第13話 襲来

 *** 新島家 ***


 午後5時過ぎ、祐樹は初めて新島家へやってきた。

 永遠から聞いていた通りいい一軒家である。


 玄関のドアが少し開いていた。


 永遠の叔父さんは独身で子供がおらず祝日も仕事のはずで、祖母は日話し相手を求めて日中は手芸教室に通ていると聞いている。

 今、家に居るのとすれば永遠の可能性が高いはずなのだが、鍵が壊されてこじあけられた形跡がある。

 

 祐樹は黄色いレインコートの女の仕業かと直感した。


 額から汗がにじみ出る。

 祐樹は永遠の不在を願った。


 意を決して家の中に入る事にした。

 もしかしたら永遠が中に居るかもしれない。




 祐樹はバックから包丁を取り出し柄を握り締めた。


 最悪の事態を想定しながらも慎重に少し開いていた玄関を開いた。


 祐樹は勇気を振り絞って足を進めた。

 二階に上がり

 TOWAと書かれたプレートの下げられらた扉を見つけた祐樹はそこが永遠の部屋であると確信した。


 意を決して扉を開けると部屋には誰いない。


 しかし、そこには恐れていた事態が待っていた。

「な、なんだこれは」


 そこには見るも無残に切り付けられた壁があった。

 おおよそ何かによって八つ裂きに割かれえぐれた壁や家具は到底人間のしわざとも獣のしわざとも思えない。

 なにか恐ろしい未知の名状しがたい何かによって行われたと考えるしかない。


「どうなっているんだ??」


「あぁっ!!? 何だいこれは!!???」

 一階の玄関あたりから人の声が聞こえた。

 永遠の祖母が丁度帰って来たのである。


 祐樹は部屋を出て階段を駆け下りた。

「ばぁちゃん!! 警察呼んで! 永遠を探して!!」


「祐樹?? こりゃぁ一体どういうことだい?? 包丁なんて持って……」

「話は後だよ。永遠が行きそうな場所しらないか?」


「行きそうな場所って言ってもねぇ、こっちに来て日が浅いからそう行く場所もないだろうけど……。

 あぁ、そう言えば東京タワーにならなんでか良く通っていたわねぇ。今日もそこに行ったかもしれん」

「東京タワー!! 俺、行ってみます」

 祐樹は新島家から駆けだしていった。


 *** 放送局 控室 ***


 河合満里奈は渋っていた。


「森プロデューサー。本当にこの曲歌わなくちゃいけないんですか?」

「もちろん。皆が待っているからね」

「私、この曲あんまり好きじゃないんです。全部造語なのに発音に厳しいし、おおよそ人間に出せる音じゃないですよ」

「でも君は歌う事が出来た。それで十分だろう」


「でもぉ……」

「満里奈くん。孤児だった君を拾い上げてここまで育てたのは私だ。受けた恩は返さないと駄目ですよ」

「……」


「河合満里奈さん。スタジオに入ってください」

 ADが迎えに来た。


「さぁ、行くんだ。」

 満里奈は後ろ髪を引かれる思いで控室を後にした。


 *** 東京タワー 展望台 ***


 東京タワーはスカイツリーに東京の観光名所の冠をとられてしまったが、いまだ人気のあるスポットである。


 永遠はそこに居た。

 胸に抱いたクティーラへ話しかける。

「食事が整うまであと少しです。辛抱ください」

 クティーラはゆらゆらと揺らいで答えているように見える。


 時間は七時前、

 永遠はイヤホンを耳に付けた。

 オーディオプレイヤーから7時間音楽祭のラジオ放送が流れる。

 もうすぐ時間である。

 永遠は期待に胸が躍り高揚感が停まらない。


「永遠!!!」

 祐樹がエレベーターから降りてきた。


「祐樹。今は駄目よ。忙しいの。もうすぐ永遠が手に入るのよ」

「何言ってるんだよ。探したんだぞ。黄色いレインコートの女を見なかったか?」


「何よそれ? それより私は――」

 そう言いかけて、永遠はクティーラに話しかけるように「そうおっしゃるなら、私は後にします」


 永遠は祐樹に向き直り、イヤホンを外しオーディオプレイヤーの電源を入れたままポケットに突っこんだ。

「その黄色のレインコートの女について詳しく説明して頂戴」


 永遠の包帯姿が気になったが、祐樹は事のあらましを説明し始めた。



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