が本当に正しいのか、その
この国の名前はローグランド王国であること。
ここはゼルディア公爵領の当主の屋敷で、当主や次期当主の兄はほとんど家におらず、魔眼持ちのリュクスを一族の恥だと思っていること。
それに絶望したリュクスは「みんな死ね〜」が口癖となり、悪魔召喚の儀式にハマってしまったこと。
その他、様々な地名や人名を聞き、俺はここが『ブレイズファンタジー』の世界であるということを確信したのだ。
ということは、主人公やヒロインたちも、この世界に存在する。
いや当たり前の話なのだが、リュクスとして生きていく上で、これは重要な事柄だ。
ゲーム『ブレイズファンタジー』のヒロインは五人いて、主人公がどのヒロインとくっつくかで、ストーリーは大まかに五つのルートに分岐する。
そしてリュクスは、全てのルートで殺される。
時に主人公に。
時にヒロインに。
時に敵の組織に。
お約束のように殺される。
俺が知る限り、リュクスが生き残るルートはない。
当然だ。
死んだリュクスから魔眼を奪って、初めてラスボスである魔王が完全復活するのだから。
そういうストーリーの都合上、死なない訳にはいかないキャラだったのだ。
ゲームをやっていた時は何も思わなかったが、いざリュクスに転生してみると、なんとも理不尽な話である。
ゲームの制作者、人の心とかないんか?
威勢よく「幸せになる!」と決意したものの、そもそも死亡が確定しているキャラに転生したので、まずはそれをなんとかしなければならない。
一晩考え抜いた末に、俺は一つの答えにたどり着いた。
「悪役を辞める。そしてストーリーをぶっ壊す。それしかない」
改めてゲームのストーリーを振り返ると、『魔王復活』や『人気キャラクターの死』などの悲劇的な出来事全てにリュクスという悪役が深く関わっていることに気付く。
ゲームのリュクスは悪役キャラクターという役割故、ヒロインに陰湿な嫌がらせなどをしていた。それをきっかけに、主人公とも敵対するようになる。
だがそもそもキャラ愛の深い俺が、ヒロインに嫌がらせをしたり、敵対したり、ましてや殺したりする訳がない。むしろそういうことがないように、ささやかに守って差し上げるのが使命というもの。
この時点で、俺が中ボスとしての役割をこなすことは不可。
つまり、俺がリュクスに転生して、死亡回避を望んだ時点で、ゲームがぶっ壊れるのは必至な訳である。
戦闘パートのメインストーリー一番の盛り上がりどころであるラスボス、完全復活した魔王との戦いが全く行われないことになってしまうが、構わない。
そういう巨悪との生死を懸けた大決戦はゲームだから面白いのだ。
今やここは現実。魔王と戦う状況にならないことこそが、みんなにとって望ましい。
それに俺がまっとうに生き延びることができれば、魔王が完全復活するということも起こりえない。
俺が悪役を早期辞退することで、煩わしい中ボスは消滅。主人公とヒロインたちに残るのは、平穏な恋愛パートだけ。後はひたすらモブに徹し、主人公たちを見守るのだ。
そう、モブに――俺はなる!
大好きなキャラたちの日常を間近で見られるのなら、ファンとしてそれが一番の幸せである。
ところがそう簡単にはいかない。俺の平穏を脅かすであろう悪の組織がまだ残っている。
ブレファンは、数百年前に魔王が倒されている平和な世界だ。
だが、魔王を復活させるため、暗躍している組織が存在する。
それが魔王復活教。
七人の大魔族をリーダーとした悪の軍団である。
ゲームでのリュクスはこいつらにさんざん利用され、魔眼を奪われるのだ。
こいつらの行動に関しては、正直読めない。
ゲームではリュクスが偶然魔王の魂を呼び出したことをきっかけに、奴らの仲間に加わる。
もちろん俺は悪魔召喚なんてもうしないので、魔王の魂を呼び出すことはない。
だから、奴らと関わることなく暮らせるはずなのだが。
「いや、俺が魔眼を持っている以上、必ずどこかで接触してくるはずだ」
そして魔王の完全復活には、魔眼が必要不可欠だから。
リュクスとして生きている限り、必ずどこかで魔王復活教と接触する。
「魔王復活教……ゲームでも厄介だったけど、転生しても変わらず煩わしい連中だとは……」
悪役にならないことで、メインキャラに殺されるという未来は回避できるだろうが、魔王復活教に殺される可能性は残っているって訳だ。
入信を断れば、魔王復活教と敵対――一方的に俺は狙われることになってしまう。ならば自衛のためにも強くなるしか……ないよな。
「今度こそ幸せを
そう決意を固めた。
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