第11話 タダレ
*** 東京 ***
引っ越してからと言うもの、永遠と祐樹は学校のPCを使ってメールのやり取りをしていた。
時々電話も使うが、家電を借りるのに申し訳なさがあるので遠慮したのだ。
拝啓、田代祐樹様
空がより一層青く夏らしくなってきましたね。
そちらの空はどうですか?
こちらは以前の町と一緒で空も海もよく見えます。
こんなに離れているのに同じものを見ているなんて不思議ですね。
今自習室に居るのですが勉強は満里奈ちゃんのインスタを閲覧したりしてちょっとさぼっています。
満里奈ちゃんのインスタには定食屋うおまるで取ったクティーラの写真が載っているのですが満里奈ちゃんの斜め対面に居たために私もちょっと映り込んでいます。
せっかくなので見てみてください。
ではまた。
永遠は彼女らしい少し堅苦しいメールを送信した。
そして勉強に戻った。
東京に来てもオーディオプレイヤーを永遠は好き好んで使っていた。
ラジオから録音した英会話の放送を聞くことに使っているが最近はもっぱら河合満里奈のラジオ放送を聞くことにも使っている。
本体にスピーカーが付いておりでイヤホンを外すと音が広範囲に聞こえるようになっている。
永遠は祐樹ために寄宿舎のある高校へ進学する予定である。
永遠と祐樹では偏差値に差があったが、永遠は特進クラス、祐樹は普通クラスを受験をすることでまとまった。
すべて順調に思われていたが、永遠の体には不調が現れていた。
左眉の上ら辺と右腕の肘下の皮膚がタダレたようになってしまったのだ。
医者の診察によると原因は判らず、おそらく環境変化によるストレスによって引き起こされたのだろうという事である。
永遠は包帯を巻いて生活するようになった。
*** 定食屋 うおまる ***
「じゃあ、祐樹。今日は組合の会合があるから、もう閉店するからね。掃除して包丁研いでおいてね」
「へーい」
そうして祐樹は両親を見送った。
「受験生の大事な時間を奪わないでほしいんだよな~」
そういって箒で床を掃く。
テーブルの上には包丁が5本。
「こりゃぁ大仕事だ」
その時ガラガラッっと入り口が開いた。
「あ、お客さん。残念だけど今日は閉店だよ」
扉の前には雨が降っていないにもかかわらずセーラー服の上に黄色のレインコートを着た女学生が居た。
「アイツの娘はここか?」
「アイツ? 誰の事だ?」
女学生はスマホを取り出した。
「コイツの事だ」
それは満里奈のインスタ画面でクティーラの横に永遠が端に映りこんでいる。
「アイツって父親の事知ってるのか!!?」
「とぼけるな!!」
そう叫ぶと女学生はテーブルにあった包丁をつかみ取り祐樹に振りかざした。
すんでのところで箒の柄の部分で留めたが二撃目は止められそうにないほど包丁の刃は柄に食い込んでいる。
「うそだろっ??」
「アイツの娘の居場所を教えろ」
「知ってどうする」
「……こうするのさ!!」
――ッ!!
女学生の二撃目を祐樹は反射神経で交わした。
しかしその包丁は壁の柱に深々突き刺さっている。
古い建物とはいえ人間のできる技では到底無理な怪力である。
少女は突き刺さった包丁を引き抜いた。
「次は殺すぞ。さぁ、アイツの娘の居場所を教えるんだ」
女学生は祐樹の目を見つめた。すると祐樹の体から自由が奪われてしまったかのように体が硬直した。
クラクラと脳が揺れているような感覚に襲われた。
「東京のX▽XーX〇XXにいる」
祐樹は足から崩れ落ちた。
話すつもりのなかった永遠の住所をなぜか話してしまった事が不思議でたまらなかった。
それは自分の意志とは無関係にとった行動であり、まるで操られたかのように感じていた。
女学生は黄色いレインコートを翻しその場から立ち去った。
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