第12話 電話

 新島家の電話の呼び鈴が鳴った。

「はい、もしもし。新島です」

「永遠か??」

「祐樹? どうしたの急に」


 永遠が受話器を取ると相手は祐樹だった。

「永遠の親父さんを知ってる人が来た。永遠の事探してる」

「えっ」

 永遠は色めき立った。念願だった父親の消息が判明するかもしれないと期待したのだ。

「逃げるんだ! そいつ危ない奴で永遠の事殺そうとしている」

「どういうこと?」


「どういう事か俺にもわからないんだが、とにかく黄色いレインコートを着た女に木を着けろ。悪い奴なんだよ」


「……」

「永遠?」


「私その人に会ってみたい」

「な、何言ってるんだよ!! 殺されちまうぞ。俺は刺されかけたんだ」


「でもお父さんの事何かわかるかもしれないし……」

 祐樹は言い知れぬ不安を感じた。

「俺もそっち行くから、家で待っていてくれ。明日の夕方前にはつくから最寄り駅に着いたら電話する」

 そういって祐樹は電話を切った。

 永遠までの家の道のりは何度もシュミレーション済みだった。


 祐樹は包丁の一本をタオルでくるみバックに押し込んだ。


 ”東京まで行ってくる”

 そうメモを残してタクシーを呼びバスターミナルを目指した。



 *** 新島家 ***


 その日の夜、永遠は夢を見た。


 ――とわ。――永遠。


 またあの夢である。

 今日は泡を押しのけてその建築物の中へ進んだ。

 深海に沈む大都市に永遠は胸を弾ませずにはいらえれなかった。


 ――永遠。明日は決行日だ。娘に供物を捧げよ。


 声のする部屋へ行くとそこには恐ろしいくも神々しい者を見た。


 イカやタコに似た頭に六つの瞳。

 顎からは触手を無数にはやし、背からは蝙蝠の様な翼を持った者。


「あなたは誰?」


 ――私の名。それは其方が良く知っている。


 ピピピピピピ。

 甲高い音が鳴り響いた。


 朝をつげる目覚ましの音である。

 寝汗がすごい。

 見るとタダレが広がり巻いていた包帯から出てしまっている。

 タダレは鱗状のように悪化している。

 永遠はシャワーを浴び、包帯を巻きなおした。


「今日は決行日だ。準備をしなければ……」


 今日は祝日。いつもの学生服ではなく淡い水色のワンピースをを着こみ。クティーラの入った瓶を腹に抱えて家を後にした。



 *** 繁華街 ***


『今日三時からは7時間生放送音楽祭!』

 永遠は歩く足を止めた。

 デジタルサイネージではTVでやる音楽番組の広告が流れていた。


『河合満里奈ちゃんの新曲初公開です! ラジオともコラボ放送しているので是非お見逃しなく!!』

『満里奈ちゃん、意気込みの方はどうですか?』

『変わった曲なので心配ですが森プロデューサーを信じるしかありません』

『これは意味深発言! 楽しみに待ちましょー。満里奈ちゃんの登場時間は夜7時頃になります』

『皆、見てね~』


 永遠はCMを見届けるとまた歩き出した。

 良く知っている見晴らしのいい場所へ向かって。


 *** XXX駅 公衆電話 ***


 プルルルルルルー、プルルルルルルー

 呼び鈴はなるが一向に出る気配がない。

 受話器を戻すと祐樹は電話ボックスから出た。


「くそっ。なんで出ないんだっ」

 祐樹が最寄り駅まできついたので永遠と連絡を取ろうとしたが肝心の永遠が出ない。

 焦りを感じずにはいられない。

 あの黄色のレインコートの女を思い出すと嫌な感じがして仕方がない。


 あの怪力女が永遠に何かするかもしれないといういいしれぬ予感がしていた。

 もしかしたらもうそれは起こってしまっているかもしれない。


「永遠の家へ行こう」


 祐樹はタクシーに乗り新島家へ向かった。

(家に居てくれよ、永遠……)

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