弓が引きたい。
数時間経って離陸するまで、京は恐怖と戦っていた。その為もう疲れている。
「京君、少し休む?」
「いえ…休みたいです。」断る事は出来なかった。
オーストラリアに着いて十分程経ち、ようやく動き出した斎藤と京は大きな専用車で目的地まで向かう。e01yはあまり評判が良くないためgpp1であった運転手は少し怯えていたが、京は何もせず楽しそうにあや取りをしていたためほっとした。
「ここです。」窓から外を見る。日本とはまた違う家が並んでおり、斎藤は気にせず降りたが京は降りるだけでドキドキだった。
「ありがとう御座いました。」京がお辞儀すると運転手は慌てた様子で頭を下げる。
二階へ向かい、インターホンを押す。数分経って二人組の男が現れた。斎藤も男二人も身長が高いため京だけ見上げる形になった。
「はじめまして、斎藤珠姫といいます。」恐らく英語で話している。そう思いながら京は黙っていた。何を話しているかは分からないが表情を見る限り話は良い方向へ向かっていた。
「京君、この方々は新しくgpp1に入るの。少し、話がしたいから私が訳すね」
「ありがとう御座います。」二人は招かれる形で家にお邪魔する。綺麗な内装と畳でない事に少しの喜びがあった。
カフェラテの様な髪色の男は京に話しかける。
「よろしくね、」海外よりだが上手な日本語に驚くが、その隣の金髪の男はもっと凄かった。
「俺はルネスタ、隣はウットと言います。」
「あら、お上手」斎藤も驚いている。
その後はひとまず英語に戻り京は組織についての説明をした。e01yは言葉を使う分、語彙力と文章力を鍛えられているため話は早く進む。
「以上です。」京が話し終えた所で電気が消えた。途端に銃撃音が鳴り響く。
「いきなり戦闘かしら?」斎藤は冷静だが面倒くさそうだ。
「e01yだ…」京は青ざめた。e01yの銃は人を殺す為に作られていない為、普通の銃とは違う音がするのだ。「e01y?」ルネスタも至って冷静だった。
「とにかく今は逃げるべきです。」
「そうね、京君が一番危ないと思うから護衛は二人がして、私は捕まえてくるわ」
部屋の出口はドアか窓しか無い為、ひとまず三手に分かれて出口を探したがどこも開かない。京がドアを開けようとした時、e01yの証拠である様なモノの御札がドアノブの下にあった。[鎖し]と記されているため出ることは出来ないとを暗示していた。
「くそ…」京は冷静になる事が苦手で、既に随分焦っている。
「落ち着いて、京君、何かできる事ある?」
「じゃあ、、カッターを下さい。」何とか理解したウットがある袋からカッターを取り出して京に渡す。「ありがとう御座います…あの、大丈夫ですか?」京はウットの体調が悪い事に気づいた。ウットは血の気が引き、話すのもキツそうだ。
三人はしゃがみながら札を剥がしていく。ルネスタが京の言葉を翻訳し日本語で「またか…」と呟いた。またと言う事は良くあるのだと考えつつ、京は力を使っていく。剥がす為には何度も言葉を唱える必要があるので京は一度リビングまでいくと斎藤の鞄から水を取り出してまたドアに向かい水を飲んでは唱えるをくり返した。
「京君!後、もって十五分ってとこかな、」斎藤の声が聞こえる。斎藤は2131にしか使えない、死者の元へ行くという力を使って外に出ていたのだ。
京が苦戦していると、ますますウットの体調が悪化していた。ウットの様態を少し確認する。
「吸いすぎだ。」
「どうしよ…」ルネスタも必死で対応していたが知識にも限界がきている。「ウット、できるだけ長く息を吐いて」ルネスタが翻訳するが、もうウットには届いていない。ウットはもうルネスタに掴まっていないとしゃがんでいる事さえ出来ない様子だ。京も頭をフル回転させながらとにかくウットを楽にさせようと肩を貸した。
呪文をして終わった所で「キスしろ!」京は咄嗟に思いついた言葉を口にしたが、間違えて力を使ってしまった。
「ヤバい…」再び青ざめる。京はカッターと取った札で新しい札を四枚作り、二人に手渡すと急いで部屋を出て行った。
一階へ向かう途中の階段でe01yの一人が抑えられているのが見えた。これでe01yの隊員は29人となる。
「あれ、二人は?」少し血の滲んだ額を拭いながら斎藤が階段を走ってきた。
「嗚呼…無事です。珠姫さんは?」
「大丈夫。かすり傷よ」下を見るとgpp1の運転手が二人に合図を送っている。「マズいかもね」斎藤の言葉を待っていたかのようにそのマズい事は起きた。
京が地面に叩きつけられる。「京。お前のせいだぞ、皆辞めさせられる。お前がチクったりするからだ、どうすんだよ、何人死んだと思ってんだ!!」e01yの佐谷田誠だ。その後ろに八乙女来夏もいる。
「死んだんじゃないでしょ、この組織に入る前から死んでたのよ。それを何?人のせいにしてるの」斎藤が煽りを入れる。
「五月蝿い女は黙ってろ」来夏が瞬時に札を斎藤に付けた。「んわ…」二つに裂かれた札を持った斎藤が溜め息をつく。
「貴方達、よくオーストラリアまで来たね、そこを尊敬するわ。あぁ、ちょっと。話してる時に攻撃は反則よ」京を殴ろうとした誠の手が止まった。gpp1の運転手だ。
「俺達はお前が大嫌いだ。気持ち悪いんだよ、その格好も、性格も、何もかもな」無言で打ん殴る京。一応と持っていたカッターを手にした。
「京様、それは駄目です。」運転手が止めに入る。
「うん…。」京が手の力を抜いた途端、誠がカッターを奪い、京は避けようと力を入れたが気絶してしまった。無論、カッターは奪われ、運転手によって誠も気絶、来夏は逃げようとするが遅れてやって来たウットとルネスタに斎藤が指示をした。
「両手を捕まえて!」ルネスタがびっくりしながら来夏の手を掴む。来夏は一般人のルネスタより圧倒的に強い力を持っていたが両腕を掴まれては何もできなかった。
「クソ、なんでよ!死ぬべきはアンタよ。私も皆も幸せだったのに!!死んでしまえば…死ねばっ」ウットが来夏の肩を叩き、少しの静寂ができた。
「君は今混乱している。少し落ち着くべきだと思うよ、俺は全く君の言葉を理解出来なかった、でも君が京を悲しませている事は分かる。」英語だ。
「何言ってんのか分かんないわよ」
「あ、そうだな、ごめん。英語は分かんないよな…。えっと、翻訳いる?」運転手に視線を送る。
「君は落ち着くべきだ」
「君は落ち着くべきだ」
「俺はよく、薬をぶち込む」
「俺はよく…えっなんて?」
「もう、何なのよ」来夏は抵抗する気が失せたようで、手を上げた。
それから、ウットはルネスタの肩に掴まりながら、来夏はルネスタに背中を押されながら。京は運転手に抱かれ、誠は斎藤に担がれて車に向かうことになった。
「どうしよっかね、」
「好きにすると良いわ。もう、どうでもいい」来夏は外を見たまま涙を浮かべていた。
「別に私、貴方の事嫌いじゃないわよ。オーストラリアまでよく来れたわね、その行動力に免じて2131に承認してあげる。お隣の子もね、」
「なんで…」
「あっ、ごめんだけど一番最初に会った子は無理よ。あの子は改心なんて無謀だわ、何度もチャンスをあげたのに残念」来夏は今度は斎藤の顔を見た。「アンタ、いつ死んだの…?」
「いつだったかね、第二次世界大戦が終わる頃にはこの組織の駒になってた。」
「そう…」他に何を話すでも無く全員外を眺めている。
数分が経ち、京が起きた。が、周りの静かさにのって静かにしていたため、来夏が小さな悲鳴を上がるまで誰も気づかなかった。京の隣に座っていたウットが寝ている京の手を取った。
「ありがとう、助かったよ。」
「てんきゅー…ありがとうって…嗚呼、ノープロブレム。というか、ごめんね間違えて変な事しちゃって」
「ごめん?…Sorry、え…謝らないで。ごめん…」
「Sorry??え、何で謝るの?」斎藤とルネスタ、運転手は笑いを堪えている。京は来夏に助けを求めたが来夏は可笑しそうに笑うと「私もごめん、やった事は償うわ」と謝ってきた。
「待って、謝罪の言葉はもう十分だよ…」
京物語 一都 時文 @mimatomati
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